◇SH1366◇コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(9)-組織のライフサイクルと組織文化④ 岩倉秀雄(2017/08/29)

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コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(9)

――組織のライフサイクルと組織文化④――

経営倫理実践研究センターフェロー

岩 倉 秀 雄

 

 前回は、創業時の組織文化について、シャインの考察と筆者の日本トライアスロン協会創立時の経験をもとに考察した。組織文化の維持・革新を、何時、どのような基準で判断し実施するのかは、非常に重要な経営トップ固有のミッションであり、本稿でも、今後の重要テーマとして検討する。

 今回は、一定の成長を遂げた成熟期の組織の組織文化と経営者の行動について検討する。これについて、シャインは、以下のようないくつかの指摘をしている(Edgar H.Schein(1999)”The Corporate Culture Survival Guide(金井壽宏監訳、尾川丈一=片山佳代子訳『企業文化――生き残りの指針』(白桃書房、2004年)143頁~147頁、及びEdgar H.Schein(2009)“The Corporate Culture Survival Guide:New and Revised Edition”尾川丈一監訳、松本美央訳『企業文化〔改訂版〕――ダイバーシティと文化の仕組み』(白桃書房、2016年)145頁~165頁)

  1. 1. 組織は、創業者(又は創業一族)による支配から、ゼネラル・マネージャー(全般経営管理者)による経営管理プロセスを通じた支配に移る。そして、組織内で昇進してきたゼネラル・マネージャーは、非経済的価値観(人道的、環境的、社会的、精神的)よりも、事業運営における実利的問題や財務的健全性を優先させる。そして、多くの場合社外取締役中心の強力な取締役会よりも立場が弱い。
  2. 2. この時期には、組織文化の重要な要素はもはや組織の構造や主要プロセスに深く埋め込まれているので、改めて文化を意識したり、ことさら文化を構築・統合・維持しようと努めることは重要ではなくなっている。初期の頃には、リーダーシップによって文化が作られたが、この段階では文化がリーダーを作り出すようになっている。文化に合う管理職しかトップに立てなくなっている。
  3. 3. 成熟期の組織は、地理的拡大、製品開発、市場開拓、垂直統合、合併・買収、事業部制への移行等、何らかの成長と変化を通して組織を構築・維持していかなければならない。
  4. 4. 組織が規模拡大するにつれ、グローバル化、合併・買収、ジョイントベンチャー、新技術の導入等が発生するが、既存の組織文化との整合性の判断が必要になる。強力なサブカルチャーが育ってくる場合もあり、コングロマリットでは、共通の組織文化を維持すべきか否かの問題も発生する。
  5. 5. リーダーの本質は、文化をどう創るかではなく、既に発生している多様なサブカル  チャーをどう管理するかに移る。高度に分化した組織を統合・展開する中で、機能しなくなった要素をどう置き換え、新たな環境に適合する文化的要素をいかに強化していくかが中心テーマになる。
  6. 6. これまでの組織の強みと弱みが、経営環境の変化により変わる場合がある。

 成熟期の組織では、創業時の組織文化が定着すると同時に組織を取り巻く内外の環境が大きく変化してくる。特に、経営者が創業者(家)からゼネラル・マネージャーに交代することから、事業と組織文化に関する管理上の様々な課題が発生することになる。

 筆者は、シャインの指摘から以下のような課題や疑問を感じる。

  1. 1. 内外環境の変化に合わせて、組織文化を革新する必要があるのか? 逆に維持しなければならないのか? 革新は全面的か? マイナーチェンジなのか? マイナーチェンジだとすれば、どの部分を変えずにどの部分を変えるべきなのか? それはなぜか?
  2. 2. 文化が組織の制度やプロセスに影響をもたらすとすれば、環境不適合になった制度やプロセスは、即ち組織文化の不適合を表すのか? それとも、単に技術的修正の必要性を示しているだけなのか?
  3. 3. リーダーはサブカルチャーをどう管理するのか? 特にグローバルビジネスを行なっている企業等の組織は、国や地域における組織文化の違いの管理をどうすれば効果的に実施できるのか? その際、本社の組織文化との整合性をどうするのか?
  4. 4. 文化がリーダーを選ぶとすれば、既存の文化に選ばれたリーダーが自分を選んだ文化を革新できるのか? 革新は自己否定につながらないのか? 自分の後継者はどんな人物を選ぶのか?新たな環境適合的な文化要素とは何か?
  5. 5. 創業者の精神的な要素とゼネラル・マネージャーの現実の課題解決的・数字的な要素の整合性をどうとるのか? また、社会が期待・要請するテーマ(CSV経営やSDGs等)との整合性をどうするのか? 等

 以上、様々な課題が想定されるが、これらについても今後の本稿のテーマになる。

 次回からは、組織文化の革新について理論的検討を加え、その後、筆者が提案し事務局長として運動を牽引した「全酪連牛乳不正表示事件」発生時の組織風土改革運動の実践について述べる。

 

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