◇SH2752◇ベトナム:【Q&A】残業時間年間上限の特例と法改正の動き 澤山啓伍(2019/09/03)

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ベトナム:【Q&A】残業時間年間上限の特例と法改正の動き

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 澤 山 啓 伍

 

  1. Q: ベトナムの労働法では、残業時間は年間200時間が上限とされていますが、当局に通知すればこれを300時間まで延長できると聞きました。しかし、当社が所轄の当局に通知したところ、当局から延長は認めないと言われてしまいました。この場合、どうしたらよいでしょうか。また、この年間上限時間数について改正の動きがあるという話を聞きましたが、本当でしょうか。
  2. A: 現行の労働法では、時間外労働時間(残業時間)数は原則として1日の労働時間の50%、1カ月30時間、1年間200時間以内とされています(法第106条1項b号)。しかし、政府が定める特別な場合には、当局に通知することにより1年に300時間を超えない範囲で時間外労働が認められることになっています(同号、労働時間・休憩時間及び労働安全・労働衛生に関する労働法の一部条項を詳細に規定する政府政令第45/2013/NĐ-CP号第4条2項)。具体的には、以下の場合に、年間300時間まで時間外労働が認められるとされています。
  1. ① 繊維品、衣料品、皮革、靴の生産及び輸出加工、又は農林水産品の加工を行う場合
  2. ② 電力若しくは通信の生産若しくは供給、又は石油精製若しくは給排水を行う場合
  3. ③ その他緊急で遅延できない業務に対処する場合

 これらの場合、使用者である企業は、当該地方の労働局に書面で通知することで、年間200時間以上300時間以内の時間外労働を実施することができるとされています。法文上は、「通知」のみが求められており、当局からの承認を得ることは求められていません。

 ただ、実際には、貴社で問題となっているように、地方によっては、当局が通知を受けても許可しないなどと言ってくる例があるという問題を耳にしています。しかしながら、このような当局の対応は、法律を理解していない不合理なものであると考えざるを得ません。すなわち、労働傷病兵社会省が管理する行政手続きの修正・補充について定める2018年10月9日付の労働傷病兵社会省の決定第1380/QĐ-LĐTBXH号(「決定1380号」)には、上記の「通知」に対して当局が採るべき審査期間及び審査結果についての規定は置かれていません。このことは、この「通知」手続が、許認可を与えるような行政手続には該当せず、行政機関としてはこれに対して承認することも不承認とすることもできないことを意味します。決定1380号の別紙においても、この「通知」手続は、許認可手続の類型から削除されています。

 したがって、年間200時間以上300時間以内の時間外労働をさせたい企業は、上記の条件を満たした上で、当局に文書で通知を行えばよく、当局のそれに対する返答を気にする必要はありません。

 ただし、当然のことながら、通知を行っていても、後に実際の状況が上記の①~③の条件を満たしていなかったことが労働監査等で判明すれば、当該時間外労働は違法となります。実務上よく使われるのは③の条件ですが、どのような状況であれば「緊急で遅延できない業務」に該当するのかは特に明確な基準があるわけではありませんので、該当の有無を慎重に検討する必要があります。

 なお、現在、ベトナムでは、労働法の改正に向けた準備が進められています。2019年5月29日に公表された最新の労働法改正草案によれば、時間外労働時間数の年間上限は現行の200時間から変更ありませんが、例外的に条件を満たした場合に認められる上限が300時間から400時間に変更されています。ただし、この例外が認められる条件やその場合の手続の内容については、それらを定めることになる政令の内容がまだ未確定です。実際の使い勝手については、今後の動向を注視する必要があります。

以上

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