◇SH1318◇金融庁、「監査法人のローテーション制度に関する調査報告(第一次報告)」を公表 (2017/07/31)

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金融庁、「監査法人のローテーション制度に関する調査報告(第一次報告)」を公表

−−パートナーローテーション制度は抑止効果発揮できず−−

 

 金融庁は7月20日、「監査法人のローテーション制度に関する調査報告(第一次報告)」を公表した。

 平成28年3月に公表された「会計監査の在り方に関する懇談会」(座長=脇田良一・明治学院大学名誉教授)の提言においては、監査法人の強制ローテーション制度の導入について、諸外国の最近の動向等も踏まえつつ、深度ある調査・分析がなされるべきであるとされていたところであるが、金融庁では、同提言を受け、本調査報告を取りまとめ公表したものである。

 本調査報告では、平成18年12月の金融審議会公認会計士制度部会報告書「公認会計士・監査法人制度の充実・強化について」に基づく「パートナーローテーション制度の強化」以降の状況(主に東芝事案)を分析し、

  1. ① 過去の不正会計事案において、パートナーローテーションは抑止効果を発揮できなかった
  2. ② 企業と同一監査法人との監査契約は固定化され、企業の自主的な監査法人の交代は進んでいない
  3. ③ EUにおける監査法人のローテーション制度導入の状況

等についてまとめている。

 なお金融庁では、本調査報告は第一次報告であり、今後、国内関係者からのヒアリング等を含めさらに調査を進めていく必要があるとしている。

 以下、その概要を紹介する。

 

報告書の概要(「V.まとめ」より)

1 パートナーローテーション制度の有効性の検証

 この間、我が国では依然として重大な不正会計事案が発生している。特に、東芝事案では、同一監査法人(前身の監査法人を含む)が約47年間、個人事務所の時期を含めると約63年間にわたり同社の会計監査を実施しており、同社のガバナンスへの過信や、監査手続の前例踏襲、過去の監査従事者の判断への過信などから職業的懐疑心を鈍らせることとなり、結果として、監査チームは不正を見抜くために有効な会計監査を実施することができなかった。

 東芝事案においては、制度強化後のパートナーローテーションが実施されていたが、事案の発生原因・要因を踏まえると、パートナーローテーションは制度導入時に期待された「新たな視点での会計監査」という観点からは、結果として十分にその効果を発揮するものとしては機能しなかったと考えられる。

 

2 企業と監査法人の監査契約の固定化

 TOPIX上位100社のうち、この10年間に監査法人が交代したのは5社に留まるなど、この10年の間に同一監査法人との監査契約はさらに固定化しており、監査法人の自発的な交代は進んでいない状況である。これらの点は、あまりにも長期間にわたり同一監査法人の会計監査を継続している企業の場合、株主や他のステークホルダーの理解が得られるかということも含め、独立性の確保の観点から検討すべき論点であると考えられる。

 

3 欧州における監査法人の強制ローテーション制度の導入

 欧州では、この10年間の変化として、監査法人の独立性の強化や、企業の監査に新任の監査人による「新たな視点」を入れるため、原則として同一監査法人の最長継続任期を10年とする監査法人の強制ローテーション制度が2016年より導入された。

 欧州における、監査法人の強制ローテーション制度導入の際の議論では、同制度は監査法人の強固な独立性を強化し、会計監査の品質向上につながるとされる一方で、監査法人の交代により、監査法人に一時的な知識・経験の不足が生じることや、監査市場が寡占化していることで他の監査法人を選任することが困難であるといった留意点が指摘されたところである。監査法人の強制ローテーション制度の導入後、上記の留意点への対応を含め、欧州各国の動きについて、欧州各国の関係当局等へのヒアリング等の調査を行ったところ、監査法人の交代が会計監査の品質に与える影響等については、欧州の監査法人の強制ローテーション制度は導入後間がなく、その見極めにはなお時間が必要であるとのことであった。また、欧州では、各国ごとに同制度の導入に至る経緯や各国における監査市場の状況などが異なっているが、上記の留意点への対応として、それぞれに工夫をしているとのことであった。例えば、イギリスにおいては監査法人の強制入札制度の導入、フランスでは共同監査の義務付け、さらに、欧州各国では監査法人間の引継ぎルールの整備といった対応をすることにより、これまでのところ、混乱なく監査法人の強制ローテーション制度が実施されつつあるとの見方が示された。

 監査法人の強制ローテーション制度導入のメリットの一つとして、上場企業監査を行うことができる監査法人がBig4以外にも増え、寡占解消につながることが考えられるのではないかとの見方もある。今回の調査において、監査法人の強制ローテーション制度の導入が監査市場の寡占解消に影響を及ぼすかについて、欧州各国の当局からは、寡占解消につながるか分からないとする見方と、寡占解消を促す影響があるとの見方の両方があった。

 また、監査法人の強制ローテーション制度による監査報酬への影響について、欧州各国の当局からは、監査報酬の多寡のみをもって交代後の監査法人を選ぶことにはならず、監査報酬への影響は少ないとの見方があった。また、この点に関しては、企業の監査人を選任する監査委員会が、監査法人の選任にあたって、監査報酬のみではなく、監査法人に求められる独立性と専門性を有しているかについて検証することが重要であるとの見方が示された。

 我が国においても、10年前に監査法人の強制ローテーション制度の導入が議論された際には、上記の留意点と同様の懸念が指摘されたところである。しかし、現在の欧州の状況を踏まえれば、我が国において、依然としてこのような懸念が妥当するのか、その懸念に対応するために工夫する余地があるのか、我が国の監査制度や監査市場の状況を精査しつつ、改めて検討することが重要であると考えられる。今後は、欧州における監査法人の強制ローテーション制度導入の効果等を注視するとともに、我が国において、監査法人、企業、機関投資家、関係団体、有識者など会計監査関係者からのヒアリング等の調査を行い、監査法人の強制ローテーション制度の導入に関する論点についての分析・検討を進めていくことが考えられる。

 

報告書の構成

Ⅰ.本調査の経緯・目的

我が国におけるパートナーローテーション制度及び監査法人の強制ローテーション制度導入をめぐる議論の経緯

  1. 1 パートナーローテーション制度の導入
  2. 2 監査法人の強制ローテーション制度導入をめぐる議論とパートナーローテーション制度の強化(金融審議会公認会計士制度部会(2006年))

金融審議会公認会計士制度部会(2006年)以降の進展・状況変化

  1. 1 東芝事案とパートナーローテーション制度等との関係
    ⑴ 監査法人等に対する行政処分の概要
    ⑵ 東芝の監査契約と監査チームの状況
    ⑶ 東芝事案において、「新たな視点での会計監査」が有効に機能しなかったと考えられる主な原因・要因とその具体的な影響
  2. 2 企業と監査法人の監査契約の固定化(契約の長期化)
  3. 3 欧州における監査法人の強制ローテーション制度の導入

欧州における監査法人の強制ローテーション制度

  1. 1 監査法人の強制ローテーション制度の導入及び欧州各国における制度対応
    ⑴ 会計監査に係る制度改正の概要
    ⑵ 監査法人の強制ローテーション制度
    ⑶ 監査法人の強制ローテーション制度に関連するその他の制度改正
    ⑷ 欧州各国における制度対応
  2. 2 監査法人の強制ローテーション制度導入後の具体的な動き
    ⑴ イギリス
    ⑵ フランス
    ⑶ ドイツ
    ⑷ オランダ
  3. (参考) 欧州以外の諸外国における監査法人の強制ローテーション制度をめぐる状況
    ⑴ アメリカ
    ⑵ インド
    ⑶ 南アフリカ

まとめ

 

  1. 金融庁、監査法人のローテーション制度に関する調査報告(第一次報告)の公表について(7月20日)
    http://www.fsa.go.jp/news/29/sonota/20170712_auditfirmrotation.html
  2. (別紙1)監査法人のローテーション制度に関する調査報告(第一次報告)のポイント
    http://www.fsa.go.jp/news/29/sonota/20170712_auditfirmrotation/01.pdf
  3. (別紙2)監査法人のローテーション制度に関する調査報告(第一次報告)
    http://www.fsa.go.jp/news/29/sonota/20170712_auditfirmrotation/02.pdf
     
  4. 参考 金融庁、「会計監査の在り方に関する懇談会」提言の公表について(平成28年3月8日)
    http://www.fsa.go.jp/news/27/singi/20160308-1.html
  5. 参考 「金融審議会公認会計士制度部会報告〜公認会計士・監査法人制度の充実・強化について〜」(平成18年12月22日)
    http://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/tosin/20061222.pdf

 

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