◇SH1453◇東弁、弁護士法人アディーレ法律事務所らに対する懲戒処分についての会長談話 粉川知也(2017/10/24)

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東弁、弁護士法人アディーレ法律事務所らに対する懲戒処分についての会長談話

岩田合同法律事務所

弁護士 粉 川 知 也

 

1 事案の概要

 平成29年10月11日、東京弁護士会は、弁護士法第56条に基づき、弁護士法人アディーレ法律事務所(以下「アディーレ」という。)に対し、業務停止2月、元代表社員の弁護士に対して業務停止3月の懲戒処分をそれぞれ言い渡した。

 アディーレは、その広告表示が不当景品類及び不当表示防止法(以下「景表法」という。)の有利誤認表示に該当した[1]との理由で消費者庁から広告禁止の措置命令をうけていたところ、東京弁護士会は、アディーレの広告行為が、景表法などに違反する弁護士法人として品位を失うべき非行であると判断し、上記の懲戒処分を言い渡したものである。

 アディーレは、弁護士200名弱を抱える大規模事務所であり、今回の懲戒処分により、社会的な影響が生じ得ると考えられるため、弁護士会の懲戒処分と本件における影響について紹介する。

 

2 弁護士会の懲戒処分

 弁護士会においては、「弁護士自治」が認められており、監督官庁等は存在しないなど国家機関による直接の監督は行われず、各弁護士及び弁護士法人が所属する弁護士会及び日弁連が弁護士に対する懲戒処分を行うことができる。

 ここで定められている懲戒処分には、重いものから順に、①除名、②退会命令、③2年以内の業務停止、④戒告の4種類が存在している(弁護士法57条、効力等は下表1のとおり。)。

 弁護士会に懲戒請求が申し立てられた場合、その内容に応じて、各弁護士会は委員会による審査を経て懲戒処分の有無やその内容を決定している。そして、各弁護士会から懲戒処分を受けた対象者は、その内容に不服がある場合には日弁連に対して不服申立てを行うことができるほか、さらに不服がある場合には東京高等裁判所に処分の取消訴訟を起こして争うことが可能である(詳細は下表2[2]のとおり)。

 

3 本件における影響について

 本件においては、東京弁護士会がアディーレに対する懲戒処分として③の業務停止を選択したことにより、アディーレは一切の弁護士業務を行うことが禁止され、処分の告知を受けた時点から2か月間弁護士業務を行うことができなくなった。

 弁護士又は弁護士法人が業務停止処分を受けた場合、戒告処分とは大きく異なり、依頼者との新たな契約はもちろん、過去の契約の継続も許されないため(業務停止期間が1か月以内、かつ、依頼人も希望する場合を除く。)、アディーレは顧問契約等も含めた依頼者との委任契約を全て解約、代理人としての地位を辞任し、依頼者からの預かり金等を返還する義務が生じるほか、事務所や名刺の使用が禁止され、法律事務所としての表示を除去しなければならないなどの厳しい措置が課されることとなる[3]。(なお、アディーレが本件の処分の効力を不服として争い(弁護士法59条、61条など)、かつ、処分の効力の執行停止が認められない限りはこれらの措置を回避することはできない。)

 これによって、現時点では少なくとも以下のような問題点が生じてくるものと思われる。

 アディーレの依頼者は、アディーレとの委任契約を継続することができないため、アディーレに委任していた事件については、基本的には別の弁護士に改めて依頼するか、本人自身で行う必要が生じる。(なお、アディーレのように処分対象が弁護士法人の場合は、事件の担当弁護士が個人の立場で受任することは規定上可能ではあるが、担当弁護士側から働きかけはできず、かつ、依頼者から希望がある場合に限られる。)

 既に金銭を預けていた場合には、その返還等の処理が必要になるほか、裁判対応を委任していた場合には、アディーレの代理人は裁判の期日に出頭できないため、新たな代理人を選任するか本人が出頭しなければ、欠席として判決を下されてしまう事態も想定され、裁判の相手方にとっても裁判の期日が遅れるなどの影響が生じることも考えられる。

 依頼者との全ての委任契約を解約させる強力な処分である業務停止処分について、これまで対象となってきたのは個人から数人規模の小規模の弁護士、弁護士法人であったところ、アディーレは弁護士200名弱の大規模事務所であり、過去の懲戒事例に比しても非常に膨大な数の依頼者が存在していると考えられ、社会的に大きな影響が生じかねない状況である。アディーレによる不服申立てが行われる可能性もあり、今後の状況を注視していく必要がある。

 

表1 弁護士の懲戒処分の種類

①除名 弁護士会を退会となり、弁護士として活動できなくなるほか、弁護士としての資格も3年間失う
②退会命令 弁護士会を退会となり、弁護士として活動できなくなる(ただし、他の弁護士会への入会が認められれば、弁護士としての活動は可能)
③業務停止 一定期間、弁護士としての業務を行うことを禁止する
④戒告 弁護士に反省を求め、戒める

 

表2



[1] 景表法違反の点については、荒田龍輔弁護士によるトピック解説
  (◇SH0804◇法律事務所による不当表示禁止違反 荒田龍輔(2016/09/20)
  が行われており、そちらも参照されたい。

[2] 日本弁護士連合会HP
  (https://www.nichibenren.or.jp/jfba_info/autonomy/chokai.html

[3] 弁護士法人の業務停止期間中における業務規制等について弁護士界及び日本弁護士連合会のとるべき措置に関する基準参照
  (http://www.nichibenren.or.jp/library/ja/jfba_info/rules/pdf/kaisoku/kisoku_houjin_goutei_kijun.pdf

 

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