◇SH3440◇インドネシア:オムニバス法の制定(4)〜事業許認可の基本要件の簡素化 中村洸介(2021/01/08)

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インドネシア:オムニバス法の制定(4)
〜事業許認可の基本要件の簡素化

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 中 村 洸 介

 

 2020年11月2日、インドネシアで制定された「雇用創出に関する法律」(通称「オムニバス法」)は、外国企業からの投資を誘致する等によって国内の雇用機会を創出することを目的とするもので、日本企業がインドネシアで事業活動を行うにあたって重要な内容が多く含まれている。そこで本稿では、オムニバス法第3章「投資及び事業環境の改善」に規定されている、事業許認可の基本要件の簡素化について紹介する。

 

 これまで外国企業がインドネシアで事業を行うためには、現地に設立する株式会社において、事業識別番号(Nomor Induk Berusaha(NIB))のほか事業許可(Izin Usaha)を取得し、さらに、事業許可の効力発生に必要なコミットメントとして、事業内容に応じて、立地許可(Izin Lokasi)、環境許可(Izin Lingkungan)、建設許可(Izin Mendirikan Bangunan(IMB))等のインフラ関連の許認可を取得する必要があった。

 

 これらの許認可は、オムニバス法の定める新たな許認可システムにおいても、「事業許認可の基本要件」として規定されているが(事業許可が不要とされる「低リスク」及び「中リスク」の事業も特に除外されていない。)、以下に述べるように、オムニバス法によって、許認可の内容が変更されたり、OSSの利用や要件の緩和等を通じて手続きが簡素化される。

 

1. 立地許可に関して

 立地許可とは、事業に利用する土地を取得するために必要な許認可であり、従前は、そのプロセスが地域によって異なり、複雑で取得に時間を要するケースも散見されていた。

 

 これに対して、オムニバス法においては、事業者は、立地許可の代わりに「空間利用活動適合性」(Kesesuaian Kegiatan Pemanfaatan Ruang)の承認をOSSで申請すれば足りる。これは、地方政府が作成して中央政府がOSSに統合する「詳細空間計画」(Rencana Detail Tata Ruang)と呼ばれる空間計画に事業用地が適合していることを事業者自身において確認し、上記の承認を申請する、という手続きである。事業用地の取得に係る許認可に関して、事業者による自己審査が行われることが想定されていると言える。

 

2. 環境許可に関して

 従前の規制では、環境許可を取得するにあたり、事業の環境への影響等に応じて、「環境影響分析」(AMDAL)又は「環境管理及び監視プログラム」(UKL-UPL)の審査、承認が必要であった。これを免除される事業者も、「環境管理及び監視能力についてのステートメントレター」(SPPL)を提出する必要があった。

 

 これに対して、オムニバス法に基づく環境規制では、環境許可の取得は不要となる。環境に重大な影響を与える事業については従前と同様AMDALが必要であるが、その手続きには、事業によって直接的に影響を受けるコミュニティのみが参加でき、環境保護団体等の関与は認められない等、プロセスが簡素化される。また、環境に重大な影響を生じない事業に関しては、事業者は、UKL-UPLの基準を遵守していることを説明するステートメントレターを提出することになり、SPPLについてはNIBに統合される。ただし、SPPLが統合されたNIBは自動的にOSSから発行されるのか(当局による一定の事前審査が行われるのか)や、規制に違反した場合の関連する事業許認可への影響等については、現時点で不明である。

 

3. IMBに関して

 これまで建物や工場を建設するためにはIMBを取得する必要があったが、オムニバス法によって、「建設承認」(Persetujuan Bangunan Gedung)という新たな許認可に変更される。IMBの発行のために満たす必要のあった行政上及び技術上の要件は、建設承認の要件等を定める技術基準に変更されるが、その詳細はオムニバス法には定められていない。

 

4. おわりに

 以上の新たな許認可や手続きの詳細については、オムニバス法の制定日から3か月以内に制定される各施行規則において定められるため、関連規則の整備を注視していく必要がある。また、実務上、関連規則が整備されるまでは従前の許認可手続きの運用が継続される可能性もあることから、各企業は、申請中の許認可の状況について個別に確認する必要がある。

 


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(なかむら・こうすけ)

2011年早稲田大学大学院法務研究科修了。2012年弁護士登録(第一東京弁護士会)。2019年Columbia Law School卒業(LL.M.)。2019年~長島・大野・常松法律事務所ジャカルタ・デスク勤務。

2012年に長島・大野・常松法律事務所に入所し、M&A案件を中心に国内外の企業法務全般に従事。現在は、日本企業によるインドネシアへの事業進出や資本投資、その他現地での企業活動全般についてアドバイスを行っている。

長島・大野・常松法律事務所 http://www.noandt.com/

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