◇SH1446◇コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(19)-合併組織の軋轢を減らす② 岩倉秀雄(2017/10/20)

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コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(19)

――合併組織の軋轢を減らす②――

経営倫理実践研究センターフェロー

岩 倉 秀 雄

 

 前回は、いかに合併組織のコンフリクト(軋轢)を減らすかについて、コンフリクトの発生原因である組織メンバーの 1.「目的の差異」と 2.「知覚の差異」のうち、1.「目的の差異」を減らす方向を筆者の経験を踏まえて考察した。

 合併組織では、新たに設立された組織の、設立目的や経営理念、ビジョン、行動規範、戦略や戦術、合併組織で求められる役割・能力を明示し、経営者が繰り返し徹底的に従業員に伝え、従業員の理解と納得を得ることが重要である。また、合併組織の立ち上時には経営計画のモニタリングを徹底し、差異が出た場合には迅速に対応することが必要である。

 今回は、2.「知覚の差異」を少なくする方向を考察する。

2.「知覚の差異」を少なくする方法の考察

 合併組織におけるコンフリクトの最大の発生原因は、人事評価や処遇に関する出身会社による差別感である。既にその弊害については述べたが、本稿では人事評価・処遇に関する「知覚の差異」を削減する方法を考察する。

 人事評価で不満を感じるのは、人事評価システムそのものに公平感が無い場合や、人事評価システムは公平に策定されたとしても、実際の運用で不公平感を感じる場合である。

 合併組織に限らず一般の組織でも、人事評価に不公平感を感じさせないことは永遠の課題であるが、合併組織の場合には出身組織主義の先入観や出身組織における組織文化の違い、評価対象者に対する情報不足による誤解が生じやすく、被評価者は不公平感を抱きやすい。

 争点の1つは、合併組織の人事システムの設計段階で発生する。

 一般に、合併組織に移籍する人々の給与水準や賃金体系は出身組織により異なる。出身組織による給与水準や賃金体系の違いをどのように扱うかは、合併組織の人事制度設計において重要な課題である。

 旧組織時代の賃金を合併組織に反映させるのか否かの問題は、当面、旧組織時代のそれぞれの賃金を持ち込み、調整給により一定時間後に同一にする方式もあり得るが、筆者は反対である。はじめから、同一労働に同一賃金を支払うという公平な割り切りが必要である。 調整給による賃金の調整は、出身組織間の差別を浮き上がらせ不公平感を生む。すなわち、合併会社は出身組織主義というメッセージを発信することになり、従業員は強い不公平感を持ち、そのために不利な組織の従業員のモチベーションは大幅に下がり、旧組織間の差別意識や対立を刺激・拡大し、コンフリクトの発生原因になる。

 本来、給与やポストは組織貢献への対価であるべきであり、合併組織での努力やパフォーマンス(組織貢献度)と関係の無い旧組織の給与水準を合併組織に反映することは、互いに協調して業績を拡大しなければならない合併組織において、経営者がいくら理念や組織目的・行動規範を説いても、誰も本気で聞かない。むしろ、経営者の話を疑い、モチベーションを下げ、その結果、業績向上を妨げるだけではなく、内部告発を誘発し、不正を犯す心理的口実を与えることになる。(筆者は自らが関わった合併組織の設立において、それを経験したことがある。これについては後述する)

 次に、合併組織における人事評価の進め方であるが、評価基準を明確にするとともに、評価者訓練を通して評価に差別が生じないようにするほか、チーム力強化貢献項目等を設けて、合併組織の融和に役立つチーム貢献行動を積極的に評価するべきである。

 合併組織における管理システムの設定(採用)が合併交渉における重要テーマになるのは、組織目的の遂行に最もふさわしい管理システムは何かという問題だけではなく、合併組織における各人の初期の能力の評価とその後の人事評価に影響を与えるからである。

 通常は、資本構成の高い組織の出身者や人数の多い組織の出身者が慣れ親しんだ経営管理システムが採用されやすいが、一方、少数派の組織の出身者には、それが不公平に感じやすい。その不公平感を減ずるためには、それを踏まえた多面的な評価が必要である。

 また、合併組織では、新たな組織文化の形成を迅速・意図的に進め、出身組織の組織文化の違いによる知覚の差異を減ずるとともに、コンプライアンス(倫理・法令遵守)の組織文化への浸透・定着を図る必要がある。

 以上、2回にわたり、合併組織におけるコンフリクトの発生を減ずる方向から、コンプライアンスマネジメントの要諦を考察してきた。

 次回からは、コンフリクトの顕在化を調整する統制力について考察する。

 

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