インドネシア:外国人による居住用不動産の取得に関する新大臣令
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 前 川 陽 一
居住外国人による居住用不動産の所有に関する政令2015年第103号(以下「政令103号」という。)の規定を受けて2016年3月21日に制定された農地・都市計画大臣令2016年第13号(以下「旧規則」という。)は、同年9月26日、農地・都市計画大臣令2016年第29号(以下「新規則」という。)により全面的に改正され、同日施行された(改正に伴い旧規則は廃止された。)。政令103号に関する解説は坂下大弁護士による前稿「◇SH0544◇インドネシア:外国人による居住用不動産の所有に関する新政令(2016/02/05)」を、旧規則に関する解説は拙稿「◇SH0656◇インドネシア:外国人による居住用不動産の取得にかかる最低価格規制(2016/05/12)」をそれぞれ参照されたい。
新規則において特筆すべき点は、外国人が保有できない形態の権利(所有権(Hak Milik)や建設権(Hak Guna Bangunan))上の物件であっても、外国人が購入できる道を開いたところにある。すなわち、新規則は、所有権(Hak Milik)や建設権(Hak Guna Bangunan)上の物件を売買等により外国人に移転することができ、移転に伴って当該権利は外国人が保有可能な使用権(Hak Pakai)に転換され、物件を取得した外国人は所管の土地局に当該土地について使用権(Hak Pakai)の登記をするものと整理したのである。また、旧規則は外国人が購入可能な物件を新築に限っていたが、新規則はこれを中古物件にまで広げた。
なお、新規則の施行によっても、インドネシアの土地に関する権利関係を規律した土地基本法(1960年第5号)や政令103号の規定に変更はない。従前は、これらの法令に基づき、外国人に土地を譲渡する際において当該土地の権利は使用権(Hak Pakai)でなければならないと整理され、運用されてきたところである。このような従前の実務との関係で、これらの法令の下位に位置付けられるべき新規則の規定をどのように論理的に整合させるのか、やや疑問を感じるところではある。もっとも、新規則の下での運用が定着すれば、使用権(Hak Pakai)上の物件の数が限られているという供給面でのボトルネックは事実上解消されることになり、居住資格のある外国人による居住用不動産の取得が進むことが期待される。
さらに、新規則は、旧規則で規定された外国人が購入可能な居住用不動産の最低価格を以下のとおり更新した。
地 域 | 戸建て住居 | マンション居室 |
ジャカルタ特別州 | 100億ルピア | 30億ルピア |
バンテン州 | 50億ルピア | 20億ルピア |
西ジャワ州 | 50億ルピア | 10億ルピア |
中部ジャワ州 | 30億ルピア | 10億ルピア |
ジョグジャカルタ特別州 | 50億ルピア | 10億ルピア |
東ジャワ州 | 50億ルピア | 15億ルピア |
バリ州 | 50億ルピア | 20億ルピア |
西ヌサトゥンガラ州 | 30億ルピア | 10億ルピア |
北スマトラ州 | 30億ルピア | 10億ルピア |
東カリマンタン州 | 20億ルピア | 10億ルピア |
南スラウェシ州 | 20億ルピア | 10億ルピア |
その他の地域 | 10億ルピア | 7億5千万ルピア |
(10億ルピア=約800万円)
ジョグジャカルタ特別州及びバリ州の戸建て住宅の最低価格が30億ルピアから50億ルピアに、西ヌサトゥンガラ州及び北スマトラ州の戸建て住宅の最低価格が20億ルピアから30億ルピアに、バンテン州のマンション居室の最低価格が10億ルピアから20億ルピアにそれぞれ引き上げられている一方で、ジャカルタ特別州のマンション居室の最低価格は50億ルピアから30億ルピアに引き下げられた。