◇SH0340◇インドネシア:新PPP制度の導入 福井信雄(2015/06/12)

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インドネシア:新PPP制度の導入

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 福 井 信 雄

 インドネシアの首都ジャカルタの交通渋滞に象徴されるように、現在のインドネシアが抱える最大の課題の一つがインフラ整備の遅れである。インドネシア政府は2005年にインフラ整備に関する政府と民間企業の協調に関する大統領令(2005年第67号)(以下、「旧PPP令」という。)を制定し、いわゆるインドネシア版PPP(パブリック・プライベート・パートナーシップ)を導入してインフラ整備のための法的枠組みを整備した。旧PPP令下では、対象となるインフラ事業として、①輸送機関、②道路、③水、④飲料水、⑤下水、⑥通信、⑦電気、⑧石油ガスの8つの分野が定められていたが、現在に至るまでこのPPPの枠組を使ったインフラ案件は1件も成就していない。他方で、今後インドネシアに必要なインフラ整備に要する資金を全て国家の財政で賄うことは不可能であり、民間資金を利用したインフラ整備の枠組みは必須である。そこで、このインドネシア版PPP制度を実質的に機能させるべく、政府は2015年3月20日、インフラ整備に関する政府と民間企業の協調に関する大統領令(2015年第38号)(以下、「新PPP令」という。)を新たに制定した。(これにより旧PPP令は無効となった。)本稿では新PPP令における主要な変更点について概説する。

1  対象事業

 旧PPP令で規定されていた対象事業に加え、新たに⑨省エネルギー、⑩都市施設、⑪教育施設、⑫スポーツ・文化芸術設備、⑬地域インフラ、⑭観光インフラ、⑮保険インフラ、⑯矯正施設、⑰公営住宅、⑱廃棄物処理施設が追加された。これまで経済インフラに限定されていた対象事業がいわゆる社会インフラにまで拡大されたと評価できる。

2  入札によらない事業者選定

 新PPP令では、入札によらない事業者選定、即ち随意契約による契約締結が以下のいずれかの場合に認められている。

(ア)  事業者選定段階で事前資格審査に参加した事業者が1者のみである場合。

(イ)  特別な技術を有する事業者によってのみ実施しうる等の特別な事情がある場合。

3   支払スキームの多様化

 新PPP令では、PPP事業における事業者の投資回収手段として新たに「アベイラビリティ・ペイメント」と呼ばれる方法を規定している。アベイラビリティ・ペイメントとは、事業契約に定められた水準に基づいた、政府機関による対象施設・インフラの利用度合い(アベイラビリティ)に応じて事業者になされる定期的な利用料の支払いを意味する。これによりいわゆる箱モノ事業だけではなく、サービス購入型の事業の可能性が出てきたと評価できよう。なお、このアベイラビリティ・ペイメントが利用できるのは、以下の2つの要件を満たしている必要があると規定されている。

(ア) インフラプロジェクトの開発段階が完了しており運営が実施できる状態にあること。

(イ) 政府機関が、当該インフラが適用あるサービス指標の最低値を満たしていることを宣言していること。

 新PPP令の詳細については、今後制定される施行規則に委ねられているため実際にどの程度利用可能性のある制度として実務界に提供されることになるのかはまだ見えない部分が残るものの、今後新PPP令により民間資金を活かした公共インフラの整備が進むことが期待される。

 

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