◇SH3596◇インドネシア:オムニバス法の制定(9)~投資規制の緩和(1) 前川陽一(2021/04/26)

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インドネシア:オムニバス法の制定(9)~投資規制の緩和(1)

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 前 川 陽 一

 

 2020年11月2日に制定された雇用創出に関する法律(通称「オムニバス法」)に基づく投資法の改正に関連して、いわゆるネガティブリスト(大統領令2016年第44号)の改正が待たれていたところであるが、2021年2月2日付でネガティブリストに代わる新たなリストを定めた大統領令2021年第10号が公布された。大統領令2021年第10号は2021年3月4日から施行され、これに伴い大統領令2016年第44号は効力を失った。

 

 本稿では、オムニバス法関連記事の第三弾として大統領令2021年第10号が定める新たなリストについて解説する。なお、このリストの呼称として、従前のネガティブリストから大幅な規制緩和が行われたものである点を強調し、「プライオリティリスト」や「ポジティブリスト」などを用いている例が見られるが、現時点ではいまだいずれかに定着したものとまでは言えないようであるので、本稿では以下「新リスト」と呼ぶこととしたい。

 

 オムニバス法は、中央政府に独占される業種及び投資が禁止される業種を除く全ての事業分野を投資のために開放している。すなわち、防衛や安全保障に関連する業種は中央政府の独占業種として、また、①麻薬の栽培及び製造、②賭博及びカジノ、③ワシントン条約附属書I記載の魚種の捕獲、④サンゴの利用又は採取を伴う活動、⑤化学兵器製造、並びに⑥工業化学物質及びオゾン破壊物質の製造の6業種を投資禁止業種として指定したうえ、これらに該当しない事業分野を一般の投資のために開放している。但し、新リストによって、投資のために開放されている全ての事業分野に対して外資100%の出資が可能になったわけではないことに留意されたい。

 

 新リストにより、投資のために開放されている事業分野は、次のとおりに分類される。

(1)優先事業分野
(2)中小零細企業・協同組合のために留保される、又はこれらとのパートナーシップが必要な事業分野
(3)特定の条件付き事業分野
(4)上記以外の事業分野

 

 以下、各分類の内容について述べる。

 

1. 優先事業分野

 国家戦略プロジェクト、資本・労働集約型産業、ハイテク産業、パイオニア産業、輸出志向産業、及び研究開発・イノベーション志向産業を優先事業分野と定め、245の事業分野が指定されている。優先事業分野に対しては、タックス・アローアンス、タックス・ホリデー、インベストメント・アローアンスと呼ばれる各種租税の優遇・減免措置や輸入関税免除措置といった税制上のインセンティブのほか、許認可の緩和、インフラ設備等の提供、原材料・労働力の調達の便宜等といった非税制上のインセンティブが別途法令の定めるところに従って与えられる。

 

2. 中小零細企業・協同組合のために留保される、又はこれらとのパートナーシップが必要な事業分野

 単純な技術による事業、労働集約的ないし伝統承継的な特殊工程を有する事業、又は投資金額100億ルピア以下(土地・建物の価値を除く。)の事業を中小零細企業及び協同組合(以下「中小企業等」という。)のために留保される事業分野と定め、51の事業分野が指定されている。これらの事業分野に対して、外資は参入することができない。

 

 これに対して、中小企業等により主に行われている事業であって、サプライチェーンに組み込まれることでスケールアップが見込まれる事業を中小企業等とのパートナーシップが必要な事業分野と定め、38の事業分野が指定されている。これらの事業分野は、外資が単独で行うことはできず、中小企業等とのパートナーシップにより実施しなければならない。パートナーシップの内容について新リストに詳細な規定はないが、従前のネガティブリストの下でパートナーシップとして認定されていた下請け、代理店及びフランチャイズ形態等を含むものと考えられる。

(つづく)

 


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(まえかわ・よういち)

1998年東京大学法学部卒業。2006年東京大学法科大学院修了。2007年弁護士登録(第一東京弁護士会)。2013年Northwestern University School of Law卒業(LL.M.)。2013年~2016年長島・大野・常松法律事務所ジャカルタ・デスク(Soemadipradja & Taher内)勤務。2019年10月~長島・大野・常松法律事務所シンガポール・オフィス勤務。

現在はシンガポールを拠点とし、インドネシア及び周辺国における日本企業による事業進出および資本投資その他の企業活動に関する法務サポートを行っている。

長島・大野・常松法律事務所 http://www.noandt.com/

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