銀行員30年、弁護士20年
第3回 弁護士は銀行員より自由か
弁護士 浜 中 善 彦
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弁護士は自由業の代表のようにいわれており、広辞苑によれば、自由業とは「工場・会社などにおける労働と異なって、勤務時間その他の制約を受けない職業。作家・弁護士など」とある。
確かに、サラリーマンは就業規則等による集団的規制を受けるが、弁護士にはそういった規制はない。労働基準法9条では、「労働者」とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所(以下「事業」という。)に使用される者で、賃金を支払われる者である。これに対して弁護士は、誰かの指揮監督の下に仕事をすることはない。弁護士は、依頼者の依頼に基づいて業務を行うが、依頼者との関係は雇用契約ではなく委任契約であり、依頼者から報酬は受け取るが、依頼者の指揮監督を受けるわけではない。
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それでは弁護士には何の規制もないかというと、そうではない。逆に、弁護士法によって、厳しい決まりがある。弁護士の職務は、当事者その他関係人の依頼又は官公署の委嘱によって、訴訟事件、非訟事件及び審査請求、異議申立て、再審請求等行政庁に対する不服申立事件に関する行為その他一般の法律事務を行うことを職務とすると規定されている(弁護士法3条)。法律事務であれば何でもできるかというとそうではなく、事件によってはそれを禁止される場合があるほか、営利事業に従事する場合には、予め所属弁護士会に届け出なければならない等の規制がある。しかし、サラリーマンと異なり、企業その他に雇用されるわけではないので、出勤時間その他の規制はなく自由である。
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また、サラリーマンは、いったん入社するとどのような仕事をするかを決めるのは会社である。まして、上司を選ぶことはできない。本人の業績や能力を評価するのは会社であり、成果や能力がその通り評価されるとは限らない。
それに対して弁護士の場合、他人から仕事を命じられることはなく、本人の意思次第であり、依頼人以外の他人から指図されたり、命令されることはない。その意味では、サラリーマンは、自分の人生の意思決定の一部を外部の第三者である会社に預けたようなものだとみることもできる。
確かに、それはその通りであるが、実際には、弁護士の場合もそれほど自由ではない。たとえば、弁護士として企業法務をやりたいと思っても、依頼がない限りそのような仕事はできない。仕事の依頼がないために、心ならずも過払金訴訟ばかりやることになるかもしれない。その辺は、本人の意思や能力の問題だけではなく、運もある。さらに、サラリーマンは会社の指揮命令に従う代わりに、毎月一定額の収入があり、退職金や年金制度等があり、ある意味では、生涯保証があるともいえる。これに対して、弁護士の場合、優良な顧問先を複数抱えて安定的収入がある場合は別であるが、一般的には、事件解決の依頼がない限り収入の保障はない。年金も自ら設計し、老後に備える必要がある。その意味では、サラリーマンほど安定した身分ではなく、かなり不安定な職業であり、自らの生活設計は自らの責任で用意する必要がある。
以上