◇SH1590◇日本企業のための国際仲裁対策(第67回) 関戸 麦(2018/01/18)

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日本企業のための国際仲裁対策

森・濱田松本法律事務所

弁護士(日本及びニューヨーク州)

関 戸   麦

 

第67回 仲裁条項の作成(4)

2. 各仲裁機関の基本型モデル仲裁条項の検討その2

(3) HKIAC

 HKIACのモデル仲裁条項は、次のとおりである[1]。この仲裁条項の主たる要素も、前回(第66回)において述べたICC及びSIACのモデル仲裁条項と同じ3点、すなわち、①対象となる紛争、②紛争解決方法の拘束力、③利用する仲裁手続の3点である(この点は、後述するJCAAのモデル仲裁条項も同様である)。そこで、以下においては、上記3点の該当部分を明示する趣旨で、①から③の番号を付記することとする。

  1.   “①Any dispute, controversy, difference or claim arising out of or relating to this contract, including the existence, validity, interpretation, performance, breach or termination thereof or any dispute regarding non-contractual obligations arising out of or relating to it  ②shall be referred to and finally resolved  ③by arbitration administered by the Hong Kong International Arbitration Centre (HKIAC) under the HKIAC Administered Arbitration Rules in force when the Notice of Arbitration is submitted.”

 表現は、基本的にSIACのモデル仲裁条項と類似するところ、相違点としては、①の点について、「non-contractual obligations」という表現を用いて、契約に基づかない義務(例えば、不法行為債務、不当利得債務)についても、当該契約(当該仲裁条項を含む契約)に関するものである限り、当該仲裁条項の対象となることを明示している。もっとも、このように明示しなくても、すなわち、例えばSIACのモデル仲裁条項の表現であっても、契約に基づかない義務についても対象となる紛争に含まれうるため、通常は、同じ結論になると考えられる。

 また、HKIACのモデル仲裁条項においても、SIACと同様に、ICCのホームページで記載することが考えられるとした4点、すなわち、(i)仲裁地、(ii)仲裁人の数、(iii)仲裁の言語、(iv)当該仲裁条項を含む契約の準拠法について、文例が示されている。ここでも、該当部分を明示する趣旨で、番号を付記する。

  1.   “(iv)The law of this arbitration clause shall be … (Hong Kong law).

    (i)The seat of arbitration shall be … (Hong Kong).

    (ii)The number of arbitrators shall be … (one or three).

    (iii)The arbitration proceedings shall be conducted in … (insert language).”

 但し、(iv)については、契約全体の準拠法の文例ではなく、当該仲裁条項に限った準拠法の文例となっている。すなわち、このHKIACの文例は、契約全体の準拠法と、仲裁条項の準拠法が別になり得ることを前提にしている。この点は、第65回の1(5)項で述べた仲裁条項の「分離可能性ないし独立性(severabilityないしseparability)」の考え方からして、許容されるものである。

 なお、HKIACのモデル仲裁条項においては、上記4点のうち、(i)仲裁地は必須の記載項目とし、他の3点については、必須の記載項目ではないとしている。但し、(iv)当該仲裁条項を含む契約の準拠法については、仲裁地と、契約全体の準拠法の地域とが異なる場合には、上記のとおり、当該仲裁条項についての準拠法の規定を定め、これを明示するべきとしている。

(4) JCAA

 JCAAのモデル仲裁条項は、次のとおりである[2]。日本文と英文とが、用意されている。

  1. (日本文)
  2.   “①この契約から又はこの契約に関連して、当事者の間に生ずることがあるすべての紛争、論争又は意見の相違は、 ③一般社団法人日本商事仲裁協会の商事仲裁規則に従って、(都市名)において仲裁により ②最終的に解決されるものとする。”
  3.  
  4. (英文)
  5.   “①All disputes, controversies or differences which may arise between the parties hereto, out of or in relation to or in connection with this Agreement  ②shall be finally settled  ③by arbitration in (name of city), in accordance with the Commercial Arbitration Rules of The Japan Commercial Arbitration Association.”

 表現は、ICCのモデル仲裁条項に類似しているところ、相違点としては、ICCのモデル仲裁条項には、①から③の要素の他に、「by one or more arbitrators appointed in accordance with the said Rules」という記載がある。但し、この記載は、前回の2(2)項において述べたとおり、特に意味がなく、記載しなくても差し支えはない。

 また、ICCのホームページで記載することが考えられるとした上記4点のうち、(i)仲裁地については、JCAAのモデル仲裁条項では、「(都市名)において仲裁により」「by arbitration in (name of city)」という表現により、モデル条項の本体部分で仲裁地を指定することとなっている。

(5) 小括

 以上、前回から今回にかけて、各仲裁機関のモデル仲裁条項について検討をした。いずれにおいても、主たる要素は①対象となる紛争、②紛争解決方法の拘束力、③利用する仲裁手続の3点である。各モデル仲裁条項間で特段の差異はなく、いずれの表現を用いることにも特段の支障はない。

 上記3点以外に記載が考えられることとしては、(i)仲裁地、(ii)仲裁人の数、(iii)仲裁の言語、(iv)当該仲裁条項を含む契約の準拠法があるところ、このうち、(i)仲裁地は、依拠する仲裁法規と、仲裁判断の取消等について管轄を有する裁判所を決するものであるため、明示的に定めるべきである。また、(iv)当該仲裁条項を含む契約の準拠法も、仲裁判断の準則となるため、明示的に定めるべきである。但し、この準拠法は、前回の2(1)項で述べたとおり、多くの場合、当該仲裁条項に限らず契約全体の準拠法を定めるものであるため、仲裁条項とは別の条項として定めることが望ましい。

 他方、(ii)仲裁人の数については、第18回において述べたとおり、1名と3名のいずれが望ましいかは、一概に定めることはできない。そのため、仲裁条項では定めずに、事案毎の決定に委ねることも、合理的な選択肢である。なお、事案毎の決定方法は、当事者間で合意ができれば合意した人数となり、合意ができなければ各仲裁機関の規則に従い、人数が定められることになる。詳細は、第17回で述べたとおりである。

 これに対し、(iii)仲裁の言語は、当該取引で用いる言語が想定できる結果、仲裁手続となった場合に証拠となる資料等の言語も予想できることも多いと考えられる。また、多くの国際仲裁手続が、英語で行われているという現実もある。そのため、仲裁の言語は、仲裁条項で、予め支障なく決められることも多いと思われる。仲裁条項で予め決めることができれば、後に仲裁の言語をめぐって争いが生じる可能性は低くなるという利点がある。

 以上が、仲裁条項の基本的な部分に関する解説である。次回からは、応用的な部分について、解説する。

以 上

 

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