◇SH2094◇スルガ銀行、第三者委員会調査報告書を公表 山田康平(2018/09/18)

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スルガ銀行、第三者委員会調査報告書を公表

岩田合同法律事務所

弁護士 山 田 康 平

 

1. はじめに

 スルガ銀行は、2018年5月15日、同年1月にスマートデイズがシェアハウスオーナーに対する賃料支払を中止したことに端を発するシェアハウス関連融資の問題についての事実の調査及び原因の究明等を目的として、第三者委員会を設置した。

 2018年9月7日、上記第三者委員会による調査報告書が公表されたため、「なぜスルガ銀行で不正行為等が蔓延したのか」をテーマに、その内容の一部を紹介する。

 

2. 第三者委員会が認定したスルガ銀行における不正行為等の概要

 スルガ銀行は、2018年6月期までに、シェアハウスローンを含む収益不動産ローン[1]全般で、71,796百万円(推計)の貸倒引当金を計上している。この問題に関して、第三者委員会は、以下のような個別の不正行為等を認定している。

 

 ① 直接的な偽装行為
  1. ・ 債務者関係資料の偽装:預金通帳の残高の偽装、源泉徴収票の偽装など
  2. ・ 物件関係資料の偽装:レントロールの偽装による賃貸収入の偽装、賃貸借契約書の偽装等による入居状況の偽装など
  3. ・ 売買関連資料の偽装:売買契約書の偽装など
  4. ⇒ 書類の偽装が収益不動産ローン全般に蔓延

 

 ② 偽装以外の不正行為等
  1. ・ 抱合せ販売:収益不動産ローン(有担保)と無担保ローンの抱合せ販売など
  2. ・ 繰上返済の防止:契約上の根拠なく、金利が低い他行からのリファイナンスを制限
  3. ・ 業者への個別の不動産情報の持ちかけ
  4. ・ 審査部が取引停止処分とした業者と別の法人を介して関係を継続

 

 ③ 不正行為等の温床を醸成する行為
  1. ・ 業者への審査条件の暴露
  2. ・ 行員と債務者との面談が契約締結時のみ
  3. ・ 業者からの交通費等の受領

 

 

3. 不正行為等が蔓延した主な原因

(1) 審査体制の問題

 審査部内の融資管理部は、ある会議において、収益不動産ローンの融資基準や審査体制に関する多数の問題点を指摘していた。しかし、当該会議で指摘された問題点は、審査部内でも共有されておらず、経営会議や取締役会でも取り上げられなかった。

 また、審査部の担当者は、収益不動産ローンのリスクを早期の時点から把握・認識していたが、審査担当者が否定的な意見を述べたとしても、最終的には営業側の意見が押し通され、融資実行されることが大半であった。

(2) 営業の問題

 スルガ銀行の単年度の営業目標は、営業現場の実態が勘案されない厳しい営業ノルマとなっており、行員には強度のプレッシャーがかけられていた。

 また、営業現場は、書類だけ揃えれば良いという極端な形式主義に陥っていた。

 加えて、業者の管理を適切に行うことができず、悪質な業者との付き合いを断つことができていなかった。

(3) 内部監査体制の問題

 内部監査は、内部監査規程等の社内規程を遵守して行われていたものの、いずれの監査も事前に作成した監査計画、監査方針、監査チェックリストなどで特定した項目について、形式的かつ事務的な確認をするにとどまり、実効的な監査が行われていなかった。業務監査の際に実質的なヒアリングなどを行っていれば、多数の不正行為等や審査の機能不全の兆候を掴み、早期に改善することができた可能性がある。

(4) その他の問題

 以上のほか、コンプライアンス意識の欠如・統制環境(企業風土)の劣化、ガバナンスの機能不全などが、不正行為等が蔓延した原因として指摘されている。

 

4. まとめ

 本件では、審査部門が適切にその機能を発揮できなかったことが、不正行為等が蔓延した一つの大きな原因として挙げられている。そして、そのような状態に陥った要因として、営業本部が聖域化し、数字を挙げてくる者にモノをいえないという空気とともに、営業本部が創業家から支持されているというバックグラウンドがあったことが指摘されている。

 スルガ銀行固有の要因もあろうが、営業部門の立場が強いという状況は多くの会社に当てはまるところであろう。内部統制システムが実質的に機能していることの重要性を改めて痛感させられる事例であり、多くの会社の教訓となると思われるので、その概要を紹介した次第である。

以 上



[1] 住宅ローン以外の不動産投資向けローンの総称。主なものとして、プレミアムアセットプラン1(投資用の区分所有マンション向けローン)と資産形成ローン(アパート等の新築・増改築資金等を資金使途とするいわゆるアパートローンのうち、新たに不動産を購入する者向けのローン)が挙げられる。

 

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