◇SH1466◇コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(22)―従業員相談窓口の正常な機能発揮 岩倉秀雄(2017/10/31)

未分類

コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(22)

――従業員相談窓口の正常な機能発揮――

経営倫理実践研究センターフェロー

岩 倉 秀 雄

 

 前回は、組織がコンフリクトの原因となる問題を事前に発見し、深刻化する前に対応することにより調整力を発揮する方法の1つであるコンプライアンス・アンケートについて考察した。

 コンプライアンス・アンケートの実施で重要なことは、単に従業員の意識の変化を時系列的に把握することではなく、部署ごとの課題を浮き彫りにして部署長に責任を持って改善するように促すとともに、各部署に潜む緊急性の高い問題を発見し、放置せず直ちに解決に動くことである。

 今回は、内部統制のツールとしてなくてはならない、従業員相談窓口について考察する。

 

【従業員相談窓口の正常な機能発揮】

 筆者の経験では、正常に機能させることができれば、従業員相談窓口は、組織のリスクを早期に発見し自助努力で問題解決を可能とすることから、組織のコンフリクトの顕在化を抑制する非常に有効なツールである。[1] 

 一定規模の組織であれば、内部の他に外部にも専門の相談窓口(弁護士事務所を含む)を設け、運用に当っては、通報者・調査協力者の秘密保持と不利益扱いの禁止や役職員の調査への協力義務を定めている。また、その活用方法のPRにも努めている。

 組織によっては、本社の相談窓口を特別相談窓口とし、通常の相談は、各現場にコンプライアンスリーダーを設け、本社担当部門と連携して問題解決に動く場合もある。また、子会社では、それぞれの会社内に相談窓口を設け、必要により親会社の担当部門と連携して解決に当る。

 子会社については、子会社に相談窓口を設けず親会社に集約する考え方もあるが、筆者は、子会社で不祥事が発生した場合等の緊急事態を除き、子会社自ら相談窓口を設置し、親会社と共通の外部相談窓口を設け親会社と連携して問題解決に当ることが、子会社の自覚を促し問題解決力を高めることができると考える。

 なお、従業員相談窓口は、仕組みを作れば機能するというわけではない。

 従業員相談窓口は、組織の自浄作用を働かせる有効なツールにならない場合もある。

 不祥事調査に当った第3者委員会の報告でもしばしば指摘されることだが、従業員が内部通報したにもかかわらず、担当部門が解決に向けて行動せず、対応に失望した通報者が外部に通報し、それが事件として報道される場合もある。

 その場合、担当部門が単に怠慢だったのか、動こうとして上司や関連部門に働きかけたが、当該部門や経営幹部の圧力により潰されたのか、あるいは、組織ぐるみの不祥事隠蔽に加担し、通報者が不利益扱いされ失望して退職するのを待ったのか、真相は不明である。

 2つ目は、逆に、通報者が、上司や特定の人を、従業員相談窓口を利用して貶めるために、パワハラやセクハラ等を通報する場合である。(このような場合も、実際にはある)

 いずれの場合にも、従業員相談窓口の本来の目的が達せられない。

 従業員相談窓口を正常に機能させ設置目的を達成するためには、何が必要か?

 組織文化の視点からは、経営トップ以下の役員がコンプライアンス重視の組織文化を築き、担当部門が誠意を持って問題解決に当り、関係部署もそれに協力することであるが、必ずしもそうなっていない場合もある。

 現実には難しいが、少なくとも、コンプライアンス担当役員とコンプライアンス部門に、責任感・誠実性・情熱のある人材を選任し、問題が発生した場合には役員と担当部門が、密接に連携して直ちに対応し解決を図る必要がある。また、コンプライアンス担当役員は、正義感と誠実性を持つだけではなく、代表取締クラスの強力な役員が担うべきである。

 なぜならば、他部門の圧力や干渉を排除してコンプライアンス経営を貫かなければ、組織が存続の危機に陥るからである。

 次に、従業員相談窓口を悪用する場合には、(全ての相談に言えることだが)十分な調査により相談内容の裏づけを取るとともに、悪用した場合には罰則があることを日頃から周知徹底する必要がある。ただし、罰則を強調し過ぎると、相談そのものが減り相談窓口設置の主旨を損ねることになるので、表現には工夫が必要である。

 今回は、従業員相談窓口の役割を評価しつつ、それが正常に機能しない場合を考察した。

 次回は、統制力のベースとなるコミュニケーションについて考察する。



[1] 2004年6月に公益通報者保護法が施行され、各組織は従業員相談窓口を設け対応を図ってきたが、2016年12月にその民間事業者向けのガイドラインが改正された。筆者は、改正前のガイドラインでは緩過ぎて企業等における現実の運用のほうがむしろ先行していると思っていたが、今回の改正で、実際の運用に役立つより実効性のあるものになったと思われる。

 

タイトルとURLをコピーしました