◇SH1344◇特定複合観光施設区域整備推進会議の取りまとめについて(2) 渡邉雅之(2017/08/11)

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特定複合観光施設区域整備推進会議の取りまとめについて(2)

弁護士法人三宅法律事務所

弁護士 渡 邉 雅 之

 

5 世界最高水準の規制①(カジノ規制)(Ⅲ. 世界最高水準の規制①:カジノ規制)

(1) 世界最高水準の規制とは

 推進法11条においては、「カジノ施設の設置及び運営に関する秩序の維持及び安全の確保を図るため、カジノ施設関係者に対する規制を行う」ものとしてカジノ管理委員会を新設することを規定しており、IR区域の認定等を行う主務大臣とは別の主体が規制を行うこととされている。

 諸外国のカジノ規制の体系は、①参入規制(カジノ事業の免許制(背面調査の実施を含む。)等)、②カジノ施設・機器に関する規制、③カジノ事業活動に関する規制(ゲーミングに関する規制等)、④懸念への対応(依存防止対策(入場規制等)、青少年の健全育成、マネー・ローンダリング対策等)と整理できる。

 これを踏まえ、推進会議では諸外国と同様の区分で整理し、我が国の制度設計の枠組みについて検討を行い、本章ではカジノ事業に関する参入規制及び事業規制(施設・機器の規制及び事業活動の規制)について整理し、次のⅣ章では、カジノの弊害防止対策について整理することとされた。

 なお、本とりまとめの「(参考資料4)世界最高水準のカジノ規制の実現 ~シンガポール及び米国ネバダ州における規制と日本における対応案の比較」において、推進会議において検討されたカジノ規制・カジノの弊害防止対策がシンガポール及び米国ネバダ州における規制と比較されているが、すべての規制において推進会議の検討案がシンガポールや米国ネバダ州と比べて厳格なものというわけではない。

 多くの規制においてこれらの法域における規制と同等であり、規制によっては推進会議の検討案が上乗せ規制となっている(入場回数制限等)ものである。すなわち、エレベストの峠ように突き抜けた規制ではなく、キリマンジャロの山並みのように平準的に高い規制となっているものであると理解すべきであろう。

(2) 厳格な免許制度

 IR事業の中で実施するカジノ事業については、IR事業者が公共政策的な機能の一環を担うことに鑑みて、本来違法である賭博行為を例外的特権として認めるものである。したがって、IR事業を実施しない者がカジノ事業を実施することは認められず、賭博の実施主体となるIR事業者は高い廉潔性を有する必要があることから、極めて厳格な要件をクリアした者のみに対しカジノを実施することを許容するべきである。

 すなわち、カジノ事業の免許は、行政法の観点では、「特許」(国が特定の個人又は法人に対し、本来、私人が有しない権利を新たに付与し、又は包括的な法律関係を設定する行政行為)であると考えるべきである。

(3) 参入規制

  1. ア 基本原則(多重的かつ広範な参入規制)
    IR事業を実施しようとする民間事業者は、カジノ免許を取得するだけではなく、都道府県等に選定され、かつ、当該都道府県等が申請した区域整備計画が国の認定を受けなければ、IR事業を実施することは認められない。(多重的な参入規制)
    廉潔性の確保については、IR事業者の行う配当や取引等により、IR事業者の株主や取引先、従業員等もカジノ収益を含むIR事業収益の一部を受け取るため、これらの者についても、廉潔性を確認するプロセスを設ける必要がある。(広範な参入規制)
  2. イ 参入規制の6つの原則
    上記アの基本原則を基に、日本におけるカジノ事業の参入規制については、以下a.~f.を6つの原則として制度を設計すべきである。
  1. ① 原則a. カジノ事業免許に基づく廉潔性確保と厳格な規制
    カジノ事業については、免許制の下で、事業者及び関係者から反社会的勢力を排除するなど高い廉潔性を確保するとともに、事業活動に対し厳格な規制を行うべきである。また、カジノ事業免許については更新制とすべきである。
    この原則は、カジノ事業の実施は、IR事業の実施による公益目的達成のため刑法の賭博罪の例外をごく少数に限って認めるという例外的特権としての性格を有するものであり、関係者も含めその主体には高度な規範と責任、廉潔性が求められることによるものである。
    また、カジノ特有の性格に鑑み、懸念への対処を含めたカジノ事業の健全な運営を確保するため、カジノ事業の実施者(以下「カジノ事業者」という。)の業務及び財務について厳格な規制を課す必要がある。
    カジノ事業者については、継続的に廉潔性を確認し、これを確保する必要があることから、カジノ事業免許については更新制とすべきとされた。
  2. ② 原則b. カジノ事業免許の主体を IR事業者に限定
    カジノ事業免許を受けることができる主体は、一体性が確保されたIR事業者に限定すべきである。
    この原則は、カジノ事業は、公益性を有する IR事業を実施するために特別に容認されるものであり、カジノ事業免許を受けたIR事業者には収益を公益に還元する役割やカジノ事業の運営に関して高度な規範・責任が求められるところ、IR事業全体を一体的に実施しない場合、IR施設への再投資等による公益還元やIR事業者全体として高度な責任等が果たせないことから、カジノ事業免許の付与を認めるべきではないことによるものである。
  3. ③ 原則c. IR 事業者やその役員のみならず幅広く関係者の廉潔性等を背面調査により審査
    IR事業者、そのカジノ事業及び非カジノ事業部門の役員のみならず、IR事業活動に支配的影響力を有する外部の者等についても幅広く廉潔性等の背面調査により審査の対象とすべきである。
    IR事業者にカジノ事業免許を付与する際には、IR 事業者やその役員の高い廉潔性を確保する必要があり、そのためには、関係者の経歴や財務状況等に関する調査(以下「背面調査」という。)を行い、廉潔性等を個別に確認する必要がある。
    その対象範囲をIR事業者やその役員のみに限定すれば、IR事業活動に支配的影響力を有する背後者等の廉潔性等を確認することができず、カジノ事業の廉潔性等の確保が徹底できないと考えられることから、幅広い関係者について廉潔性等を審査する必要がある。
    なお、米国ネバダ州やシンガポールの規制においては、事業者規制のみならず、役員(取締役や執行役員)のライセンス制度が設けられている。しかしながら、わが国の免許・許認可制度においては、事業者に対する免許・許認可制度は設けられているが、役員自体に対する免許・許認可制度はない。そこで、カジノ事業に関しても、役員に対する免許・許認可制度は設けられない方向であるが、役員に対する背面調査自体は、米国ネバダ州やシンガポールと同様になされることになる。
  4. ④ 原則d. 株主等について認可制等で規制
    カジノ事業免許に係る IR 事業者の株主等については、認可制等の下で、反社会的勢力の排除等その廉潔性を確保すべきである。
    この原則は、カジノ事業免許を受ける IR 事業者の株主等は、IR 事業者とは別の主体であるが、株主権等の行使によりカジノ事業に重大な影響力を有するほか、カジノ収益を含む IR 事業収益の一部を受け取る者であるため、IR 事業者と同水準の高い廉潔性を求めるべきことによる。
    なお、「免許制」ではなく「認可制」であるからといって必ずしも背面調査や審査のレベルが緩やかになるわけではない。
    国や地方公共団体等の公の主体がIR事業者の株式を所有する場合には認可の対象外とすべきだろう。
  5. ⑤ IR事業者が行う取引(委託契約を含む。)についても認可制等で規制
    非カジノ事業部門を含め IR 事業者が行う全ての事業部門における取引(委託契約を含む。)について、認可制等の下で、反社会的勢力等を排除すべきである。
    この原則は、カジノ事業の実施は、IR 事業の実施による公益目的達成のため刑法の賭博罪の例外をごく少数に限って認めるという例外的特権としての性格を有するものであり、こうした性格に鑑みれば、取引先も含め、カジノ事業から生じる収益を受け取る者についても高い廉潔性を求めるべきことによる。
  6. ⑥ 原則f. カジノ管理委員会の体制を整備し、徹底した背面調査を実施
    免許・認可の際の審査対象者のみならず、必要に応じて、あらゆる関係者(子会社等、2次・3次・それ以上の繋がりを有する者等を含む。)に対して、どこまででも徹底的な背面調査を行うべきである。このため、十分な調査権限や人員・体制をカジノ管理委員会に整備すべきである。

  1. ウ 株主規制
    カジノ事業免許を受けるIR 事業者の株主等についても廉潔性を確保するため、認可制等の対象とすべきである(上記イ④ 原則d参照)。認可の対象とする株主等は、カジノ事業に対する影響力の程度等を勘案の上、議決権、株式又は持分の保有割合が直接又は間接を問わず5%以上の株主等とすべきである。保有割合が5%未満の株主等についても報告を徴求し、必要に応じて、その廉潔性を調査し、不適格者への対応をできることとすべきである。
    これは、シンガポールにおいては「議決権」の「5%以上」を保有する者を認可の対象とし、米国ネバダ州においては「議決権」の「5%超」を保有する者(公開会社の場合。機関投資家を除く。)を届出の対象としていることや、我が国の銀行法において銀行の5%超の議決権保有者を届出の対象としていること等を参考にしている。
    認可対象となる閾値の「5%」を算定するに当たって対象となる株式等については、反社会的勢力等にカジノ由来の収益が流れることを防止する観点から、議決権のみをベースにするのではなく、株式又は持分の5%以上を有する場合も認可の対象にすることとされている。すなわち、無議決権優先株を有する株主も認可の多少となり得る。
    また、「直接又は間接を問わず」とあるとおり、議決権、株式又は持分の保有割合が5%以上の株主のみならず、当該株主の議決権又は持分を有する株主も認可の対象となり得る。規制対象となる間接株主の議決権又は持分保有割合については、①直接株主の保有割合と間接株主の保有割合を乗じて計算するのか(例えば直接株主のIR事業者に対する議決権保有割合が20%、間接株主の直接保有者に対する議決権保有割合が25%であれば、間接株主は5%(20%×25%=5%)保有しているものとして認可の対象となる。)、あるいは、②直接株主の議決権の過半数を保有している場合に直接株主が保有している議決権又は持分を保有しているとみなすのか(例えば、直接株主のIR事業者に対する議決権保有割合が5%で、間接株主の直接株主に対する議決権保有割合が51%である場合には、間接株主は5%の議決権を保有しているものとして認可の対象となる。)、2つの考え方があり得る。
    なお、本とりまとめには記載されていないが、IR事業者の株主保有については特段の外資規制は設けられていない。すなわち、外国のカジノオペレーターが、日本企業とのコンソーシアムを組成せずに、IR事業者の議決権の100%を保有することも許されるのである。もっとも、そのような事業者が都道府県等により選定されるか否かは別問題である。
  2. エ 委託先・取引先への規制
    非カジノ事業部門を含め IR 事業者が行う全ての事業部門における取引(委託契約を含む。)については、認可制等の下で、反社会的勢力等を排除すべきである。
    これは、カジノ事業の実施は、IR 事業の実施による公益目的達成のため刑法の賭博罪の例外をごく少数に限って認めるという例外的特権としての性格を有するものであり、こうした性格に鑑みれば、取引先も含め、カジノ収益を受け取る者についても高い廉潔性を求める必要があることによる。
    具体的には、シンガポールの規制と同様、一定の金額以上の取引については認可制となり、それ未満の金額の取引については事前届出を求めることになるだろう。
    認可であると、届出であろうと、免許と比べて背面調査や審査の程度が緩やかになるわけではない。もちろん、カジノ管理委員会の調査官の人的資源の観点からの限界はある。
    金融機関によるIR事業者に対するシンジケート・ローンやブリッジ・ローンも対象となり得る。ただし、IR事業者がカジノ免許を取得する前に供したローンについては認可の対象ではないものの、IR事業者に対して支配的影響力を行使し得る債権者となることから、「関係者」としてカジノ管理委員会による背面調査の対象になり得るものと考えられる。
    また、IR事業者から委託を受けてIR施設を建設する建設業者やその下請け(一次請けだけでなく、二次、三次等の複数段階に至る下請けを含む)も認可の対象となる。
  3. オ カジノ関連機器等の製造業等への規制
    カジノ事業では、一般的に、①ゲーミングの結果に影響を及ぼす機器等(スロットマシーン、ルーレット台、カード、サイコロ等)、②ゲーミングの結果に基づく金銭の支払に影響を及ぼす機器等(チップ、チップ現金交換機等)、③ゲーミングの管理に関する機器等(カジノ管理システム等)が使用されている。
    これらは、ゲーミングの公正性や財務・会計の適正性をはじめ、カジノ事業の健全な運営に重大な影響を及ぼすものであることから、当該カジノ関連機器等製造等事業者の廉潔性を確保するとともに、事業活動に対して十分な規制を行う必要がある。
    カジノ関連機器等の製造・輸入・販売・貸与・修理を行う事業者(以下「カジノ関連機器等製造等事業者」という。)については、カジノ事業に重大な影響力を有する者であり、また、カジノ収益の一部を受け取る者であるため、許可の対象とすべきである。また、当該許可については更新制とすべきである。
    さらに、業務実施過程において、カジノ関連機器等の品質及び性能等についても確認することとすべきである。
    なお、スロットマシーンのリース料については、カジノの粗収益(GGR:Gross Gaming Revenue)に連動した報酬を支払うというレベニュー・パーティシペーションという手法がある。この手法は、カジノ事業者にとっても、新規のスロットマシーンを事前に多額のリース料を支払わずに利用できるとのメリットがある。もっとも、レベニュー・パーティシペーションは、カジノ収益をIR事業者の外に出すことになってしまい、カジノ関連機器等製造等事業者がカジノ事業を行っていることと同視されてしまうので、このようなリース料の設定は、認めることは困難であろう。
  4. カ 従業者に対する規制
    カジノ事業の従業者は、その職種に応じて、カジノ事業に影響を及ぼす者であるとともに、カジノ収益の一部を報酬として受け取る者であることから、一定の規制を行う必要がある。ただし、職種の異なる従業者に対し一律に同水準の規制を行うことは適当ではないので、担当する業務内容のカジノ事業への影響を考慮しつつ、その程度に応じて規制の水準を検討すべきである。
    カジノ事業について特定の重要業務に従事する者(管理職、ディーラー、キャッシャー等)については、諸外国の例を参考にして、その職種に応じた厳格な人的要件を設け、その廉潔性を確保すべきである。
    これらの重要業務に従事する従業者への廉潔性等に係る責任については、第一義的には事業者が責任を負い、カジノ管理委員会は、事業者からの確認の申請等を受け、従業者の業務内容に応じて必要な審査・確認を行うべきである。
    この「確認」制度は、「海賊多発海域における日本船舶の警備に関する特別措置法」における「特定警備に従事する者の確認」制度を参考にしたものである。米国ネバダ州やシンガポールでは、従業者ライセンス制度が設けられているが、我が国の事業者に対する許認可制度の下においては、従業者ライセンス制度が設けられていないため、我が国の制度上の類似の制度として考え方を流用するものである。「確認」制度であるからといって、背面調査や審査の程度が緩やかになるわけではない。
    重要の業務以外の業務に従事する従業者(バーテンダー、調理スタッフ、清掃員等)についても厳格な人的要件を設け、その廉潔性を確保すべきである。これらの従業者のカジノ事業への影響や行政の負担を考慮し、重要業務以外の業務に従事する者については、事業者が廉潔性を調査し、カジノ管理委員会に届け出ることとされる。

(4) 上記(3)を踏まえたカジノを含む IR 事業運営形態の類型の検討

  1. ア 原則的な考え方(1 SPC等による事業運営)
    IR事業者は、事業主体の一体性の原則(上記4(3)ア)に基づき、IR 事業全体の経営責任の明確化、カジノ事業から非カジノ事業への収益還元の確実化、IR 事業全体の廉潔性確保等の観点から、一体性が確保された事業者(SPC 等含む。)であることが原則である。
  2. イ 経営と運営の分離(業務運営委託)
    カジノ事業の運営については、公益性を有する IR 事業を遂行するために特別に容認されるものであり、第三者への委託を認めるべきではない。ただし、カジノの金融業務等井一部の業務については委託が認める余地はある。
    一方、非カジノ事業については、IR 事業としての経営の一体性を損なわない範囲であれば、委託契約を認可制として認めるべきである。

  1. ウ 経営資産(土地/施設)の分離
    IR 事業者が自ら土地/施設を保有しない場合、当該土地/施設の所有者等については、諸外国の例を参考にして、カジノ事業免許とは別の免許制等の下で、反社会的勢力の排除等その廉潔性を確保すべきである。
    具体的には、施設の所有を分離する場合、当該施設を所有し供用する者(以下「施設供用事業者」という。)については、カジノ事業免許の原則に照らし、カジノ管理委員会から、カジノ事業免許とは異なる施設供用事業免許を受けることとすべきである。また、施設強要事業者の株主についてもIR事業者と同様に認可制とすべきである。
    この場合、事業主体の一体性の確保のため、IR事業者と施設供用事業者との間で、IR事業者の経営判断の下に両者が一体的に事業を行う旨や適切な収益還元を行う旨等を定めた事業協定を締結することとすべきである。また、認定都道府県等、IR事業者及び施設供用事業者の三者間で締結する実施協定に事業協定の内容を含ませた上(事業協定書を添付する等)、主務大臣の認可を受けることとすべきである。事業協定は、IR事業の公益性確保に当たり重要な内容を含むものであるから、実施協定を認可した主務大臣は、実施協定の内容が遵守されているか等を確認する一環として、事業協定の記載内容の遂行状況につき、IR事業者からの財務報告や業績報告の手続等の中で確認していく必要がある。

  1.   土地所有者については、免許制ではなく認可制とするとともに、当該土地に関して「地上権その他の使用収益を目的とする権利」を有する全ての者についても、土地所有者と同様、認可制の下で、反社会的勢力の排除等その廉潔性を確保することとすべきである。なお、地方公共団体等が所有する公有地に関しては認可の対象外とすべきだろう。

  1.   経営資産(施設/土地)の分離については、「上下分離」とも呼ばれるが、IR事業者が土地や施設等の資産を持たずにリース(賃借)することにより事業を行うメリットがある。また、海外では、土地や施設分離が認められるとリート(REIT)を組成して運営リスクと不動産に関するリスクを分けるというファイナンスの仕組みは一般的である。
    しかしながら「上下分離」は厳格な背面調査を逃れるスキームの組成ができないかという観点で議論されることも多い。そこで、施設分離についてはIR事業者と同様に厳格な免許制、土地分離については認可制が取られることになった。
    なお、土地/施設の所有者等が、カジノ事業者から GGR(カジノの粗収益(GGR:Gross Gaming Revenue)) 比例の支払い(収益連動賃料)を受けることは公益に使われるべきGGRがストローのように外部に吸い上げられることになるために認めるべきではない。
    なお、GGR連動の報酬としては、上記(3)オで説明したレベニュー・パーティシペーションにおいても否定されるべきとしたが、これに限らず、IR事業者からのアドバイザリーフィー等も同様に、公益に使われるべきGGRが外部に吸い上げられることになるので、GGR連動の報酬は認められるべきではない。
  2. エ 持株会社
    持株会社を介した事業形態の取扱いについては、各子会社の株式を100%保有を義務付ける等の要件の下、持株会社を含む IR 事業グループを「一体性が確保された IR 事業者」として位置付けることは理論上は可能だが、一方で、法制度の立て付けとして、複数の許認可を前提とし、また、事業運営に対し複雑かつ柔軟性のない制度となると考えられる。
    そもそも、刑法上の賭博罪に該当する行為の実施主体(カジノ事業者)と、公益を実現する主体(非カジノ事業者)が分離されているため、カジノ単体の解禁と同義との批判を受けるリスクがある。
    このような事業形態は、柔軟な事業運営を求める市場ニーズに合致しないと考えられることから、認めるべきではない。

(5) カジノ施設・機器の規制

  1. ア カジノ施設の規模の上限等の設定
    ⅰ) カジノ施設が IR 施設のあくまで一部に過ぎない位置付けであること、ii)カジノ施設の面積が上限値(絶対値)を超えないことという2つの観点を組み合わせてカジノ施設の規模の上限等を設定すべきである。
    ⅱ) の上限値(絶対値)の対象は、カジノ施設のうち、専らカジノ行為の実施や現場でその運営管理・監督等をするための区域(ゲーミング区域)とすべきである。
    これは、推進法の附帯決議第3項では、「特定複合観光施設全体に占めるカジノ施設の規模に上限等を設ける」こととされており、カジノ施設が IR 施設の一部であることを前提としていることによるものである。この附帯決議は依存症予防等の観点によるものである。
    国会審議の中では、シンガポールを参考にしてIR施設全体の3%以下とするとの答弁もあったが、依存症予防等の観点から、区域の数を少数に限る旨の附帯決議が付されていることを踏まえると、IR 施設全体の大きさに比例してカジノ施設が無制限に広がることも容認すべきではないことから、相対的な位置付けのみではなく、上限値(絶対値)でもカジノ施設の面積の規制を設けるべきである。
    また、同様の規制はシンガポールにおいて定められているところ、上限値の対象となる区域を、顧客の通路や飲食スペース等を含まない「ゲーミング区域」としていることから、日本においてもこれらを参考に上限値を定めることが適当である。
    実際、シンガポールのRegulation(Casino Control (Casino Layout) Regulations 2009)においては、ゲームエリアの面積の上限は、IR施設全体の割合では定められておらず、15,000㎡以下と定められている。また、同Regulationにおける面積規制は、「ゲームエリア」の面積であり、「カジノ施設」全体の面積ではない。カジノ施設内の通路、バックハウス(ケージ、カウントルーム等)、レセプション、インフォメーションセンター、飲食エリアなどの付随的な場所は含まないものとされている。
    本取りまとめには具体的な面積基準については記載されていないが、「シンガポールと同等」というのが正当化としては重要となるので、日本のIR施設におけるカジノ施設の面積も同様に15,000㎡とするのが妥当であると考える。
    この点、IR事業者となろうとしているカジノオペレーターの中には、カジノの施設面積がシンガポールと同等(15,000㎡)では狭すぎて収益を上げるのに十分ではないとの意見が聞かれるが、カジノ施設の面積の上限規制は、依存症対策であると共に、賭博罪の違法性阻却の判断においても重要な要素であるので、これ以上大きな規模のカジノ施設を認めるのは困難であると考えられる。
    上記のとおり、カジノ施設の面積からは、カジノ施設内の通路、バックハウス(ケージ、カウントルーム等)、レセプション、インフォメーションセンター、飲食エリアなどの付随的な場所は含まれておらず、また、本取りまとめではスロットマシーンやテーブル台の数の規制について特に制限することを考えていない(シンガポールの規制ではスロットマシーンの数は2,500台以下とされている。)ことに鑑みれば、レイアウトの工夫次第では十分収益性のあるカジノ施設を設置することが可能であると考える。
  2. イ カジノ施設の構造・設備に関する基準の設定
    カジノ施設については、厳格な入場管理を行うとともに、施設内での不正なカジノ行為の防止や秩序維持が不可欠である。このため、業務方法書の作成・遵守を義務付けることにより、ソフト面での規制を行うことに加え、カジノ施設の構造・設備等のハード面について、入退場ゲート・監視カメラの設置、見通しの確保等に関する基準を設け、遵守させることが必要である。
  3. ウ カジノ施設の数
    カジノ施設に係る懸念を最小化する観点から、一IR 施設に設置するカジノ施設の数を一に制限すべきである。
    これにより、上記4(3)ウと合せて、「一IR区域・一IR施設・一カジノ施設・一IR事業者の原則」となる。したがって、IR施設を事後的に増設しても、増設部分にカジノ施設自体を新たに設置することはできない。
  4. エ カジノ関連機器等の基準、型式検定、指定試験機関等
  5. ① カジノ関連機器等の基準
    カジノ関連機器等は、不正なカジノ行為の防止やカジノ事業の会計・財務の適正を確保する上で重要な機器等であるため、技術的な基準を設定し、当該基準への適合を義務付けるべきである。
    推進法においても、「カジノ関連機器の製造、輸入又は販売をしようとする者」は、カジノ管理委員会の行う規制に従わなければならない。」(9条)、「政府は、カジノ施設の設置及び運営に関し、カジノ施設における不正行為の防止並びにカジノ施設の設置及び運営に伴う有害な影響の排除を適切に行う観点から、「カジノ施設において行われるゲームの公正性の確保のために必要な基準に関する事項」について必要な措置を講ずるものとする(10条1項1号)とされているところである。
    ここにいう「カジノ関連機器等」とは、ⅰ)カジノ行為の結果に影響を及ぼす機器等(スロットマシン、ルーレット台、カード、サイコロ等)、ⅱ)カジノ行為の結果に基づく金銭の支払に影響を及ぼす機器等(チップ、チップ現金交換機等)、ⅲ)カジノ行為の管理に関する機器等(カジノ管理システム等)のことである。
  6. ② 電磁的カジノ関連機器等の型式検定
    スロットマシーン等の電磁的カジノ関連機器等については、プログラム化されていることから、外形的にその性能を確認することが困難であり、かつ、大量生産されることから、行政の効率性等も考慮する必要がある。
    そこで、スロットマシーン等の電磁的カジノ関連機器等については、事前にカジノ管理委員会が品目ごとに型式の検定を行うこととし、合格した型式であることを確認するなどの方法により、基準適合性を確認することとすべきである。
    米国ネバダ州、シンガポールでも同様の規制が講じられている。
  7. ③ 非電磁的カジノ関連機器等の自己確認制度
    サイコロ、カード等の非電磁的カジノ関連機器等については、電磁的カジノ関連機器等と異なり、外形的にその性能を確認することは可能であることから、製造業者自身等がその性能を確認することとし、カジノ管理委員会は、自己確認方法を事前に審査した上で、必要があれば実際に性能を確認することとすべきである。
  8. ④ 型式検定の指定試験機関制度
    型式検定制度のうち、機器等の品質や性能等を試験する客観的・専門的・定型的な試験事務については、行政の効率性を考慮し、カジノ管理委員会以外の者に行わせることができることとすべきである。その結果を踏まえ、基準に適合するかを判断する事務については、カジノ管理委員会が自ら行うこととすべきである。

(6) カジノ事業活動の規制

  1. ア カジノ行為に関する規制
  2. ① 関連する推進法・附帯決議の規定
    推進法では、「カジノ施設において行われるゲームの公正性の確保のために必要な基準に関する事項」について政府は必要な措置を講ずることとされている(同法10条1項1号)。
    また、附帯決議では、 「政府は、・・・法制上の措置を講じるに当たり、・・・射幸性の程度・・・副次的弊害の防止等の観点から、刑法の賭博に関する法制との整合性が図られるよう十分な検討を行うこと」(第2項)、「・・・各種規制等の検討に当たっては、諸外国におけるカジノ規制の現状等を十分踏まえるとともに、犯罪防止・治安維持、青少年の健全育成、依存症防止等の観点から問題を生じさせないよう、世界最高水準の厳格なカジノ営業規制を構築すること」(第11項)とされている。
  3. ② 諸外国の規制
    公正性の確保及び射幸性の管理の観点から、ゲームの種類・内容が規制されており、米国ネバダ州やシンガポールでは、当局が認めたゲームのみ実施可能とされています。代表的なゲームは、以下のとおりである。

  1.   このほか、クラップス(ディーラーが投げる2つのサイコロの目の合計数を当てるゲーム)、カジノウォー(1枚ずつ配られたカードの数字の強弱で勝負をするゲーム)等が行われている。
    米国ネバダ州では、1,011種のゲームが認められており、シンガポールでは、マリーナ・ベイ・サンズに対し47種のゲームが、リゾート・ワールド・セントーサに対し39種のゲームが認められている。なお、これらのゲームの中には、上記の代表的なゲームのほか、これらの派生型のものも多数含まれている。なお、米国ネバダ州では、スポーツベッティングが認められているが、シンガポールでは認められていない。
    同様の観点から、ゲームのルールや支払いオッズ等の情報の表示を義務付けているほか、酩酊状態の客とのゲームの禁止等、ゲームの実施に関する基準も設けられ、カジノ事業者に順守義務が課されている。
  2. ③ 本取りまとめにおける制度設計(私見含む)
    本取りまとめでは、容認するカジノ行為の範囲については、①事業者がその公正な実施を確保することができる行為、②カジノ施設内でのみ実施される行為、③偶然の勝負に関し参加者が賭けを行う「賭博」に該当する行為に限定するとともに、その具体的な種類及び方法は、④カジノ事業の健全な運営に対する国民の信頼や理解を確保する観点から、カジノ管理委員会が社会通念上妥当と認めたものを定めることとすべきであるとされている。
    ①事業者がその公正な実施を確保することができる行為」に限定されるのは、カジノ行為の実施において、公正性の確保は極めて重要な要素であるからである(例えば、単純な顧客同士の賭けスポーツベッティング等他者が実施する競技(勝負)を賭けの対象とすることは不可。)。

    単純な顧客同士の賭け」という点では顧客間でプレーをするポーカーは禁止されると考えられる。これに対して、ポーカートーナメントは「単純な顧客同士の賭け」とは言えず直ちに禁止されるものとは考えられない。トーナメントにおいてゲームの公正性が確保されるものである場合には、認められる可能性があるものと考えられる。
    ②カジノ施設内でのみ実施される行為」に限定されるのは、依存症予防等の観点からカジノ施設への厳格な入場管理を行う必要があるからである(例えば、カジノ施設外から参加できるオンラインゲームは不可。)。
    ③偶然の勝負に関し参加者が賭けを行う「賭博」に該当する行為」との要件により、いわゆるeゲームなどの「スキルゲーム」がカジノ施設内で行うことが認められる可能性は低いものと考えられる。
    ④カジノ事業の健全な運営に対する国民の信頼や理解を確保する観点から、カジノ管理委員会が社会通念上妥当と認めたもの」との観点では、例えば、囲碁や将棋など技術が相当程度反映され、また、子供も楽しむことができる健全な娯楽として一般に普及している行為を賭博の対象とすることは、健全な娯楽としての社会的評価を損ねるおそれがあり、国民の理解が得られないと考えられるので認められまない。麻雀についても技術が相当程度反映され、娯楽として一般に普及していることに鑑みれば、これをカジノ施設内で導入するのは社会通念上認められないだろう。
    同様に、パチンコやパチスロのような風俗営業適正化法の「遊技」として認められているものをカジノ施設内で導入するのは、社会通念上認められないだろう。
    なお、公益目的のため地方公共団体による宝くじ等の「富くじの発売」が既に認められていることを考慮し、カジノ事業において実施を認めるカジノ行為は、「⑤刑法の「賭博」に該当する行為」と限定すべきである(例えば、カジノ施設内で行われるくじ類は不可。)。

    カジノ行為の規制基準

    禁止されるゲームの例

    1. ① 事業者がその公正な実施を確保することができる行為(単純な顧客同士の賭け、スポーツベッティング等他者が実施する競技(勝負)の賭け)
    1. ○ 単純な顧客同士の賭け
    2. ・ ポーカー(ポーカートーナメントは別途要検討)
       
    3. ○ 他者が実施する競技(勝敗)の賭け
    4. ・ 競馬、競輪その他のスポーツベッティング
    1. ②カジノ施設内でのみ実施される行為
    1.   カジノ施設外から参加できるオンラインゲーム
    1. ③ 偶然の勝負に関し参加者が賭けを行う「賭博」に該当する行為
    1. ・ eゲームなどの「スキルゲーム」
    1. ④ カジノ事業の健全な運営に対する国民の信頼や理解を確保する観点から、カジノ管理委員会が社会通念上妥当と認めたもの
    1. ・ 囲碁・将棋
    2. ・ 麻雀
    3. ・ パチンコ・パチスロ
    1. ⑤ 刑法の「賭博」に該当する行為
    1. ・ カジノ施設内で行われるくじ類
  3. イ 金融業務の規制
    カジノ事業者が行う金融業務として、ⅰ)顧客に金銭を貸付ける業務、ⅱ)顧客の金銭の送金・受入れを行う業務、ⅲ)顧客の金銭を預かる業務、ⅳ)顧客の金銭を両替する業務を認めるべきである。これらは諸外国のカジノにおいても認められている業務である。
    また、過剰な取立行為の規制や資金移動の際の履行保証金の供託の義務付け等、これらの業務を一般に規制している法律(貸金業法や資金決済に関する法律、出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律(以下「出資法」という。)等)とは別に、これらと同等の規制を講じるべきである。
    「ⅰ)顧客に金銭を貸付ける業務」については、(日本人、永住者等のうち)一定以上の現金を事業者に預託できる資力を有する者、又は外国人非居住者に限定すべきである。これは、金銭の貸付けに関してはカジノ行為への依存を助長するといった懸念が特に大きいと考えられ、シンガポールでは貸付対象を、シンガポール国民、外国人永住者のうち 10 万シンガポールドル(約 800 万円)以上をカジノ事業者に預け入れている者又は外国人非永住者に限定していることを踏まえたものである。
    また、過剰貸付けを防止するため、貸金業法を参考として、顧客の返済能力調査及び顧客ごとに貸付上限額の設定をする義務を事業者に課すべきである。
    「ⅱ)顧客の金銭の送金・受入れを行う業務」については、顧客の利便性を確保しつつ、マネー・ローンダリングへの懸念を排除するため、顧客からの依頼を受けた送金・受入れに関しては、金融機関を介することとし、かつ、事業者が管理する顧客の預り金と、顧客名義の預貯金口座との間の資金移動に限って、認めるべきである。
    クレジットカードなどの対象を限定した顧客への金銭の貸付け以外の与信は、原則として認めるべきではない。なお、外国人非居住者によるクレジットカードを利用したチップの購入については、諸外国のカジノでも認めている例があること及び外国人旅行客の利便性向上の観点から、認めるべきである。
    また、カジノ施設内における ATM の設置を禁止するとともに、事業者による貸付けを規制する趣旨を徹底するため、カジノ施設周辺においても貸付機能が付いていない ATM に限って設置を認めるべきである。
    クレジットカードとATMの規制はシンガポールにおいても設けられている。
  4. ウ カジノ施設内関連業務の制限
    我が国においては厳格な入場管理の徹底やカジノ事業の健全な運営の確保の観点から、カジノ施設内でカジノ行為の実施以外に行うことができる営業は、当該事業者のみが行えることとする。
    また、その内容については、善良な風俗の保持等の観点から、風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律の「接待」(歓楽的雰囲気を醸し出す方法により客をもてなすこと)を伴わない飲食や演奏等の提供等とすべきである。

(7) 事業方法に関する規制

  1. ア 内部管理体制の整備
    カジノ事業の実施は例外的特権としての性格を有することから、カジノ事業免許を受けた IR 事業者には高い規範と責任、廉潔性が求められるとともに、その事業活動は厳格な規制に服するものである。事業活動に関する個々の規制の確実な実施のほか、高い規範意識に基づくカジノ事業活動の実施を徹底するためには、カジノ事業者の内部管理体制を整備する必要がある。
    そこで、IR事業者に米国ネバダ州やシンガポールのカジノ事業者に課せられる内部管理体制の整備義務(米国では、最低限遵守すべき内部統制基準「MICS」(Minimum Internal Control Standard)と呼ばれる。)と同様の義務を義務付ける必要がある。
  2. ① IR 事業全体の業務の適正を確保するための内部管理体制の整備
    IR事業者に内部管理体制の整備(IR 事業全体の実施に係る規程の策定等)を義務付け、かつ、カジノ事業免許の審査対象等とすべきである。さらに、IR 事業の業務を監査する者を必置とし、この者による業務監査の実施等を義務付けるべきである。
  3. ② 財務の健全性及び公益性確保のための内部管理体制の強化
    IR 事業の財務健全性及び公益性を確保するため、IR 事業者に、IR 事業内の収益還元が確認できるような事業ごとの区分経理の実施を義務付けるとともに、財務報告書及び財務報告に係る内部統制報告書の作成、これらの報告書の認定都道府県等、主務大臣及びカジノ管理委員会への提出等を義務付けるべきである。
  4. ③ カジノ事業の重要な個別業務に関する内部管理体制の強化
    上記に加えて、例えば、カジノ事業について、各業務における内部管理規程の作成及び従業者の教育訓練、内部管理業務の統括管理及び監査を行う者の選任等を含む内部管理体制の整備を義務付けるべきである。

  1. イ カジノ施設利用約款の認可
    顧客のカジノ施設の適切な利用を確保するため、事業者に対し、カジノ行為の実施のほか、カジノ施設の入場管理、金融サービスの提供等顧客に提供する様々なサービスに関するカジノ施設利用約款を作成し、顧客との間で包括的な契約を締結させることを義務付けるべきである。
    また、カジノ施設利用約款はカジノ事業免許審査における審査対象等とすべきである。
    なお、カジノ施設利用約款の中には、反社会的勢力排除条項が設けられることになるが、本取りまとめではそれに加えて、全ての入場者から反社会的勢力でない旨の誓約書を取ることとされている。
  2. ウ カジノ事業に係る業務委託の原則禁止
    カジノ事業免許を受けた IR 事業者には、高度な規範・責任が求められることから、カジノ事業は原則としてカジノ事業者自らが行うべきであり、業務委託は基本的に禁止すべきである。
    しかしながら、カジノ事業では、中核的な業務であるカジノ行為の実施に関する業務だけでなく、金融業務やカジノ施設の保守、警備業務等、さらには飲食物の提供等のカジノ施設内関連業務が行われる。これらの中には、業務の効率性や専門性の観点から、委託を認めてもよい業務があると考えられる。
    これらも踏まえ、カジノ行為の実施に関する行為や賭け金の受入れ・賭け金の貸付業務等の中核的な業務については、委託を禁止すべきである。
    他方、例えば、カジノ関連機器等の保守等の管理業務、顧客の指示を受けて顧客の資金を顧客の預貯金口座に送金する行為、清掃等カジノ施設の管理業務、警備業務等については、専門性や効率性の観点から業務委託の必要性があり、また、カジノ事業の健全な運営に及ぼす影響は少ないと考えられることから、業務委託を可能とすべきである。
    この際の委託の方法については、カジノ事業の健全な運営の確保の観点から、これらの委託契約をカジノ管理委員会の認可制とし、カジノ管理委員会が背面調査により委託先の廉潔性を確認し、事業者には再委託以下の管理を含め、委託業務の適切な実施を確保するための措置を義務付けるべきである。
  3. エ ジャンケットの取扱い
    推進法の附帯決議第 11 項では、「諸外国におけるいわゆる『ジャンケット』の取扱についてはきわめて慎重に検討を行うこと」とされている。
    「ジャンケット」(junket)とは、カジノ事業者から委託を受けて、カジノへの顧客のマーケティング、顧客への資金の貸付け、顧客からの資金の回収をする事業者である。マカオのジャンケット・プロモーターは更に、カジノ事業者からカジノフロアを借り、顧客相手にカジノ行為を行っている。
    ジャンケットについては、マネー・ローンダリングや依存症の観点での問題が多く指摘されているところである。
    我が国では、「ジャンケット」という業の類型は設けることはしない方向である。
    「マーケティング」については、広告勧誘については、「何人」に対して虚偽・誇大な表示・説明等を禁止するとともに、広告勧誘業務を委託する場合には、カジノ管理委員会の認可が必要となる。また、第三者による「コンプ」の提供の契約を行う場合は、カジノ管理委員会の認可が必要となる。
    「カジノ行為の実施」はそもそも、免許を受けたカジノ事業者以外がカジノ行為を行うことがそもそも禁止されている。
    「貸付」については、カジノ施設内では、カジノ事業者以外が貸付けを行うことが禁止されている。
    「資金の回収」については、我が国では弁護士法において弁護士以外の者が金銭の取立てをすることが禁止されている。

 

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