◇SH1470◇改正民法の「定型約款」に関する規律と諸論点(6) 渡邉雅之/井上真一郎/松崎嵩大(2017/11/01)

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改正民法の「定型約款」に関する規律と諸論点(6)

弁護士法人三宅法律事務所

弁護士 渡 邉 雅 之
弁護士 井 上 真一郎
弁護士 松 崎 嵩 大

 

7 定型約款の内容の表示(定型約款の内容の表示に係る相手方の請求権)

(定型約款の内容の表示)

  1. 第548条の3 定型取引を行い、又は行おうとする定型約款準備者は、定型取引合意の前又は定型取引合意の後相当の期間内に相手方から請求があった場合には、遅滞なく、相当な方法でその定型約款の内容を示さなければならない。ただし、定型約款準備者が既に相手方に対して定型約款を記載した書面を交付し、又はこれを記録した電磁的記録を提供していたときは、この限りでない。
  2. 2  定型約款準備者が定型取引合意の前において前項の請求を拒んだときは、前条の規定は、適用しない。ただし、一時的な通信障害が発生した場合その他正当な事由がある場合は、この限りでない。

(1) 概要

    表示義務が生じる場合 違反した場合の効果
定型取引
合意前 
原則 相手方から請求があった場合には、遅滞なく、相当な方法でその定型約款の内容を示さなければならない。 請求を拒んだときは、548条の2は適用しない(みなし合意の効力は生じない。)。
例外 定型約款準備者が既に相手方に対して定型約款を記載した書面を交付し、又はこれを記録した電磁的記録を提供していたときは、この限りではない。 一時的な通信障害が発生した場合その他正当な事由がある場合は、この限りでない。
定型取引
合意後 
原則 相当の期間内に相手方から請求があった場合には、遅滞なく、相当な方法でその定型約款の内容を示さなければならない。 規定なし。
例外 定型取引合意前と同じ。

 改正548条の2第1項が定める組入要件に関して前述したとおり、約款の事前開示は組入要件から外され、相手方の請求権という形で改正548条の3に定められ、以下のとおり、限定的に組入効果との連動性が保たれることとなった。

  1. ► 事前開示の組入要件からの切り離し(従前の契約説との違い)
  2. ① 相手方の請求がないときは、定型約款の内容が表示されなくても、(定型約款によることの合意や表示があれば)個別条項のみなし合意の効力が生じ得る。
  3. ② 契約締結前において、定型約款準備者が相手方の請求を「拒んだとき」(上記例外を除く。)には、個別条項のみなし合意の規定の適用が排除される(この限りでは開示と組入が連動)。
  4. ③ 契約締結後の開示義務も定められているが、組入との連動関係はない。

(2) 開示の方法

 開示請求を受けた定型約款準備者は、定型約款に当たる各条項が記載された書面を現実に開示したり、掲載されているウェブページを案内するなどの相当な方法によって相手方に定型約款を示すことが想定されている。これは契約上の義務となるものであり、その違反は契約上の義務違反となる。 [1]

 もっとも、定型取引合意後の開示請求に対する開示の「相当な方法」は、定型取引合意前の開示請求に対する開示の「相当な方法」とは必ずしも同じではないと指摘する見解もある。すなわち、契約締結前であれば契約締結前に知る機会があればよいとしても、契約締結後の約款内容を開示する「相当な方法」として求められるのは、常時確認が可能な状態を相手方に保障することであろうと考えれば、恒常的に手元に置くことのできる措置(プリント・アウトやダウンロードなど)が用意される必要があろうし、また、そのような措置について相手方が利用できることを現実的に確保するような形で示される必要があるということになる。[2]

(3) 開示義務の存続期間

 相手方は定型取引合意前のほか、定型取引合意後であっても相当の期間内であれば定型約款の内容を表示することを定型約款準備者に請求することができる。なお、相当の期間内とは、契約が継続的なものである場合には、その終了から相当の期間を指す趣旨である。[3]

 もっとも、ここでの「相当の期間内」という概念は厳格に解するべきではなく、契約締結から長期間を経過して、相手方から無理由の開示請求が行われたり、契約締結当時の定型約款の内容を定型約款準備者が相手方に開示することが極めて困難な状況が生じたような例外的な場合を除けば、開示義務がないと解するべきではないと考えられている。[4]

(4) 違反に対する効果

 定型取引合意前において、定型約款準備者が開示を「拒んだ」場合には、原則として改正548条の2の規定が適用されず、みなし合意の効力が生じないという効果があることが定められているが(改正548条の3第2項)、定型取引合意後の開示請求に関して定型約款準備者が開示義務に違反した場合の効果については規定されていない。

 前述のとおり、開示義務は契約上の義務となるものであり、その違反は契約上の義務違反となるため、相手方に損害があれば契約責任としての損害賠償の問題になる。[5]

 もっとも、損害の立証が困難であって実効性に疑問があるとして、正当な事由のない「拒絶」の場合には、信義則上、約款内容たる契約条項の援用が否定されるという効果もありえるとする見解もある。[6]また、債務不履行に基づく解除により、組入否定の効果を機能的に実現するという構成がないわけではないとする見解もある。[7]



[1] 部会資料75B・11頁。

[2] 沖野・前掲第1回注[3] 578頁。

[3] 部会資料75B・11頁。

[4] 沖野・前掲第1回注[3] 579頁、鹿野・前掲第4回注[1] 1825頁。

[5] 第85回議事録23頁(忍岡関係官発言)。

[6] 沖野・前掲第1回注[3] 579頁。

[7] 森田修「約款規制:制度の基本構造を中心に(その2)」法教433号(2016)97頁。

 

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