実学・企業法務(第72回)
第2章 仕事の仕組みと法律業務
同志社大学法学部
企業法務教育スーパーバイザー
齋 藤 憲 道
Ⅲ 間接業務
2. 人事・勤労
〔ダイバーシティ〕[1]
ダイバーシティ経営とは、多様な人材の能力を最大限発揮させて企業のパフォーマンスにつなげる経営で、グローバル企業が競争優位を確立するのに不可欠な経営である。
2015年に制定された「女性活躍推進法」は日本企業にとってダイバーシティ経営実践の試金石となる。
ダイバーシティ経営の意義・効用として、次の4つが挙げられている。
- ⑴ グローバル化により多様化する市場ニーズに応じた商品開発・販売戦略を展開するには、供給側の人的構成にも市場と同様の多様性が求められる。特に女性は、国内・海外とも購買決定権の約2/3を握っており、供給側にも女性の視点が欠かせない。
- ⑵ 取締役会の視野・知見が広がり、変化への適応力が高まって、企業のガバナンスに効用[2]がある。
- ⑶ 欧米の機関投資家(年金基金等)のSRI[3](社会的責任投資)がダイバーシティへの取組を積極的に評価するので、資金調達に有効である。
- ⑷ より広い母集団から優秀な人材の選出が可能になる。
〔労働組合対応(労政)〕
労働組合が組織されている企業の労使交渉(賃金・賞与・就業規則条件等の交渉)は、通常、人事担当役員が会社を代表し、人事部門が会社側窓口を務めて行われる。
日本では、労働組合の設立は自由であり、行政機関等に届け出る必要はない。
ただし、労働組合が労働組合法の定める手続きに参与し、救済を受ける場合は[4]、その都度、一定の資格要件を備えて「資格審査申請書」と「立証資料」を管轄の労働委員会に提出し、資格審査を受けて「資格決定書(写し)」又は「資格証明書」の交付を受ける必要がある。
労働組合の争議行為については、労働組合法で住居不法侵入罪(刑法)や労働契約違反(民法)を追求されないように法律で定めている[5]。
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(注1) 労働組合の組織率
近年、経済が発展して生活が豊かになり、社会保障制度も充実したことから、第2次世界大戦後の経済復興期(1947~48年)に50%以上あった日本の労働組合の組織率は減少し、近年では20%を割り込んでいる[6]。 -
(注2) 労働組合間の連携(春闘等)
日本では、1956年以降、毎年春に「春闘」が行われてきた。「春闘」では、各企業等の労働組合が、全国中央組織の労働団体や産業別組織で合意・形成された要求水準に基づいて自社の要求内容を定め、これを会社側に提示して企業毎に団体交渉を行う。
「春闘」以外でも、年末一時金(ボーナス)や休暇制度について労組間で共闘する例がある。
[1] 内閣府男女共同参画局「共同参画 平成26年5月号」を基にして要約した。
[2] 「取締役会に女性が一人以上いる企業は破綻リスクが20%低くなっている」という英国の大学による調査結果(17000社を対象に調査)がある。
[3] Social Responsible investment(環境・社会・ガバナンス等の非財務情報を考慮した投資)
[4] (例)不当労働行為の救済申立てをする場合、労働委員会の労働者委員候補者を推薦する場合、法人登記をするために資格証明書の交付をうける場合、労働協約の拡張適用の申立をする場合、職業安定法で決められている無料の労働者供給事業の許可申請を行う場合等(中央労働委員会資料より)
[5] 労働組合法第1条2項、第8条
[6] 厚生労働省「平成27年 労働組合基礎調査」では2015年6月末現在の組織率(労働組合員数÷雇用者数)は17.4%。