◇SH1313◇日本企業のための国際仲裁対策(第47回) 関戸 麦(2017/07/27)

未分類

日本企業のための国際仲裁対策

森・濱田松本法律事務所

弁護士(日本及びニューヨーク州)

関 戸   麦

 

第47回 国際仲裁手続の終盤における留意点(2)-ヒアリングの準備その2

2. ヒアリングの準備

(2) 会場の手配

 前回(第46回)の2項において述べたとおり、ヒアリングのためには、ロジスティクス面での準備が諸々必要となる。ヒアリング会場の手配は、その一つである。

 ヒアリング会場を手配するためには、まず、ヒアリングを行う都市を決める必要がある。仲裁地(seat)と一致することが多いと思われるが、別の場所でも構わない。例えば、仲裁地がシンガーポールであっても、東京でヒアリングを行うことは可能である。

 ヒアリングを行う都市は、仲裁合意(契約書の仲裁条項)で定まっていればそれに従うことになるが、定まっていなければ当事者が協議を行って定めることになる。これがまとまれば、その当事者が合意した都市となるが、協議がまとまらない場合には、仲裁廷が当事者双方の意見を聞いた上で定めることになる。仲裁廷は、基本的には、ヒアリングに参加する当事者及びその代理人弁護士、証人、そして仲裁人にとっての利便性を総合的に考慮の上、ヒアリングの都市を定めると思われる。

 なお、国又は地域によっては、仲裁手続の代理人弁護士となれる資格を、当該国又は地域の弁護士資格を持つ者に限定している場合がある。このような国又は地域は、代理人弁護士が当該資格を持っていない場合には、ヒアリングの場所としては避けなければならない。

 次に、ヒアリングの都市が決まった後は、具体的な会場を決めることになる。ヒアリングの会場として一般に用いられるのは、次のような場所である。

  1. ① ホテルの会議室
  2. ② 貸会議室(カンファレンスセンター)
  3. ③ 弁護士事務所の会議室
  4. ④ 仲裁機関のヒアリング用会議室

 ① ホテルの会議室は、費用はかかるものの、サービスレベルの高いホテルであれば、ヒアリングにおける諸々のニーズに円滑に対応してもらえると期待できる。例えば、ヒアリングでは、昼食、飲料、コピー、シュレッダー、荷物の配送、プロジェクターの用意といったものが必要になり、これらに対応してくれるスタッフがいることは、ヒアリングの円滑な進行にとって大きなプラスである。また、当該ホテルに関係者が宿泊すれば、宿泊している場所から、ヒアリング会場までの移動も、極めてスムーズかつ円滑に行うことができる。

 但し、サービスレベルはホテルによって大きく異なりうる。また、国際仲裁では、基本的に英語での対応が求められるが、英語での対応力も、ホテルによって異なりうる。ホテルをヒアリング会場とする場合には、これらの点を慎重に見極めた上で、適切なホテルを選定する必要がある。

 次に、② 貸会議室(カンファレンスセンター)は、費用は相対的に低額であるものの、ホテルのようなサービススタッフがいないことから、上記の諸々のニーズについてホテルのような対応を期待することは困難である。

 ③ 弁護士事務所の会議室は、費用は基本的にかからないと考えられ、また、弁護士事務所のスタッフが上記の諸々のニーズに対応してくれることが期待できる。もっとも、当事者の一方の代理人弁護士事務所でヒアリングを行うことについては、他方当事者の理解が得られがたいことが多いと思われる。そうすると残りの選択肢は、仲裁人の弁護士事務所で行うことであるが、仲裁人は小規模な弁護士事務所に所属していることも多く、その場合にはヒアリングを行う程の余裕が設備及びスタッフの両面においてないと考えられる。また、仲裁人は、ヒアリングの費用を負担する訳ではないため、自らの事務所でヒアリングを行うとの負担をすることに、合理的理由が見いだしがたいと考えられる。弁護士事務所の会議室でヒアリングを行うことは、容易とは言い難い。

 最後に、④ 仲裁機関のヒアリング用会議室は、費用はホテルよりは一般に低額であり、また、仲裁手続のヒアリングに慣れているため、上記の諸々のニーズに対応してくれることが期待できる。もっとも、すべての仲裁機関で利用可能という訳ではなく、また、利用可能な仲裁機関においても、これがあるのは仲裁機関の本拠地に限られている。したがって、それ以外の都市でヒアリングを行う場合には、用いることはできない。

 ヒアリングの会場は、上記の選択肢の中から、事案毎に選定することとなる。当事者の協議によって決めることが期待されているが、当事者間の協議がまとまらなければ、これも仲裁廷が当事者双方の意見を聞いた上で、決めることになる。

 なお、ヒアリングの会場を確保する際には、実際にヒアリングを行う大きめの会議室のほか、仲裁人、申立人、被申立人それぞれの各控え室として、小さめの会議室を少なくとも3つ用意する必要がある。その他にも、証人等で別途の控え室を必要とする関係者がいれば、それも用意する必要がある。

(3) 速記官、通訳等の手配

 国際仲裁手続では、前回の2項において述べたとおり、ヒアリングの調書を作成するための速記官は、案件毎に確保しなければならない。この点、専門の業者があり、ヒアリングにおける関係者の発言(冒頭陳述、尋問における質問及び回答、最終弁論等)を、その場で入力し、その入力内容が、仲裁人及び代理人弁護士の目の前にあるモニターに表示される。このように作成される調書は、「live transcripts」と呼ばれている。

 また、証人が、仲裁手続の言語と異なる言語で証言をする場合には、通訳が必要となる。通訳の質は、その尋問の質を左右するため、その事案にあった適切な通訳を確保することも重要なトライアルの準備である。

以 上

 

タイトルとURLをコピーしました