◇SH2400◇企業活力を生む経営管理システム―高い生産性と高い自己浄化能力を共に実現する―(第16回) 齋藤憲道(2019/03/14)

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企業活力を生む経営管理システム

―高い生産性と高い自己浄化能力を共に実現する―

同志社大学法学部
企業法務教育スーパーバイザー

齋 藤 憲 道

 

第3部 さらなるリスク発見と対策が必要な分野
     例えば、「製品の性能・安全の問題」、「秘密情報流出」

(2) 不祥事の例

 以下に、「製品の信頼性・安全性」、「秘密情報流出」に係る企業不祥事を例示する。

  1. (注) 事例の中に列挙された課題・再発防止策等は、各社の広報・第三者委員会調査報告書等による。
     

○ マンション基礎杭の強度不足[1](建設業法、建築基準法)

 分譲マンションに傾きが生じ、全4棟を解体して建て替えた。

〔指摘された主な課題〕
 ①施工管理体制の問題(専任技術者の設置義務、一括下請けの禁止)、②下請け任せの杭の支持層到達判断(掘削時の抵抗値変化の読み方)、③データ取得上の問題(記録方法、他工事のデータを流用)、④設計と施工等の連携不足(長さ不足の杭を発注して使用、セメント量を改竄)、大臣認定制度[2]に係わる問題、⑤設計・工事監理一括発注の問題、⑥建築基準法に基づく中間検査の実効性の問題、⑦「青田売り[3]」を背景とした工期厳守圧力の問題

 

○ 免震積層ゴムの性能不足[4](建築基準法)

 高層ビルの基礎部に用いる免震積層ゴム製品の性能値が基準値に適合していないのにデータを改竄して大臣認定を取得し、不適合製品を製造して出荷していたことが社内の技術部門で発覚し、約1年後に国土交通省に報告されて、問題製品が設置された建築物の所有者への説明と取替えが始まった。

〔指摘された主な課題〕
 ①業務実施体制(技術力、陣容、責任分担等)が脆弱で不正が生まれやすい、②社内チェック体制が不十分で不正を見逃しやすい、③不正対応システムが不十分で問題発覚後の対応が不適切、④外部(部外、社外の取引先等)に対する「見える化」等が不十分で不正を見逃しやすい、⑤大臣に代わって評価を行う指定性能評価機関による性能評価の限界(性能検査立会・品質管理実査等が必要)、⑥工事施工者等によるチェックの限界、⑦「ISO 9001」の認証機関の審査に限界(一般的に、検査工程よりも製造工程に重点を置いて審査。提出資料に記載のない工程に係る不正の発見に限界)、⑧大臣認定後の当局のフォロー(認定条件と実際の製造の照合)が不十分、⑨過去に不正を行った企業に対する当局の監視が不十分

 

○ 耐震設計の偽装[5](建築基準法)

 施工業者が、工事を請負った建物の鉄筋量が異常に少ない旨を設計事務所に通知し、その設計を受託していた一級建築士が耐震構造計算書を偽装していたことが発覚した。同建築士が設計した多数の建築物でも同様の偽装が行われていたことが判明した。当時の建築基準法に基づいて指定確認検査機関が設計書を審査していたが、偽装は見過ごされていた。

〔再発防止策〕
 偽装発覚の翌年(2006年)に建築基準法が改正されて、一定の高さ以上の建築物の建築確認申請に添付される構造計算(コンピュータ利用)の部分について「構造計算適合性判定制度[6]」が導入され、高度な専門能力を有する第三者機関(指定構造計算適合性判定機関等)が審査することになった。国土交通省が「耐震構造計算の偽装ができないプログラム」を認定したのは2008年になってからである[7]

  1. (注) 審査の厳格化に伴って、建築確認手続が大幅に停滞し、建築確認件数が顕著に減少した。このため、国土交通省は、2010年と2011年の2度にわたって手続の運用を改善した。

○ 自動車の燃費虚偽表示[8](道路運送車両法、景品表示法)

 国土交通省がガソリン車の「型式指定審査」の排ガス・燃費試験(走行抵抗[9]の測定)に「惰行法」を採用したのは1990年だが(ディーゼル車は1985年)、 会社では遅くとも1991年末頃から法定の「惰行法」を用いて走行抵抗を測定せず、測定期日・場所等を虚偽記載して「型式指定審査」を受けていた。

 遅くとも2005年末頃から、燃費目標を達成するために、実測値・合理的根拠のある数値を用いることなく恣意的に走行抵抗を引き下げて使用していた。さらに、過去の実績値をもとに、仕様の変更等に合わせて机上計算した数値を補正して「型式指定審査」の際に走行抵抗として使用した。

 2013年6月以降発売の特定車種については、燃費目標を達成するため、走行抵抗の恣意的な算出と引下げをエスカレートさせた。

 不正発覚後の走行抵抗再測定においても、国の確認試験と同様の方法を行わなかった。

〔原因と指摘された事項〕
 ①一部の開発部門が燃費目標達成の事実上の責任を負い、同部門には「できない」と言えない風土があった、②開発態勢が慢性的に不足していた、③技術計測業務がブラックボックス化されていた、④開発部門では開発目標を達成できないと何度もレポートを要求されるため、各部署が「できない」ということ自体を諦めていた、⑤経営陣が燃費達成「見込み」を「達成済み」と誤解した、⑥不正行為が法規違反だという意識が希薄だった、⑦不正行為を正当化しようとする技術者の考え方があった、⑧法規解釈を個々の担当部署で行っていた、⑨長年にわたり発覚せず改められなかった、⑩技術的議論が不十分なまま、ライバルに対抗する燃費目標が設定された、⑪会社全体で自動車を作って売るという意識が欠如。

〔再発防止のための指摘事項〕
 ①開発プロセスの見直し、②屋上屋を重ねる制度・組織・取組の見直し、③組織の閉鎖性やブラックボックス化を解消する人事制度、④法規の趣旨を理解する、⑤不正の発見と是正に向けた幅広い取組

 

○ 医薬品の承認条件違反[10](医薬品医療機器等法<旧薬事法>)

 医薬品メーカーにおいて血液製剤の承認書と実製造との間に不整合があり、長期間それが隠蔽されていた。

〔企業における再発防止策〕
 ①新体制の方針(幹部に多数の外部出身者を起用)及び責任者の処分、②信頼性保証体制の改善、③GMP[11]管理運用面の改善(当局への定期報告を含む)、④医薬品品質システムの再構築、⑤従業員の教育(PQS[12]、GMP他)、⑥その他(事件の風化防止、人事ローテーション等)

〔厚生労働省における再発防止策〕
 GMP査察体制の改善に向けて次を実施する。
 ①製造所等に無通告(抜打ち)査察を実施する。
 ②次の事項を検討する。
  査察体制の抜本強化(査察担当者の増員、抜打ち査察回数の増加等)
  新たな査察方法の導入(欧米諸国を参考にする)
  査察能力の向上(査察担当者のスキルアップ)
  官庁(厚生労働省)と査察実務担当機関(PMDA)間の連携強化、定期連絡会議設置

〔業界における再発防止策〕
 「血液製剤産業コンプライアンス・プログラム・ガイドライン」(業界の自主基準)を策定[13]

 


[1] 三井不動産レジデンシャル(株)が横浜で販売したマンションに傾きが生じたことが2014年に発覚した。同マンションの元請は三井住友建設(株)、1次下請は(株)日立ハイテクノロジーズ、2次下請は旭化成建材(株)である。2016年1月13日に国土交通省(関東地方整備局長)が元請・1次下請・2次下請の3社を行政処分した。

[2] 認定内容に、施工方法と品質管理方法が含まれるため、品質管理が施工者任せになる可能性がある。

[3] 分譲マンション業界で一般に見られる、マンションの完成前に販売を開始し、完成時までに全戸を売り切る販売方法。建設資金を早期に回収できるが、入居時期が工事完成前に決まるので、完成・引渡し期限を延長できなくなる。

[4] 東洋ゴム加工品(株)が製造し、その親会社の東洋ゴム工業㈱が販売した免震積層ゴムの性能値が改竄されていたことが2014年に発覚し、問題製品が納入された154棟のゴムの取替が順次行われた。「国土交通省宛・免震材料に関する第三者委員会報告書(平成27年7月29 日)」

[5] 2005年11月に発覚した、いわゆる姉歯事件。なお、建築確認制度における建築主事及び一級建築士の役割・責任(建築基準法、建築士法)については最三小判平成25年(2013年)3月26日(平成18年建築基準法改正前の事案)が参考になる。

[6] 建築基準法6条5項、6条の3

[7] 建築確認の審査が長引いて、日本の住宅着工が滞った。

[8] 2017年1月27日、三菱自動車工業(株)に対して排除措置及び4億8,507万円の課徴金納付が命じられた(景品表示法違反)。同社からOEM調達していた日産自動車(株)も排除措置が命じられた(課徴金は無い)。三菱自動車工業(株)ホームページ「燃費不正問題の概要」及び「燃費不正問題に関する調査報告書(2016年〈平成28年〉8月1日)特別調査委員会」より。

[9] 走行抵抗=転がり抵抗(=転がり抵抗係数×車両重量×重力加速度)+空力抵抗(=空力抵抗係数×前面投影面積×重力加速度×速度の2乗) 三菱自動車工業(株)ホームページ「燃費不正問題の概要」より

[10] 一般財団法人化学及血清療法研究所が、国の承認と異なる方法で血漿分画製剤(「血液製剤)及びワクチン製剤を製造していた。問題は1974年頃に発生し、多くは1980年代から1990年代前半に生じていた。副作用等の重篤な被害は報告されていない(第三者委員会報告2015年11月25日)。

[11] “Good Manufacturing Practice”の略。医薬品の製造管理及び品質管理

[12] “Pharmaceutical Quality System”の略。医薬品品質システム

[13] 一般社団法人日本血液製剤協会が2018年1月19日に協会案内に掲載。

 

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