消費者庁、株式会社e-chanceに対する景品表示法に基づく措置命令
岩田合同法律事務所
弁護士 小 西 貴 雄
消費者庁は、平成29年12月19日付で、株式会社e-chance(以下「違反行為者」という。)に対し、景品表示法第7条第1項に基づく措置命令(以下「本件措置命令」という。)を行った。本件措置命令の理由は、違反行為者が、自動車ボディ等の傷補修剤(以下「本件商品」という。)に係るテレビコマーシャル(以下「本件CM」という。)において、景品表示法第5条第1号に定める優良誤認表示に該当する表示を行ったためである。
以下においては、不当表示規制の概要とともに、本件CMにおいて優良誤認表示と判断されたポイントについて述べる。
(1) 不当表示規制の概要
景品表示法は、第5条において、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められる表示(以下「不当表示」という。)を禁止している。不当表示には、優良誤認表示(商品等の品質、規格その他の内容についての不当表示。景品表示法第5条第1号)、有利誤認表示(商品等の価格その他の取引条件についての不当表示。同条第2号)、その他の不当表示(内閣総理大臣が指定する表示。同条第3号)の3つの種類が定められている。
(2) 本件における優良誤認表示の判断
本件CMは、「あっという間にキレイに!」「サッとなぞって乾かすだけ!」等の映像、「傷の上にサッとなぞって乾かすだけで、びっくりするほどすっかりキズが見えなくなってしまうんです」等の音声、及び自動車ボディの傷が本件商品の塗布により消えるアニメーション映像を表示するものであった。これに対し、消費者庁は、本件CMにおけるこれらの表示が、自動車ボディのカラー層(自動車ボディの表面を覆うクリアコート層より深い層)に至る傷に対して、本件商品を塗布して乾かすだけで容易に傷を判別できなくなる程度に消すことができるものであるかのように示すものであるとして、優良誤認表示に該当すると認めた。消費者庁は、特に、本件CMのアニメーション映像において、自動車ボディのクリアコート層より深い部分に達した傷に本件商品が塗布された後、自動車ボディの塗膜が復元され、傷が消える演出がなされていることを重視している(下記は当該アニメーション映像の一場面)。
この点、違反行為者は、上記のアニメーション映像の左下隅に、「※イメージ映像」との注記を表示していた。また、本件CMの別の場面では、下記画像のとおり、画面下部において、「※クリアコート上についた浅いキズを修復するための商品です クリアコート下の塗装まで達しているキズや大きなキズ・面積の広いキズの修復には使用しないでください」との注記を表示していた。
これらの注記を読めば、一般消費者においても、本件商品がカラー層に至る傷を判別できなくなる程度に消すことができる商品であるとの誤認を解消し得たようにも思われる。
しかし、消費者庁は、これらの注記について、「これらの記載は、自動車ボディのカラー層に至る傷が判別できなくなる程度に消える映像と矛盾しており、一般消費者が前記アの表示(注:本件CMのアニメーション映像等の表示)から受ける本件商品の性能に関する認識を打ち消すものではない」と述べ、上記注記は一般消費者の誤認を解消するものではないと判断した。
(3) 実務上の留意点
本件CMにおいて、違反行為者は、本件商品の性能について誤認を生じさせないための注記を行っており、本件CMが優良誤認表示に該当しないよう一定の配慮を行っていたとも言える。しかし、消費者庁は、そのような注記ではアニメーション映像が一般消費者に与える認識を打ち消すことはできないとして、本件措置命令に踏み切った。
映像と音声で商品の機能や効果を強調し、他方で、文字による注記を付して顧客に対して注意喚起を促す宣伝方法は、今日において、しばしば目にするものである。しかしながら、映像と音声の内容が事実に反する宣伝であれば、注記を付したとしても、優良誤認表示の認定を受ける可能性がある。本件は、映像と音声に、注記を付した宣伝方法に関し、消費者庁が一定の判断を下した事例として、同種の宣伝広告を行っている事業者にとっては参考になるものと言えよう。