ODR活性化検討会、最終取りまとめを公表
――ODRの機能として「深刻な感染症」「大規模災害」の場合を原案に追記、ほか明確化の諸調整など――
ODR活性化検討会(座長・山田文京都大学教授)による最終取りまとめ「ODR活性化に向けた取りまとめ」が3月31日、公表された。
初会合を昨秋に開催(SH2813 第1回「ODR活性化検討会」が開催――オンラインによる紛争解決の利用拡充を検討、基本方針につき年度中に結論 (2019/10/08)既報)、以降は月に1回の検討をかさね(SH2909 日本経済再生本部、ODR活性化検討会(第3回) 大久保直輝(2019/11/28)参照)、当初は本年2月下旬開催の第6回会合において最終取りまとめを予定していた(SH3001 ODR活性化検討会、取りまとめに向けて審議が進む――紛争解決に向けたビッグデータ活用等も紹介、最終取りまとめは2月下旬予定 (2020/02/12)既報)。結果、2月28日開催の第6回会合を経て、3月16日の第7回会合において「ODR活性化に向けた取りまとめ(案)」が提示され(以下、ここで示された「案」を「原案」という)、3月31日、成案となった最終取りまとめが同月16日付で公表されたものである。
冒頭、検討会の設置経緯から説明する最終取りまとめは、表紙を除いて全37頁建てとなっており、「第2 ODRやIT・AI活用のニーズ等について」「第3 ODR活性化に向けた取組の方向性」「第4 ODR活性化に向けた推進策と環境整備」の3章を中核とする全5章構成で、このような体裁自体は原案と変わらない。
しかしながら、上記・第2の「2 ODR の意義や期待される役割」「(2) 司法アクセスの改善に向けてODRに期待される役割やメリット」(最終取りまとめ7頁)において、「加えて、深刻な感染症が発生した場合や大規模災害等による移動困難な場合など、対面で行うことが難しいときでも、紛争解決を進めることができることも、ODRが果たしうる機能の一つとして挙げることができよう。」とする一文が追記されたほか、これに続く文脈においては「これに伴って生起する紛争やその解決の在り様にも大きな変革をもたらす」とされていた「変革」が「変容」と置き換えられた(以上、最終取りまとめ8頁)。ほか、「第4 ODR活性化に向けた推進策と環境整備」「2 ODR活性化に向けた分野別の推進策」に前文を追加(最終取りまとめ17頁)するといった諸調整が複数みられる(以下、本稿では必要に応じて触れる)。
上記・第3によると、うち「2 ODRに適する分野について」としては、ニーズや諸外国の取組みを踏まえ「①一般的には、低額で定型的な紛争が大量に生じることが想定される分野などについては、ODRによる解決、早期の実用化が求められているといえよう。また、②紛争の前提となる取引等がオンラインで行われる場合についても、オンラインでの紛争解決に馴染みやすいと考えられる」と指摘(最終取りまとめ14頁)。また「(3) その他の法的紛争におけるODR活用」として、離婚・相続等の家庭問題に関する法的紛争、交通事故に関する紛争、家賃増減・敷金返還などの賃貸関連紛争、スポーツ関連紛争、金融取引紛争、いわゆる災害ADRや倒産紛争に関するADRといった紛争への活用を挙げた(最終取りまとめ15頁以下)。
上記「第4 ODR活性化に向けた推進策と環境整備」の「2 ODR活性化に向けた分野別の推進策」としては、(1)シェアリングエコノミー分野におけるODR推進策、(2)金融分野におけるODR推進策、(3)中小企業分野におけるODR推進策の3分野を掲げている(最終取りまとめ17頁以下)。たとえば(1)をみると、自主規制としての「シェアリングエコノミー認証制度」と当該制度上の「基本原則」について触れたうえで、ODRの有効性を検証するために行われているシェアリングエコノミー協会と加盟企業による実証事業の実施の検討について、関係省庁が進捗を注視し、必要に応じて協力を行うことを要請している。
上記(2)の金融分野を巡っては、原案中「金融ADR制度の指定紛争解決機関に対して、オンラインでのコミュニケーションツールの活用も含めて利用者の利便に一層資する取組を促していく」とする一文に、金融庁において促していく旨を要請する追記がなされるとともに、脚注8が加えられた(最終取りまとめ18頁)。上記(3)についても新たな対応を「中小企業庁において」検討することを求める追記および脚注9の追加がなされている(最終取りまとめ19頁)。
なお、これに続く第4の「3 プラットフォーム型のECにおける消費者保護の観点からの取組」においては、原案に次の1段落を加えた(最終取りまとめ20頁)。
「一方で、当事者間では匿名であっても、取引当事者の連絡先や取引の記録、当事者間のやりとり等、紛争に関する情報をプラットフォーム事業者が把握していることが多いことに加えて、プラットフォーム事業者によっては、売り手から買い手に商品が届くまで、プラットフォーム事業者が代金を一度受け取るなど決済方法を工夫したり、当事者に利用規約に違反する行為等があった場合にサービス利用停止の制裁を用意し予告するなど、紛争そのものを抑止しているものも見られる。」
第5回会合で議題とされた「紛争解決に向けたビッグデータの活用」についても、上記・第4のなかで「5 紛争解決に向けたビッグデータ活用のニーズと可能性」として反映。ここでは「法務省において、司法府の判断を尊重した上で、民事判決データの適切な利活用に向けた検討に速やかに着手すること」を要請するとともに、「民事判決データを保有する司法府においても、法務省の検討に対して必要な協力を行うこと」を期待するとしている。