インドネシア:投資基本許可「3時間サービス」に関する近時の動向
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 坂 下 大
2015年10月26日に施行された投資調整庁長官規則2015年14号(以下「2015年規則」という。)により、投資基本許可を申請から3時間で発行する制度(以下「3時間サービス」という。)が開始され1年が経過した。本稿では、その後の制度改正を含む3時間サービスに関する近時の動向を紹介する。(3時間サービス導入時の概要を含む、2015年の一連の投資調整庁長官規則の概要については、福井信雄弁護士による「インドネシア:投資調整庁長官規則の改正」を参照されたい。)
1. 3時間サービスの概要と利用状況
投資調整庁における投資基本許可の取得は、外資がインドネシアにおいて投資(会社設立)を行う際に必要となる最初のステップである。このプロセスには数か月程度の期間を要するのが一般的であるところ、3時間サービスを利用することにより、インドネシアにおける事業開始までのスケジュールを有意に短縮することが可能となる。
なお、投資調整庁によると、3時間サービスの開始後、2016年10月下旬までに150件程度の利用があったとのことであるが、日系企業による利用は数件程度にとどまっているとのことである。このような事情に鑑み、投資調整庁では、2016年10月24日に日系企業向けの説明会を開催する等、3時間サービスの周知活動を積極的に行っている。
2. 3時間サービスの利用対象
2015年規則では、3時間サービスを利用できる要件を以下のとおり規定し、その対象を比較的大規模な事業計画を有するものに限定していた。
- a. 投資額が1,000億ルピア(約8-9億円)以上、又は
- b. インドネシア人を1,000人以上雇用
現在では、2016年6月8日施行の投資調整庁長官規則2016年6号(以下「2016年規則」という。)により、上記 a. 及び b. に加えて、以下の要件のいずれかを満たす場合にも3時間サービスの利用が認められている。
- c. 一定の工業分野におけるサプライチェーンの一部をなす場合
- d. 経済特区内で事業を行う場合
- e. 一定の事業分野におけるインフラ事業(実際には事業分野コード(KBLI)により具体的な事業分野が指定されている。)
上記 c. の「一定の工業分野におけるサプライチェーンの一部をなす場合」については、これ以上具体的な要件は明文上規定されていないが、投資調整庁による上記説明会では、投資額が1,000億ルピア以上、又はインドネシア人を1,000人以上雇用する事業(つまり、上記 a. 又は b. の要件を満たす事業)を営む会社との関係で、そのサプライチェーンの一部をなす場合を意味し、例えば上記 a. 又は b. に該当する製造会社に部品を供給する場合等がこれに該当する旨の説明がなされた。かかる説明を前提とすると、必ずしも大規模な投資でなくとも、事業内容によっては3時間サービスを利用できることになる。なお、かかる要件により3時間サービスを利用する場合は、供給先の企業から、そのサプライヤーであることを証明する旨のレター等の発行を受けることが必要である。
3. 建設許可等の取得
2015年規則により、3時間サービスの開始と同時に、一定の事業については、投資基本許可を取得すれば、本来必要な建設許可(いわゆるIMB)や環境許可等を取得せずに、建物の建設を開始することができる(これらは建設と同時並行で取得すればよい)旨の制度が開始された。2016年規則においても、若干の条文の整理はなされているが、引き続き、一定の区域内における事業について、建設許可等を取得せずに建物の建設を開始することができる制度は維持されている。工場等の建物の建設を伴う事業については、投資基本許可の取得そのものに要する期間の短縮に加えて、さらに1~数か月単位で操業開始までの期間を短縮することができることになる。