◇SH0728◇マレーシア:マレーシア贈収賄法制(下) 長谷川良和(2016/07/08)

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マレーシア贈収賄法制(下)

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 長谷川 良 和

 

 前回、「マレーシア贈収賄法制(上)」の中で、マレーシア腐敗対策委員会法に基づく処罰対象行為及び罰則を紹介した。本稿は、その続編として、当該処罰対象行為に関する基本概念と特徴、マレーシア外の腐敗防止法制、及び腐敗防止体制の構築に関して言及したい。

 

3. マレーシアの腐敗に係る主要法制

(3)処罰対象行為を画する基本概念と特徴

 マレーシア腐敗対策委員会法に基づく処罰対象行為で言及される「利益」は、金銭の他、その他の財物、サービス等も含めて広く定義されており、腐敗対策委員会法上、ファシリテーションペイメントのような少額の利益供与を処罰対象行為から除外する規定は設けられていない。また、「不正に」は、同法上定義されておらず裁判所の解釈に委ねられており、何らかの利益の収受若しくは収受の約束又は供与若しくは供与の約束がされた場合には、それが「不正に」なされたものと推定されることになり、被疑者はそれに対し反証の負担を負うこととなる。

 日系企業にとって実務上重要なポイントの一つは、公務員への利益供与等に限らず、いわゆる私人間賄賂と呼ばれる私人間の所定の腐敗行為も規制対象とされる点である。すなわち、腐敗対策委員会法は、私人に対する利益供与等も含む点で、外国公務員等に対する不正な利益供与等の禁止を定める日本の不正競争防止法と比べても処罰対象範囲が広い点に注意する必要がある。日系企業の中には、マレーシア拠点に集中購買機能を担わせている企業もあるが、例えば新規に特定のサプライヤーからの購入を決定する見返りとして購買担当者個人が当該サプライヤーから相当額の金銭を受領するような行為は、私人間賄賂として処罰対象となる可能性があるので、私人間の取引においても腐敗行為が生じないよう十分留意する必要がある。

 

4. マレーシア外の腐敗防止法制

 マレーシアで活動する日系企業にとっては、マレーシアの腐敗対策委員会法に加え、代表的な海外の外国公務員等に対する贈収賄規制である米国の海外腐敗行為防止法(Foreign Corrupt Practices Act)及び英国の贈収賄防止法(UK Bribery Act)、並びに日本人に関して外国公務員等に対する不正な利益供与等の禁止について定める日本の不正競争防止法等の違反が生じないよう留意することも重要である。

 

5. 腐敗防止体制の構築

 腐敗防止のためには、各社の事業実態と実際のリスクの所在を踏まえた体制構築が重要である。適切な体制構築を行っていた事実は、実務上、腐敗行為を訴追するか否かの判断時に、また最終的に有罪となる場合でも情状の一要素として、企業又はその取締役に有利に斟酌される可能性がある。また、腐敗行為を理由として企業又は取締役に対して民事上の責任追及がなされた場合にも、民事上の責任がない旨の主張を基礎づける有利な事情となり得る。かかる事情も踏まえ、平時から各社の実情に合った適切な腐敗防止体制の構築を心がけることが重要といえよう。

 

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