◇SH1433◇コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(17)-合併組織の実態とコンプライアンス課題 岩倉秀雄(2017/10/13)

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コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(17)

――合併組織の実態とコンプライアンス課題――

経営倫理実践研究センターフェロー

岩 倉 秀 雄

 

 前回は、マーチ&サイモン[1]のコンフリクトの発生メカニズムに関する研究を踏まえ、どうすればマネジメントの困難性を減じてコンプライアンスを組織文化に浸透・定着できるのかについて、方向を検討した。

 合併組織では、組織文化の違いや共同意思決定の必要性が高いにもかかわらず、組織成員間に目的の差異や知覚の差異、あるいはその両方が大きく、コンフリクトが発生しやすく、かつ組織の統制力が十分に確立されていない。仮に統制の裏づけである公式権限や公式の調整メカニズムがあったとしても、その機能が効果的に発揮されるために必要な共通の組織文化や相互信頼関係が確立されていないので、コンフリクトが顕在化しやすくマネジメントの困難度が高くなる。

 そこで、筆者は、マネジメントの困難度を下げる以下の2方向を提唱した。

  1. A: コンフリクトの発生そのものを抑える
  2. B: コンフリクトが発生しても、組織内に統制力(公式権限や調整メカニズム)を働かせて、コンフリクトの顕在化を抑制する

 今回は、それに基づく具体的な取組みを考察する前に、知っておくべき合併組織の実態とコンプライアンス課題について、筆者の合併組織における経験を踏まえて確認する。

 

【合併組織の実態とコンプライアンス課題】

  1. 1. 合併組織では、共通の組織文化がまだ形成されておらず、異なる組織文化を持ったメンバーが共存しているので、互いの行動や意思決定の背景や理由が理解できず、そのために職場のいたるところでコンフリクト(軋轢)が生じやすい。
  2. 2. 合併組織では、組織内の意思決定プロセスが明確化されていないか、あるいは組織内に徹底されていないので、意思決定ルールも全成員に納得され共有化されていない。このように、組織が混乱状態にある場合には、意見の合理性よりも親会社の資本構成が優位な者、人数の多い多数派、声の大きな者等の主張が通りやすく、少数派やおとなしい者の主張が通り難くなる。また、合併組織で新たに設定されるルールも、公平性や合理性よりも、組織内で多数を占める者が有利になるように巧妙に差別を織り込んで作られることもある。そのため、後者の人々の不満が蓄積しやすく、この状態を放置しておくと、内部告発を誘発しリスクが増大する。
  3. 3. 合併組織では、出身会社主義による評価・処遇が行なわれやすく、人事やポストの主導権争いで割を食った者の不満が蓄積しやすい。将来の出世につながる花形ポストは多数派が占め、楽しくないリスクの大きなポストは少数派に分配されやすい。そのため、少数派に不満が鬱積しやすく内部告発や、組織に対する反発からコンプライアンス違反発生のリスクが増大する。
  4. 4. 多数派や少数派に限らず、合併組織では競争優位を実現するために、新たな枠組みに基づいて業務を推進しなければならず、そのために旧社で慣れ親しんだ進め方をアンラーンニング(学習棄却)し、新たな業務の進め方を学習し直さければならない場合が多い。このため、年配者を中心に新たな業務の進め方に適応できない者に、喪失感やストレスが発生しやすい。特に、若手の上司と年配の出身会社の異なる部下との間には軋轢が生じやすく、上司が配慮に欠ける言動をする場合には、部下は自信喪失に陥り精神的に参る(極端な場合にはうつ病になる)か、反発してモチベーションが下がる危険がある。そのため、職場の雰囲気は悪化し、短期的にはともかく中長期的には人材が毀損され、業績に悪影響が出る。
  5. 5. 合併会社は、利益第一主義になりやすく、そのためにコンプラインス違反が発生しやすい。既述したように合併は強い者同士が更に強くなるために行なわれる場合もあるが、多くは単独では立ち行かない組織が合併により利益を上げようとする場合に行なわれる。経営者は、株主・金融機関等から、短期的に利益をあげるように経営改善圧力を受けており、そのような圧力の下では、経営者も利益を上げることを第一に従業員に求めやすい。合併により混乱した組織状況の中で、利益最優先を求める組織では、「少々のコンプライアンス違反には目をつぶり、まず利益を上げることを第一に目指す」という心理が働きやすい。
    また、合併組織における人事評価は、付き合いが短く互いの人間性や仕事の仕方を十分に理解していない上司と部下の間で行なわれるので、結果だけで評価しやすく、業務プロセスにコンプライアンス違反があるか否かのチェックは働きにくい。

 次回は、コンプライアンスを含めたマネジメントの困難性を減ずる方向を、具体的に考察する。



[1] J.G., March, & H.A., Simon, Organizations, New York, 1958.(J. G. March, & H. A. Simon(土屋守章訳)『オーガニゼーションズ』(ダイヤモンド社、1977年))

 

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