◇SH3957◇中国:債権回収の新制度の活用及び実務上の留意点(下) 鹿はせる/季菲菲(2022/03/29)

未分類

中国:債権回収の新制度の活用及び実務上の留意点(下)

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 鹿   はせる

中国弁護士 季   菲 菲

 

(承前)

3 出国制限制度

 信用喪失者公表制度と消費制限制度以外に、民事訴訟法及び「最高人民法院による民事訴訟法執行手続の適用における若干問題に関する規定」[1](「執行手続規定」)によれば、被執行人が判決等により確定された義務を履行しない場合、執行申立人の申立により、又は裁判所の職権により、被執行人に対して出国制限の措置を取ることができるとされています(民事訴訟法262条、執行手続規定23条)。この場合も、被執行人が法人である場合には、その法定代表者、主要責任者、又は債務履行に直接影響を与える責任者は出国制限の対象となる(同規定24条1項)。

 本制度は、とりわけ債務者が外資企業である等、法定代表者又は役職員が外国に拠点を有する場合に有効である。裏返せば、日系企業としては、取引の相手方からこのように中国からの出国制限の申立てを申し立てられるリスクを考慮する必要がある。

 

4 第三債務者への履行通知

 上記信用喪失者公表制度、消費制限制度、出国制限制度については、いずれも債務者自身又は関係者の行為を制限することや、圧力を加えることにより任意弁済を促すものである。これに対して、第三債務者への履行通知は、債権者が直接債務者に対して債務を負う第三債務者に対して、直接取立権限を認めることで、債権回収を可能とする執行制度であり、日本民法の債権者代位権の執行と類似している。

 同制度は、①被執行人が債務を返済せず、かつ、②被執行人が訴外の第三者に対して弁済期が到来した債権を有する場合に、裁判所が執行申立人又は被執行人の申請により、第三者に対して期限到来債務を履行するよう通知を発行することにより利用できる(執行工作規定45条)。

 上記の通り、債務者が有する第三債務者に対する債権は、弁済期が到来したものである必要があるが、どういった債権に係る文書を提出する必要があるかが問題となる。この点、現在の実務においては、第三債務者の財産を直接執行する効果を鑑みて、ここでも第三債務者に対する支払を命じる裁判所の判決書、民事調停書、仲裁委員会による仲裁判断書、強制執行力のある公正証書の提出が求められることが一般的である。もっとも、担当裁判所によって取扱いが異なるため、当該制度を利用するにあたっては予め裁判所に確認することが望ましい。

 なお、これらの証明書類のうち、特に民事調停書や仲裁判断はパブリックサーチができないため、債務者が第三債務者に対して期限到来債権を保有していることを裁判所に証明するために、債務者又は第三債務者の協力が必要となる場合が少なくない。また証明できた場合であっても、第三債務者に任意の返済を促す必要があることが実務上のハードルとなりうる。

 

5 その他実務上の留意点

 上記1から4までの手段は、それぞれ要件・効果が異なるものの、併用が禁じられているわけではないため、実務上、要件を満たす限り全て申し立て、可能な限り債権回収を図ることが考えられる。円滑に進行した場合、申立から許可が認められるまでの期間はいずれもおよそ1-3ヶ月程度である。とりわけ債務者に実際に資力がある場合には、大幅な和解の譲歩を得られる可能性がある。

 但し、留意点として、上記制度はいずれも中国の裁判所を通じて行う必要があるが、中国では①裁判所が恒常的に事件数に対して裁判官の人員が不足していることと、②地方によって裁判所の事案処理のばらつきが大きく、申立の受理・処理の効率性や判断において差が出る。有効に活用するためには、北京、上海、深圳等の大都市の裁判所において申し立てることができるよう管轄条項を定めることや、早期に案件受理し、有利な判断に必要な証拠の準備・提出など、担当裁判官と綿密に協議を重ねる等工夫が求められる。

 また、上記制度は、いずれも強制執行段階で用いるものであるが、日系企業であれば、中国企業との国際取引において、仲裁条項を定めるのが一般的と思われる。その場合、これらの制度を利用するためには、原則としてまず仲裁機構による仲裁判断を取得する必要がある。取得後、ニューヨーク条約に基づき中国の裁判所に対して当該国外仲裁判断の承認及び執行を申し立て、承認を得たうえで、執行段階において上記制度や規定を利用することが可能になる。

 この点、日系企業は中国企業との取引において、シンガポールなど中立第三国の仲裁機関の利用を望むことがよくあるが、中国国内の仲裁機関の場合[2]、仲裁申立と同時に中国国内の裁判所に債務者の財産保全措置(銀行口座の凍結等)を申し立てることができるのに対して、第三国の仲裁機関の場合は、仲裁手続中そういった財産保全申立ができず、その間債務者の財産隠し・移転行為が行われやすい点はデメリットとして留意すべきである。

以 上



[1] 中国語:最高人民法院关于适用《中华人民共和国民事诉讼法》执行程序若干问题的解释

[2] 香港の仲裁機関も基本的には可能である。

 


この他のアジア法務情報はこちらから

 

(ろく・はせる)

長島・大野・常松法律事務所東京オフィスパートナー。2006年東京大学法学部卒業。2008年東京大学法科大学院修了。2017年コロンビア大学ロースクール卒業(LL.M.)。2018年から2019年まで中国大手法律事務所の中倫法律事務所(北京)に駐在。M&A等のコーポレート業務、競争法業務の他、在中日系企業の企業法務全般及び中国企業の対日投資に関する法務サポートを行なっている。

 

(Feifei・Ji)

日本長島・大野・常松律師事務所上海オフィス顧問。2015年華東政法大学外国語学部(日本語専攻)、法学部(第二専攻)卒業、2018年華東政法大学大学院修了(法学修士)。現在長島・大野・常松法律事務所上海オフィスの顧問として一般企業法務、M&A及び企業再編、紛争解決を中心に幅広い分野を取り扱っている。(※中国法により中国弁護士としての登録・執務は認められていません。)

 

長島・大野・常松法律事務所 http://www.noandt.com/

長島・大野・常松法律事務所は、約500名の弁護士が所属する日本有数の総合法律事務所です。企業法務におけるあらゆる分野のリーガルサービスをワンストップで提供し、国内案件及び国際案件の双方に豊富な経験と実績を有しています。

当事務所は、東京、ニューヨーク、シンガポール、バンコク、ホーチミン、ハノイ及び上海にオフィスを構えるほか、ジャカルタに現地デスクを設け、北京にも弁護士を派遣しています。また、東京オフィス内には、日本企業によるアジア地域への進出や業務展開を支援する「アジアプラクティスグループ(APG)」及び「中国プラクティスグループ(CPG)」が組織されています。当事務所は、国内外の拠点で執務する弁護士が緊密な連携を図り、更に現地の有力な法律事務所との提携及び協力関係も活かして、特定の国・地域に限定されない総合的なリーガルサービスを提供しています。

詳しくは、こちらをご覧ください。

 

タイトルとURLをコピーしました