◇SH1502◇コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(26)―合併組織の親会社のガバナンスの発揮 岩倉秀雄(2017/11/17)

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コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(26)

―合併組織の親会社のガバナンスの発揮―

経営倫理実践研究センターフェロー

岩 倉 秀 雄

 前回は、筆者の労働組合委員長時代の経験を踏まえて、合併組織における労働組合の役割について考察した。

 合併組織の労働組合は、組合員が旧組織の別々の文化を持った人々の集まりである点で、合併組織の縮図になっている。合併組織の組合執行部は、組織の結集が図りやすい経済問題に集中しがちである。しかし、合併組織はコンプライアンス違反が発生しやすくコンフリクトも顕在化しやすいので、組合は、雇用を守り働きやすい職場を確保するために、経営側と連携してコンプライアンスの組織文化への浸透・定着に積極的に取り組むべきであり、組合の上部組織はそれを支援する必要がある。

 今回は、合併組織の親会社のガバナンスの発揮について組織間関係論の視点から考察する。

 

【合併組織の親会社のガバナンスの発揮】

 企業グループにおける親会社の子会社監督責任は、平成26年改正会社法により明示的に法に規定された。本稿では、合併会社のコンフリクトの顕在化を統制する親会社の役割について、失敗の原因と対策を考察する。

 一般に、企業グループの親会社は、子会社への社外役員(取締役・監査役)の派遣、親会社の内部監査部門による子会社の内部統制態勢の監査、法務・コンプライアンス部門やCSR部門によるCSR(コンプライアンス)アンケート調査や研修、親子会社共有の従業員相談窓口の社内外への設置等により、子会社の内部統制態勢の充実、CSR・コンプライアンス意識の浸透を図り、問題があれば直ちに是正する仕組みを構築している。

 それらの仕組みが正常に機能していれば、合併子会社のコンプライアンス問題は顕在化しないはずだが、現実には以下の原因により必ずしもうまく機能していない。

  1. 1. 親会社の各部門間の連携が円滑に行われず、子会社のコンプライアンス情報が共有化されないために、問題が見過ごされる。
  2. 2. 過半数の株を持たない株主が複数いる合併会社では、互いにけん制し出身会社主義による問題の隠ぺい、対応の不公平、時には担当部門への妨害等が発生する。特に、コンプライアンス(CSR)部門の担当者の出身会社の持ち株比率が低い場合には、経営トップや主要役員・他組織出身者の協力が得にくい。
  3. 3. 経営改善・再建圧力の強い合併組織では、利益優先・現業部門重視になりやすいので、(コンプライアンス部門の担当者の資質や出身組織の組織文化にもよるが)コンプライアンス担当部門は制度設計だけに留まり、現業部門に対する遠慮(忖度)が働き、現業部門の行動を是正できないケースがある(筆者はしばしば見聞きした)。その場合には、従業員相談窓口への通報やアンケート調査で違反情報を得ても、担当部門が体を張って解決に動かない(あるいは動けない)。
  4. 4. サブカルチャーの発達した大規模(グローバル)企業で、CSR・コンプライアンスに対する経営者の理解が十分でない場合には、親・子会社ともマンパワーが不足し、グループとしてコンプライアンスを浸透・定着させられない等、組織により様々なケースが想定される。

 それらの困難を乗り越えて、親会社がガバナンスを発揮して合併子会社にCSR・コンプライアンスを浸透・定着させるためには、以下のことが必要になる。

  1. 1. 親会社の担当役員、子会社統括部門、内部監査部門、法務・コンプライアンス部門、監査役(含監査等委員)等、関係部署が密接に連携し、子会社情報を共有するとともに問題があれば直ちに対応する。
  2. 2. 組織グループには組織間文化が存在する。親会社の経営者・担当部門は、子会社の人事・各種制度形成・情報共有により子会社にパワー(影響力)を発揮して、CSR・コンプライアンス重視の組織間文化を形成する。組織間文化の形成は、経営トップ固有の仕事である。(報酬と制裁のパワー、情報専門性のパワー、一体化のパワー、正当性のパワー等を発揮する。これについては、後に詳述する)なお、CSR・コンプライアンス部門に誠実で優秀な人材を配置することは、組織がCSR・コンプライアンスを重視しているメッセージになる。
  3. 3. 2に関連して、対境担当者の地位は高いほど効果があるので、親会社の経営トップや担当役員が、対境担当者としてあらゆる機会をとらえて、公式・非公式にグループの経営理念やCSR・コンプライアンスの重要性を、子会社の役員・担当者・従業員に説く。
  4. 4. アンケート・従業員相談窓口等で課題や問題点が発見された場合には、放置せず親子会社が連携して直ちに対応し、現場での改善効果を確認する。(やりきる)
  5. 5. 研修は、可能な限り子会社の現場で実施する。親会社に子会社の担当者を呼んで実施する集合研修では、各現場の実態を自分で把握できず、現場での研修に比べ効果が薄い。

 今回は、筆者の親会社のコンプライアンス部長、子会社の管理担当役員の経験を踏まえて、組織間関係論に基づき、コンフリクトの顕在化を統制する親会社のガバナンスの発揮について考察した。

 次回は、合併会社において特に留意すべきコンプライアンス上の課題と対応をまとめる。

 

 

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