◇SH2495◇企業活力を生む経営管理システム―高い生産性と高い自己浄化能力を共に実現する―(第26回) 齋藤憲道(2019/04/22)

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企業活力を生む経営管理システム

―高い生産性と高い自己浄化能力を共に実現する―

同志社大学法学部
企業法務教育スーパーバイザー

齋 藤 憲 道

 

1.「製品規格」の仕組みを各種の管理の軸にする

(2)「製品規格」と「ISO/JIS 9001」の重複部分では審査の簡素化が配慮される

 量産する鉱工業製品について「製品規格」の認証を取得するには、上記の通り、製品自体が「製品試験」に合格し、かつ、「品質管理体制」が確立された工場等において合格品と同等と見なされる製品を生産することが必要である。

 この「品質管理体制」の審査は、JIS認証の対象となる製品が関わる範囲について行われる。

 ただし、この審査項目は「品質マネジメントシステム規格(JIS Q9001/ISO9001)[1]」の要求事項と重複する(社内規程の整備・運用状況等)ので、「製品規格」の適合性評価において、認証対象の製品を製造する工場の「品質管理体制」がJIS Q9001に適合していれば、審査の要求を満たすものとすることができる[2]

  1. (注) 審査対象の「製品規格」に固有の要求事項については、審査は省略されない。
     
  2. (参考) ISO9001:2015は「品質マネジメントシステム」に関して次の要求事項を挙げている。
  3.  8(運用)
    8.1 運用の計画及び管理 8.2 製品及びサービスに関する要求事項 8.3製品及びサービスの設計・開発 8.4 外部から提供されるプロセス、製品及びサービスの管理 8.5 製造及びサービス提供 8.6 製品及びサービスのリリース 8.7 不適合なアウトプットの管理
  4.  9(パフォーマンス評価)
    9.1 監視、測定、分析及び評価 9.2 内部監査 9.3 マネジメントレビュー

(3)「製品試験」と「品質管理体制審査」を併用する場合と、全数検査する場合

①「製品試験」と「品質管理体制審査」を併用するケース

 JISの「製品規格」のように、「製品試験」と「品質管理体制審査」の2つのテストによって製品が所定の基準に適合することを確認する方法は、多くの規格の認証制度や業法において採用されている。(後述)

 この方法は、完成品メーカーと部品メーカーの間の取引においても多用されている。

 (例) メーカーの取引基本契約の例

 以下、一般的な取引基本契約の中の品質関係の条項の標題(○印)とその要点を例示する。

  1. (注1)「買手」は完成品メーカー、「売手」は部品メーカーのことをいう。
  2. (注2)「書面」だけでなく「電子情報」を含む場合は、その旨を記し、電子情報の取扱いに関する契約等を追加する。
  1. ○ 要求品質の決定
    目的物の要求品質の内容等は、買手と売手が、初回納品前に、図面・仕様書等により相互に確認して決定する。
  2. ○ 品質保証体制の確立
    売手は、目的物に関する要求品質を確保するために、開発・設計・資材調達・製造・検査・保管・運送等の全ての自社工程において有効かつ経済的な品質保証体制を確立する。
  3. ○ 管理工程図等の整備
    売手は、目的物に関し、製造工程において管理する項目・特性・水準等を具体的に示した「管理工程図」、作業の手順・工法・条件・注意事項、使用する設備・工具治具・計測器等を明示した「作業指図書」を作成し、これを遵守して現場の業務を行う。
  4. ○ ロット管理
    売手は、目的物のロット追跡を容易に行うために、買手と予め合意した方法で、生産ロットを区分して管理する。
  5. ○ 品質保証体制の確認・検査
    売手は、売手における目的物の品質保証体制を明らかにするため、買手の要求に基づき、目的物に関する「品質保証体系図」・「管理工程図」・「作業指図書」・その他必要な書面を、初回検査の前までに買手に提出する。
    買手は、売手における目的物の品質保証体制・品質保証活動の実施状況を確認するため、必要なときに、売手の承諾を得たうえで、売手の工場・事務所等に立入検査等を行うことができる。
  6. ○ 受入検査
    買手は、別途定める検査基準に基づいて受入検査を行う。売手の納入品質が安定したときは、買手の判断により、無検査購入とすることができる。ただし、買手は、買手が必要と認めた場合、いつでも受入検査を実施できる。
  7. ○ 初回品の検査
    売手は、目的物を新規に買手に納入する場合、又は設計・製造条件等が変更された後に初めてその目的物を買手に納入する場合は、売手と買手が別途協議・決定する方法により初回品を製造する。売手が初回品を買手に納入するときは、その方法に従って行った検査の結果を添付する。
    買手は、売手から初回品を受領したときは、別途、売手と買手が協議した方法によって検査・試験を行い、その結果を売手に通知する。
  8. ○ 設計・製造条件変更の連絡
    目的物に次のいずれかが発生することが予定・予測される場合、売手は直ちにその旨を買手に書面で報告する。
    設計変更、金型の新造・更新・改修、製造方法の変更、製造場所・外部委託先の変更、資材の製造元・購入先の変更
  9. ○ 特別採用(通称、「特採」)
    買手は、受入検査の結果、不合格となった目的物について、その不合格が些細な事由によるものであり、買い手の工夫により使用可能と認めるときは、売手と協議して、その目的物の納入価格を値引きした上でこれを引き取ることができる。

② 全数検査(全ての案件を1件毎に審査)するケース

 全ての製品を「1件毎に審査」する場合は、基本的に、「品質管理体制の審査」を行わない。

例1 JIS適合の審査を全製品について行う場合

 申請した鉱工業品の全てについて「製品試験」を行うことによりJIS規格に適合するかどうかを審査するときは、「製造品質管理体制の審査」を省略することができる[3]
 

例2 建物を建築する場合(建築基準法、建設業法)

 建築物は、1件毎に建築の現場が異なり、同一物件がない。そこで、1件毎に、工事着手の前に計画内容が法令に適合していることを証する「建築確認」を建築主事[4]等から取得し、その上で着工する。工事完了時には完了検査を行い、建築物が法令に適合していれば建築主事等から「検査済証[5]」の交付を受ける。



[1] JIS Q9001とは、国際標準化機構(ISO)が策定したISO9001〈品質マネジメントシステム〉を日本工業標準調査会(JISC)において日本語に翻訳し、一致規格として、JISQ9001を所管する経済産業省が発行したものである。

[2] 「日本工業規格への適合性の認証に関する省令(2015年(平成27年)11月20日)」2条2項「前項の規定にかかわらず、登録認証機関は、品質管理体制(略)の審査を、次に定める基準により行うことができる。」、同項1号「品質管理体制が、日本工業規格Q9001(主務大臣が告示で定める鉱工業品等に係る認証の場合は、主務大臣が告示で定める品質管理の規格)の規定に適合していること。」

[3] 産業標準化法30条3項(旧、工業標準化法19条3項)

[4] 政令で指定する人口25万人以上の市町村は必置、これ以外の市町村も置くことができる。置かれていない地域は都道府県に置いて対応する。(建築基準法4条1~7項)

[5] 建築基準法6条1項、7条4項・5項、7条の2第5項

 

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