◇SH2912◇企業活力を生む経営管理システム―高い生産性と高い自己浄化能力を共に実現する―(第80回) 齋藤憲道(2019/12/02)

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企業活力を生む経営管理システム

―高い生産性と高い自己浄化能力を共に実現する―

同志社大学法学部
企業法務教育スーパーバイザー

齋 藤 憲 道

 

3.「国が制裁を減免する制度」を適用できる水準の管理を行う

 近年、企業が自助努力により企業内に潜む不祥事の芽をできるだけ早期に見つけ、再発防止策を講じる取り組みを国が評価して、国益に合致する取組みについて相応の恩典(制裁の減免)を与える制度が増えている。企業としては、この恩典を受けることが望ましい。

 ただし、そのためには、国が求める遵法を実践する「経営管理システム」を構築し、かつ、これを厳格に運用する必要がある。

  1. (注) 不祥事が発覚したときに、自社の経営管理システムの水準が低いと評価されて国の制裁軽減措置を受けることができなければ、多くの従業員が、自社の管理を無駄と考えて、守らなくなる。

例1 連邦量刑ガイドイン(米国)が評価する企業の自助努力

 1984年の包括的犯罪規制法によって法人罰金刑が加重されたために企業活動が過度に委縮したとして、1991年に連邦量刑ガイドライン[1]が導入され、真に実効性のあるコンプライアンス・プログラムを定めて、これを実施している企業に対して、量刑や起訴裁量の面で制度的に恩典が与えられることになった[2]

 刑事罰の軽減に伴って民事責任の範囲も限定的に運用されるようになり、さらに、社会的責任投資[3]も盛んになった。

 連邦量刑ガイドラインを適用するための条件として、次の事項が挙げられている[4]

(1) 法令遵守プログラムを持ち、整備・運用していること

 コンプライアンス原則、企業行動基準、企業倫理規定等、これらの実施細則

(2) 犯罪・不祥事を防止・発見するために、次の1~7の「相当の注意」を行っていること

  1. 1  犯罪行為を防止・発見するための基準および手続きを定めている。
  2. 2  取締役会・経営幹部等に法令遵守プログラムを監視する役割を割り当てている。
    コンプライアンス委員会を設置し、コンプライアンス責任者を任命
  3. 3  重要な権限を特定の者に付与するときに、十分な注意を払っている。
    特に、過去に法令違反をした者、注意すれば怪しいと分かる者に、重要な権限を与えない
  4. 4  会社の法令遵守の基準・手続きが、研修プログラムを通じて社内の全構成員に周知されている。
  5. 5  法令遵守の基準を達成する合理的措置を講じている。
    実際の監視、監視システム、法令遵守プログラムの監視、内部通報受付窓口の設置・運用
  6. 6  適切なインセンティブ・懲戒処分を用いて、法令遵守プログラムを促進・強制している。
  7. 7  法令違反行為を発見したときは、適切に対処し、再発防止策を講じている。

(3)「倫理的な行動」「法令遵守」を重視する会社文化を促進していること

 企業の有罪が確定したときに、次の1~4の要件を全て満たせば、罰金が軽減される可能性がある。

  1. 1  コンプライアンス・プログラムの運営関係者に、監督機関に対して個人的かつ直接に報告する義務 が課されている。
  2. 2  社内プログラムが不適切行為を発見できる水準にある。
  3. 3  迅速に犯罪行為を政府に自主申告している。
  4. 4  プログラム運営者が、不適切行為に関与・容認・看過していない。
  1. (参考) 政府との合意による制裁措置の延期・回避(米国)
  2.   法令に違反した企業が政府との間で和解をして、①コンプライアンス・プログラムの設定および運用、②企業監督者の選任、③その他の遵守事項、を定めた協定を結び、これを実行して訴追延期・不訴追等を実現することがある。

 

例2 贈収賄防止法UK Bribery Act 2010:英国)が評価する企業の自助努力

 この法律は、政府・官公庁と民間の取引だけでなく、民間企業同士の取引における不正な支払いも対象にしており、規制の対象範囲が極めて広い。

 従業員・エージェント等がビジネスを獲得・維持する目的で贈賄した企業には贈賄防止懈怠罪が適用されるが、企業が賄賂防止の適切な措置をとっていた場合は、訴追が回避される可能性がある。

 英国司法省は、訴追回避のためには、企業の賄賂防止措置(Adequate Procedures)の中に次の6原則[5](例示列挙)が含まれるべきことをGuidanceで明らかにしている。

  1. 1. 贈収賄リスクや事業の性質等に応じてバランスのとれた手続き
  2. 2. トップ・レベルのコミットメント
  3. 3. リスク評価
  4. 4. デュー・デリジェンス
  5. 5. 内外のコミュニケーション
  6. 6. モニタリングと検証
     

例3 アンチダンピング措置における価格約束

 業界によるダンピング被害の提訴が訴訟当局により受理されると、それが公告され、関係当事者に質問状が発せられる。その回答を受領後、一定の調査を経てダンピングの存在とそれによる損害が認められると、暫定アンチ・ダンピング税が課され、その後、確認作業を行った上で、提訴棄却・確定課税・価格約束のいずれかが決定する。

 価格約束では、輸出者による価格値上・ダンピング輸出停止の約束が行われ、一定期間、定期的にその履行状況を当局が確認する。

 これにより大きな費用と労力を要するダンピング調査が回避される。

 



[1] Federal Sentencing for Organization; Sentencing Guidelines Manual

[2] 「内部統制の本質と法的責任――内部統制新時代における役員の責務――」249頁~253頁(川崎友巳著)コンプライアンス研究会編著・木村圭二郎監修 経済産業調査会(2009)

[3] Socially Responsible Investment

[4] 米国連邦量刑ガイドライン(2004年補足)を基に、筆者が、日本の法務担当者に理解しやすく日本流に表現したものである。実際に適用するときは、原文を確認されたい。なお、「アメリカ連邦量刑ガイドラインの下で不正行為への罰金はどのように算定されるか(一橋大学大学院法学研究科教授 阿部博友)Business Law Journal №67 October2013」106頁~113頁

[5] 1 Proportionate procedures  2 Top-Level commitment  3 Risk assessment  4 Due diligence  5 Communication (including training)  6 Monitoring and review

 

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