◇SH1354◇ブラジルの倒産手続について(2) 後藤泰樹/古梶順也(2017/08/23)

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ブラジルの倒産手続について(2)

西村あさひ法律事務所

弁護士 後 藤 泰 樹

弁護士 古 梶 順 也

 

4. 裁判上の再生手続

 裁判上の再生手続は、米国のチャプター11手続を参考にして作られたといわれる法的再建手続である。裁判所により管財人が選任されるが、管財人は通常は監督を行うのみで、従来の経営陣が事業経営を継続する。その意味で、裁判上の再生手続は、米国のチャプター11や日本の民事再生手続のようなDIP型手続(債務者が財産管理処分権を保持し続ける型の倒産手続)になる。なお、裁判所や管財人などの完全な監督下で行われる手続という点で、後述する裁判外の再生手続と異なる。

(1) 申立て

A. 申立権者
 裁判上の再生手続の申立権者は債務者企業で、破産手続とは異なり、債権者による申立ては認められていない。なお、破産手続と同様に、株式会社(Sociedade Anônima)である債務者が裁判上の再生手続を申し立てる場合、株主総会の承認が必要となるが、緊急の場合には、支配株主の同意を得て申立てを行い、事後的に株主総会の承認を得るという形で進めることも可能である。

B. 申立要件
 債務者が申立てを行うためには、以下の要件を全て充足することが必要である(倒産法第48条)。

  1. (ⅰ) 債務者が、2年を超えて事業を継続していること
  2. (ⅱ) 債務者が、現に破産していないこと、過去に破産したことがある場合には、裁判所の決定により、残存債務の消滅が宣言されていること
  3. (ⅲ) 債務者が、過去5年以内に、再生計画の認可を得ていないこと
  4. (ⅳ) 債務者又はその役員若しくは支配株主が、倒産法に定めるいずれの犯罪においても有罪判決を受けていないこと

C. 申立ての効果
 再生手続の申立て自体には、破産手続の申立てと同様に、米国のチャプター11のような債権者の訴訟手続や強制執行を停止する効力(オートマティック・ステイ)はない。

(2) 再生手続開始決定

 申立てが適切になされた場合には、裁判所は、裁判上の再生手続の開始を決定する。申立てから裁判所による決定までは、通常1週間程度かかる。

 なお、再生手続開始決定がなされた場合、債務者は、債権者集会の承認がない限り、再生手続を撤回することはできない。

A. 再生手続開始決定の効力
 再生手続開始決定がなされると、当該決定日から180日間は、債務者に対するあらゆる訴訟手続及び強制執行(担保権の実行を含む。)が原則として禁止される。
 もっとも、再生手続の対象とならない債権(再生計画による権利変更の対象とはならない債権)は、当該停止効の対象にもならない。再生手続の対象とならない債権としては、例えば(i)再生手続の申立て後の原因に基づき発生した債権や(ii)租税債権(国税法等に基づく分割払いプログラムの対象となったものを除く。)が挙げられる。また、破産手続と同様に、債権者に信託譲渡(alienação/cessão fiduciária)されている財産については、債権者は当該停止効の影響を受けることなく再生手続外で権利行使ができるとされている。

 なお、破産手続開始決定と異なり、再生手続開始決定には、弁済期限の到来していない債権について弁済期限を到来させる効力は認められていない。

B. 管財人の選任
 再生手続開始決定に伴い、裁判所により管財人が選任されるが、上述のとおり、裁判上の再生手続における管財人は、原則として、債務者の事業の運営・管理は行わず、あくまで債務者の活動の監督をするにとどまり、いわば日本の民事再生手続における監督委員のような立場に立つものである。したがって、再生手続期間中は、基本的には、債務者が、裁判所、管財人及び(設置された場合には)債権者委員会の監督の下で、引き続きその事業の経営を行うことになる。

C. 相 殺
 裁判上の再生手続においては、破産手続と異なり相殺権を認める規定がない。そのため債権者が相殺を行うことができるかどうかについては争いがあり、判例においても相殺を認めるものと否定するものの双方が混在し、決着がついていない。

D. 双務契約の取扱い
 裁判上の再生手続においては、破産手続の場合と異なり、管財人や債務者に未履行の双務契約を解除するか継続するか選択する権利は与えられていない。したがって、未履行の双務契約が解除されるか否かにつきましては、債務者から行う解除にせよ、相手方から行う解除にせよ、契約の規律に従うことになる。但し、契約上は相手方に解除権が認められる場合であっても、申立て後に債務者に債務不履行がない場合に解除権の行使が権利濫用であるとした判例や、再生に不可欠な契約について契約の維持を裁判所が命じた例もある点には留意が必要である。

E. 無効な行為・取消可能な行為(否認権)
 裁判上の再生手続においては、破産手続と異なり、申立て前に債務者が行った債権者を害しうる行為について無効とする定めや、利害関係人により取消しできるとする定めはない。この点においては、破産手続と比較して、債権者の保護が十分ではないといえる。

(3) 再生計画

A. 再生計画の提出
 債務者は、再生手続開始決定が公表された日から60日以内に、再生計画(Plano de Recuperação)を裁判所に提出しなければならない。

B. 再生計画の内容
 再生計画には、(ⅰ)再生の手段の詳細、(ⅱ)経済的な再生可能性、(ⅲ)債務者の全ての資産及びその評価額についての専門家による報告等が記載される。(ⅰ)再生の手段として記載される事項としては、例えば以下のようなものが挙げられる(倒産法第50条)。

  1. (ⅰ) 弁済期限が到来した債権についてのリスケジュール
  2. (ⅱ) 債務者の会社分割、合併、組織変更、完全子会社の設立、株式又は持分の譲渡
  3. (ⅲ) 債務者の支配権の移転
  4. (ⅳ) 債務者の経営陣の変更
  5. (ⅴ) 増資
  6. (ⅵ) 一部資産の譲渡

 なお、再生の手段として、担保目的物を売却するためにその担保を解除又は変更しようとする場合には、当該担保に係る担保権者の明示的な同意を別途取得する必要がある。

C. 再生計画に定める債権者への弁済方法
 裁判上の再生手続においては、破産手続と異なり、各債権の弁済に関する優先順位の定めがない。そのため、各クラスの債権者に対する弁済方法は、再生計画において、債権の優先性や債権額と関係なく、柔軟に定めることができる。但し、特定のクラスの債権者を不利に扱う結果、再生計画について当該クラスの債権者の承認を得ることができず、また、後述するクラムダウンの要件も充足できないこととなれば、結局再生計画は認可されないことになる。したがって、債務者としては、再生計画の認可の見通しを踏まえて、各クラスの債権者への弁済方法を策定することになる。
 また、一定の債権については再生計画において定める弁済方法について政策的に制限が設けられている。すなわち、再生手続開始の申立日までに弁済期限が到来した労働債権及び労災に関する債権については、1年を超える弁済期限を設定することができないとされており、再生手続開始の申立日前3ヶ月の期間内に弁済期限が到来した給与債権 (但し、各債権者あたり、法定最低賃金の5ヶ月分に相当する金額を上限とする。)については、30日間を超える弁済期限を設定することができないとされている。

(4) 債権者集会における再生計画の承認

A. 承認要件
 再生計画に反対する債権者がいる場合には、債権者集会を開催し、再生計画の承認を得る必要がある。
 債権者集会においては、債権者は、以下の4つのクラスに分類されるが、再生計画の承認には原則として全てのクラスにおける承認が必要となる。

  1. (ⅰ) 労働債権及び労災に関する債権の債権者
  2. (ⅱ) 担保付債権の債権者(担保目的物の価額に相当する額を限度とする。)
  3. (ⅲ) 非担保債権、特別優先権付債権、一般優先権付債権、又は劣後債権の債権者
  4. (ⅳ) 法令で定める零細・小企業に分類される債権者

 債権者集会における承認要件はクラスによって異なり、(ⅰ)及び(ⅳ)のクラスについては出席債権者の過半数の賛成が必要となるのに対して(頭数ベースのみ)、(ii)及び(iii)のクラスについては、出席債権者の過半数の賛成に加えて、出席債権者が保有する債権の総額の半分を超える債権を保有する債権者の賛成が必要とされている(頭数ベース+債権額ベースの双方を要する。)。
 当該再生計画により債権額や弁済条件の変更を受けない債権者は、再生計画を承認する債権者集会において議決権を有しない。また、債務者の支配会社、被支配会社、債務者の10%超の株式を保有する株主、債務者に10%超の株式を保有される会社等の債務者の関係者・関連会社も、債権者集会において議決権を有しない。
 なお、外貨建債権は、集会の前日における為替レートによりブラジルレアルに変換された金額をベースに議決権が計算される。

B. 再生計画の変更
 債権者集会においては、債務者が明確に同意しており、かつ、当該変更内容が欠席債権者のみの権利を不利に変更するものでない場合には、再生計画の内容の変更を行うことができる。

(5) 裁判所による再生計画の認可

 再生計画に反対する債権者がいない場合又は再生計画が債権者集会において全てのクラスにおいて承認された場合には、裁判所は、当該再生計画を認可する。

 これに対して、債権者集会においていずれかのクラスにおいて再生計画が否決された場合、裁判所は、原則として破産手続開始の決定を行う。もっとも、全てのクラスにおいて承認が得られない場合であっても、以下の全ての要件を充たす場合には、裁判所は当該再生計画を認可することができるとされている(クラムダウン)。

  1. (ⅰ) クラスを問わず全ての出席債権者の債権額の半分を超える額の債権を保有する債権者が当該再生計画に賛成していること
  2. (ⅱ) 少なくとも2つのクラス(クラスが2つしかない場合は1つのクラス)において当該再生計画が承認されていること
  3. (ⅲ) 当該再生計画を否決したクラスにおいても、出席債権者の3分の1を超える債権者(上記(4) A.の(ⅰ)及び(ⅳ)のクラスについては頭数のみ、上記(4) A.の(ⅱ)及び(ⅲ)のクラスにおいては頭数及び債権額の双方)が再生計画に賛成していること
  4. (ⅳ) 当該再生計画に、否決したクラスに属する債権者の間で異なる扱いが含まれていないこと

 裁判所の認可によって、債務者及び全ての債権者は、再生計画に拘束され、再生計画に従い権利の変更が行われる。

(6) 裁判上の再生手続の終了

A. 再生手続の終了
 再生計画が認可された日から2年以内に弁済期限が到来する全ての債権の弁済が完了するまで、債務者は、裁判上の再生手続に服する。その間、債務者は、再生計画の実施の進捗状況について管財人及び裁判所の監督に服する。
 また、かかる債権の弁済が全て完了したとき、裁判所は、裁判上の再生手続の終了を決定する。
 なお、再生計画が認可された日から2年間経過した日以降は、再生計画に定める義務の違反があった場合、債権者は個別の執行を求めることができ、また、その時点で破産申立ての要件を満たす場合には、破産を申立てることができるようになる。

B. 破産手続への移行
 再生計画の認可後、裁判上の再生手続が終了するまでに、債務者において再生計画に定める義務の違反があった場合、裁判所は、管財人の申出に基づき破産手続への移行を決定する。その他、以下に定める場合、裁判所は、破産手続への移行を決定する。

  1. (ⅰ) 債権者集会において、出席債権者の債権額の半分を超える額の債権を保有する債権者が破産手続への移行について賛成したとき
  2. (ⅱ) 債務者が、再生手続開始決定が公表された日から60日以内に、再生計画を裁判所に提出できなかったとき
  3. (ⅲ) 再生計画が債権者集会で否決されたとき

 なお、破産手続に移行した場合であっても、再生手続中になされた、経営者の行為、債務の負担、担保の設定、権利譲渡は、倒産法に従ったものである限り、有効であるとみなされる。

 

5. 裁判外の再生手続

 ブラジル倒産法における裁判外の再生手続は、裁判上の再生手続とは異なり、債務者が、裁判所に対する申立て前に、特定のグループに属する債権者(主要債権者)との間で再生計画について事前に交渉を行い、合意が成立した後に裁判所に対して再生計画の認証を申し立てる手続であり、英国、シンガポールなどの英国法系の制度を採用する国におけるスキーム・オブ・アレンジメントに類似する手続といえる。機能としては日本や米国におけるプレパッケージ型/プレアレンジ型の倒産手続申立てに類似しており、事後的に再生計画について債権者の合意を得られないという不確実性を排除し、再生手続を効率的かつ迅速に進めることを目的とするものである。

 なお、裁判外の再生手続に関しては、特に管財人等の選任は行われず、裁判外の再生手続の実施期間中も、債務者自身が引き続きその事業の経営を行うことになる。

(1) 再生計画についての事前交渉

A. 再生計画の対象債権
 裁判外の再生手続は、債務者が特定の債権者との間で再生計画を提案・交渉することにより開始する。但し、裁判外の再生手続の対象となる債権には制限があり、例えば租税債権や労働債権及び労災に関する債権については裁判外の再生手続の対象にはできない。
 なお、労働債権及び労災に関する債権については、裁判上の再生手続の対象にはなるが、裁判外の再生手続の対象にはできないとされている。

B. 再生計画に定める債権の弁済方法
 裁判外の再生手続においては、裁判上の再生手続と同様に、破産手続のような各債権者の弁済に関する優先順位の定めがないため、再生計画においては、柔軟に再生計画の対象とする各債権の弁済方法を定めることができる。
 もっとも、特定の債権についての期限前弁済の定めや手続の対象とならない債権者に不利益を生ずる定めは規定することができないとされている。
 なお、裁判上の再生手続と同様に、再生計画において、担保目的物を売却するために、その担保を解除又は変更しようとする場合には、当該担保に係る担保権者の明示的な同意を別途取得する必要がある。

(2) 再生計画の認証の申立て

 債務者は、特定のグループの債権者(主要債権者)と合意ができた場合、裁判所に対して、当該再生計画の認証を求めることができる。但し、(i)裁判上の再生手続開始の申立てがなされている場合又は(ii)過去2年以内に裁判上の再生手続の実施や他の裁判外の再生手続についての認証があった場合には、債務者は、当該認証の申立てを行うことができないこととされている。

 なお、再生計画の認証の申立て自体には、破産手続開始決定に係る停止効(上記3.(2)A.参照)のような効力はない。但し、再生計画に停止効と同様の効力を有する規定を設けることにより、再生計画に拘束される債権者に対して停止効と同様の効力を生じさせることが可能である。

A. 再生計画に拘束される債権者
 裁判外の再生手続に係る再生計画は、以下に定める債権を有するグループ又は同じ性質及び類似の支払条件に服する債権者のグループの一つ又は複数を対象とすることができる。

  1. (ⅰ) 担保付債権
  2. (ⅱ) 特別優先債権
  3. (ⅲ) 一般優先債権
  4. (ⅳ) 無担保債権
  5. (ⅴ) 劣後債権

 再生計画の対象となる全てのグループについて、各グループに属する債権者の債権額の5分の3を超える額の債権を保有する債権者の合意が得られている場合には、裁判所の認証により、当該認証に係る申立ての日までに存在する対象グループの全ての債権者(再生計画に反対している債権者を含む。また、支払期限が到来していない債権を有する債権者も含む。)が、再生計画に拘束されることとなる。
 他方、特定のグループについて、そのグループに属する債権者の債権額の5分の3を超える額の債権を保有する債権者の合意を得られていない場合には、当該グループに属する債権者のうち当該認証により再生計画に拘束されるのは、実際に再生計画に合意した債権者のみとなる。
 再生計画の対象となる債権者のグループの範囲については柔軟に定めることが許されており、実務的には、当該5分の3超要件を充たすためにグループの範囲を調整することも行われている。

B. 再生計画の認証の効力
 裁判所によって再生計画の認証がなされると、当該再生計画に拘束される債権者については、再生計画に従った権利変更が行われることとなる。

(3) 裁判外の再生手続の終了

 認証された再生計画が完全に履行されたときに、裁判外の再生手続は終了する。債務者が認証された再生計画を遵守しない場合、要件を充足するときは、債権者は破産を申し立てることができる。

 

以 上

 

  1. (注) 本稿は法的助言を目的とするものではなく、個別の案件については当該案件の個別の状況に応じ、日本法又は現地法弁護士の適切な助言を求めていただく必要があります。また、本稿記載の見解は執筆者の個人的見解であり、西村あさひ法律事務所又はそのクライアントの見解ではありません。
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