◇SH1603◇コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(41)―移行過程のマネジメント① 岩倉秀雄(2018/01/26)

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コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(41)

―移行過程のマネジメント①―

経営倫理実践研究センターフェロー

岩 倉 秀 雄

 

 前回は、組織論の視点から不祥事発生組織の組織風土改革運動の第1ステージについて総括した。

 組織風土改革は、「変革型(あるいは創造的)ミドル」によるボトムアップ型の進化論的革新よりも、戦略型トップによる革新(揺さぶり⇒突出と手本の呈示⇒変革の増幅と制度化)が有効である。

 今回からは、移行過程のマネジメントについて考察する。

 

【移行過程のマネジメント①】

 筆者は、本稿第28回で、組織が革新を始めようとする場合に、今まで築いてきた自分の地位や価値観を否定されたと感じる人々は、「抵抗」を始め、どう対応してよいかわからない人々は、「混乱」し、「革新」を一つの機会として組織内で有利な地位を占めようと政治的に動く人々は、互いに「対立」すること、革新を円滑に進めるためには、経営トップとその命令を受けたコアグループが「抵抗、混乱、対立」の発生を想定した移行過程のマネジメントを行うことの重要性を述べた。

 今回からは、革新を阻むものが何故発生するのか、どうすれば移行過程のマネジメントが円滑に進められるのかについて、より詳しく考察する。

 

1. コンフリクトの発生メカニズムと移行過程のマネジメント

 コンフリクトとは、マーチ&サイモンによれば、「個人もしくは集団が、行為の代替的選択肢の中から1つを選ぶのに困難を経験する原因となるような、意思決定の標準的メカニズムの故障」であり、個人でも組織内部においても組織間でも発生する[1]。 

 また、組織における集団間コンフリクトの発生原因は、「個人コンフリクトが広く存在しないことに加えて、(中略)組織への諸参加者の間で積極的な共同意思決定の必要感が存在することと、目的の差異か、現実に対する知覚の差異のどちらか、ないしその双方が存在すること」[2]である。

 例えば、何らかの理由で、組織に対するガバナンス改革やコンプライアンス遵守要求、CSR(含むSDGs)経営戦略の策定が求められる等、外部から革新を強く求められる場合には、組織成員間に共同意思決定の必要性が高まっている。そのような状況の中で、組織成員間に目的の差異や現実に対する知覚の差異、またはその両方が存在する場合には、組織内に革新に対する「抵抗、混乱、対立」等のコンフリクトが発生しやすい。

 その場合、革新をスムーズに実行するためには、コンフリクトそのものの発生を減少させるか、調整力を発揮してコンフリクトの顕在化を防ぐ必要がある。(筆者の持論で後述する)

 そのためには、革新を阻むものが何故発生するのか、どうマネジメントするべきかについての考察が重要になる。

 

2. 革新を阻むものは、何故発生するのか、どうマネジメントするか

 組織は、様々な利害を持った人の集まりである。組織が革新をすすめようとする場合、様々な利害と価値観を持った人々を、革新の目的に向かって方向づけなければならない。

 革新の対象が目に見える制度やプロセスである場合には、その実施状況が判り易くコントロールが比較的容易になるが、組織文化のように目に見えない価値観である場合にはコントロールが難しい。

(1) 抵抗はなぜ発生するのか

 革新により今まで築いてきた自分の地位や価値観を否定されたと感じる場合には、人は「抵抗」を始める。特に、組織文化の革新では、これまでの組織文化の中で成功し、認められ相対的に有利に仕事を進めてきた人々の「抵抗」は大きい。

 一般に、経営幹部や管理職の地位にある人々は、これまでの組織文化の中で成功し認められてきたからこそ昇進してきたのであり、これまでの組織文化の体現者であり、組織文化への適合力がパワー資源になっている。したがって、革新により自らの精神的存立基盤やパワー資源を否定されたと感じる度合いは、経営幹部や管理職の方が一般従業員よりも強い。

 なお、不祥事発生組織では、外部から強い革新の要請圧力が働き、革新の可否に組織の存続がかかっていることに加え、消費者、メディア、行政、取引先、株主、金融機関等ステークホルダーの目が光っているので、革新初期では平時よりも革新への抵抗は少ない。(しかし、一旦、不祥事による圧力が沈静化した後では、もとの組織文化に戻り不祥事を再発させるケースが想定される。)

 経営者が不祥事ではなく、自己の見識に基づいて「倫理的・法的環境の変化に組織文化を深く適合させる必要がある」と認識して組織文化革新を実行しようとする場合には、「なぜ現状を否認し組織文化を革新する必要があるのか」について十分な理由を示し、組織内を納得させる必要がある。

 通常、人には安定した均衡状態を維持しようとする心理が働いているからである。

 次回は、変化に対する「抵抗」をどうマネジメントするかについて考察する。



[1] J.G., March, & H.A., Simon, Organizations, New York, 1958.(J. G. March, & H. A. Simon(土屋守章訳)『オーガニゼーションズ』(ダイヤモンド社、1977年))169頁

[2] 前掲注[1]『オーガニゼーションズ』183頁

 

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