◇SH1582◇弁護士の就職と転職Q&A Q30「法律書以外の本を読むメリットはあるのか?」 西田 章(2018/01/15)

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弁護士の就職と転職Q&A

Q30「法律書以外の本を読むメリットはあるのか?」

西田法律事務所・西田法務研究所代表

弁護士 西 田   章

 

 年末年始は、大規模事務所で超多忙な日々を過ごしているアソシエイトにとっても、一瞬だけ継続中の案件を忘れて「2018年をどう過ごしたいか」を考える貴重な機会でした。あるアソシエイトからは「案件で仮想通貨を勉強しなければならない」「債権法改正でも読まなければならない本が溜まっている」との発言に続き、「法律書以外を読むのに時間を使うメリットはないですよね?」との質問を受けました。今回は、それに対する私見を述べてみたいと思います。

 

1 問題の所在

 渉外系法律事務所は、所属弁護士毎に設定される時間単価に稼働時間を掛け合わせることでリーガルフィーを算定するシステムを採用しています。そのため、稼働時間が多いほど、事務所の売上げに貢献することができます。同期が何十人もいる大規模事務所であれば、それぞれ別々の事件を担当している同期アソシエイトの間において、唯一、比較可能な客観指標は「稼働時間」ですので、競争心の強いアソシエイトほど、自己の稼働時間を増やすことに意義を見出す傾向があります。経済的にも、給与が歩合給型であれば報酬は増えますし、固定給型でもボーナスでプラス査定を得られそうです。そのため、「ノンビラブルの時間=無駄な時間」という価値観が生まれるのも止むを得ない部分があります。

 また、「弁護士としての成長」という面でも、若いうちは、仕事の効率性よりも、時間を費やすことが大切です。いきなり「要領がよいリサーチ」を求めるのではなく、まずは「徹底的に調べ尽くした」という経験を持つことが大切です。案件の数をこなすことにも意義があります。ある種の案件の経験数がゼロと一とには大きな違いがありますし、一件だけよりも、五件に関わったことがあるほうが依頼者から信頼されるに足る経験値を獲得できます。

 ただ、「タイムチャージ方式の下では、稼働時間が多いほど事務所の売上げに貢献する」というのは、「案件を取って来るパートナーがいる」ことが大前提となっています。いつまでもアソシエイトではいられないので、「稼働時間が多いことが、案件獲得力(営業力)に結び付くと言えるかどうか?」も考えておく必要があります。たとえば、依頼者から「年末はいつまでお仕事ですか?」と尋ねられた際に、「大晦日まで仕事です」と回答することが好感度を上げるのだろうか、「この数年間、法律書以外の本を読んだことはありません」とコメントする弁護士に対して、依頼者は相談をしたいと感じるのだろうか、そういう点からも考えてみなければなりません。

 

2 対応指針

 「自分の忙しさ」をアピールすることは、所内的にパートナーからのアサインを断るためには役立つかもしれませんが、対外的な信頼にはつながりません。

 「営業はパートナーになってから始める仕事」ではありますが、アソシエイト時代から知識や教養を蓄積しておかなければ、依頼者の信頼を得ることはできません。案件には手を抜けない中でも、なんとかして「ノンビラブルの時間」を確保する自己管理能力が求められており、捻出した時間を何に使うか?にセンスを問われていると考えるべきです。

 

3 解説

(1) 所外から見た「忙しさ」アピールへのマイナス評価

 渉外事務所のアソシエイトの中には、所内だけでなく、所外にも、「自己の忙しさ」をアピールしてしまう方もいます。依頼者からすれば、午前2時にメールを送って、すぐに返事をもらえたら、「自分たちの弁護士はこんな時間まで対応してくれている」と喜ぶこともあるかもしれませんが、業務時間内に送っているメールに対して、夜中に弁護士から返事をもらっても、「自分たちの相談への対応を後回しにされた挙句に、眠い頭で対応してフルチャージされている」という不信感を抱かれるだけです。

 タイムチャージで請求をする以上は、「適切に睡眠をとってミスのない仕事をしてもらいたい」と期待するのが当然なので、「睡眠時間を削ってまで(他社の)仕事をしています」と言うのは、同情の対象ではあっても、信頼の対象にはなりません。 

(2) 法律以外の知識蓄積のメリット

 法律以外の勉強をすることは、そのこと自体に意義があるのであり(もしくは、なくても好きだから取り組むのであり)業務に役立つから取り組む、というものではありません。しかし、「稼働時間信奉者」のアソシエイトに対して、敢えて、「法律以外の勉強をすることが弁護士業務にもプラスに働く」ことを伝えようとすれば、(将来の)営業面でのメリットが挙げられます。

 依頼者にとって、「法律知識が十分に備わっていること」は、外部弁護士選びの必要条件であっても、十分条件ではありません。どんなに頭が良くても、「何を考えているのかわからない」「業務時間後の姿が想像できない」ならば、「不気味さ」が残り、「いざとなったら、自分たちの意に反する行動をするのではないか?」という懸念が残ります。「不気味な人」は、信頼の対象になりえません。依頼者にとっては、会議の本題前のスモールトークも、会議後のエレベータトークも、弁護士を見極めるための貴重な情報収集の場です。出身地、家族構成、連休の過ごし方等も、「安心感を抱かせる」材料になります。

 「だったら、依頼者を接待すれば信頼してもらえるのか?」といえば、それほど単純なものでもありません。依頼者から「接待してもらったけど、店選びも秘書任せで、本人は料理にもワインにも興味がなさそうだった」という感想を抱かれてしまうと、営業面では逆効果です。

(3) ノンビラブルの過ごし方

 若いアソシエイトからは「では、何をすればいいのか?」という質問も受けますが、「足許の案件以外にどんなことに関心を持っているのか?」ということこそ、自己のセンスを発揮すべき部分です(他者に正答を求めること自体にセンスの悪さが現れてしまいます)。好きでもないのに司馬遼太郎を読む必要もなければ、ゴルフレッスンに通わなければならないわけでもありません。

 たとえば、冒頭部分のセリフにある「仮想通貨」についても、2年前に、まだ弁護士の仕事になるかどうかもわからない段階でブロックチェーン技術についての本を読み漁ったならば、その着眼点を評価してくれる人もいると思います。同じ本を読むにも、流行ったものを後追いで慌てて勉強するのとは違った意味が生まれます。

 あたらしいことに注目する余裕がなくとも、自分のアイデンティティに関わる部分(出身地の歴史等)については、依頼者との会食等でも取り上げられやすいテーマなので、一言、二言のコメントを述べられるような準備はしておいてもよいと思います(そしてそこから連想ゲーム的に関心を広げていければ、なおよしです)。

以上

 

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