コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(42)
―移行過程のマネジメント②―
経営倫理実践研究センターフェロー
岩 倉 秀 雄
前回は、移行過程のマネジメントにおいて、変化に対する「抵抗」はなぜ発生するのかについて考察した。
革新により今まで築いてきた自分の地位や価値観を否定されたと感じる場合には、人は「抵抗」を始める。特に、組織文化の革新では、これまでの組織文化の中で成功し、認められ相対的に有利に仕事を進めてきた人々の「抵抗」は大きい。
今回は、「抵抗」のマネジメントと「混乱」の発生原因とマネジメントについて考察する。
【移行過程のマネジメント②】
1. 変化に対する「抵抗」のマネジメント
一般に、変化は、未知の状況を生み出し、組織の成員に先が見えないことに対する不安を与え、自律感を失わせる。なぜなら、組織の成員は現在の「組織の構造」や「期待される役割」に合致するものとして自分自身の態度や技能、習慣を作り上げてきたのであり、新しい状況に再適合するためには、これまで築き上げてきたものをアンラーニング(学習棄却)しなければならないからである。
また、考え方の違いから自分の提案している「革新」の方がはるかに優れていると思う場合には、現在進められている革新に「抵抗」したくなるという心理状態が生まれる。
この場合の対応として、一般に、次の5つの管理方法が想定される。
- ⑴ 原状と望ましい状態とのギャップを正確に伝えることによって、変化の必要性を認識させる。現状の方法では問題点が多く通用しないということを、十分に広く全体に認識させる。(不祥事発生の場合には、組織が社会的非難を浴びるので、組織成員はこれまでのやり方のまずさを認識させられるが、必ずしも組織風土や組織文化の革新の必要性まで認識するとは限らない。仕組みや資源不足の認識に留まる場合もある。また、平常時にギャップを認識させるためには、十分な証拠が必要になる。)
- ⑵ 成員を変化の過程に参加させて、当事者意識を持たせ動機付ける。特に、変化により直接影響を受ける経営幹部や管理者層は早い段階から参加させることが当事者意識を喚起する上で必要である。ただし、革新には時間がかかることと意見の対立もあり得るので、革新の推進者は、これを踏まえて実施しなければならない。
- ⑶ 移行中または将来について望ましいと考えられる行動に、報酬を与えて動機づけ、移行を促進する。例えば、給与・ボーナスの評価、昇進、昇格、異動、表彰を行うなどである。
- ⑷ 情理を尽くして説得するとともに、移行対象となる成員に自らを納得させる時間的余裕を与える。慣れ親しんだやり方を棄却する喪失感に配慮する必要があるからである。
- ⑸ 移行する成員に十分に教育・訓練を実施して不安感をなくす。新しい技能諸関係、自分の位置づけ、期待される役割に関する十分な情報を提供し、自分は厳しい新たな状況の中でも十分にやっていけるという自信を持たせる。
2. 変化の対する「混乱」の発生原因とマネジメント
「革新」は、組織内部の慣行化された状態を破壊することから、そこに「混乱」が生じる。
特に、急激でドラスティックな変化は、これまで組織内の秩序維持に一定の役割を果たしていた「組織の構造」や「意思決定の仕組み」を変えることから、組織内部に一時的に「流動状態」を作り出すので、日常業務の統制力が失われやすい。
このような「混乱」は、組織合併やM&Aにおいても良く見られる現象である。
組織の目的、構造、成員の変化に伴い、組織活動を適切に管理し修正行動をとることが難しくなる。
したがって、移行時に発生する各種の不均衡を可能な限り統制する必要があり、そのために通常とは異なる独特の施策が必要になる。
「混乱」のマネジメントには、一般に次の施策が重要になる。
- ⑴ 将来の組織状態に対する明確なビジョン(例えば新組織の目的・目標、新組織構造、要員配置、技術体系の変化、新しい職務内容、報酬制度の変更等)を呈示し、組織内に周知徹底する。望ましい状態を明示して成員の迷いをなくし、確固とした到達点を示しそれが常に考慮されるようにする。
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⑵ 革新の移行過程の実際の進行具合について、移行担当者とそれ以外のメンバーとの間に正確な情報を絶えず授受伝達する。その際、フォーマルな情報伝達ルートの他に、調査、聴取、相談等のインフォーマルな情報ルート等、あらゆる機会や方法を活用する。
革新の移行期では混乱のためにフォーマルな情報ルートは破壊されやすいので、混乱状態であるほどあらゆる手段を使って正確な情報を絶えず授受することが重要になる。 -
⑶ 移行当初に予想しなかった問題が生じた場合には、直ちにそれを解決する。
そうでなければ移行の勢いがなくなり、より大きな混乱が生じる。また、移行期における管理者は、必要な場合は直ちに移行推進チームの応援が得られなければならない。
移行の初期にすべてを予想することは不可能であることから、移行期に発生する諸問題の解決経験を踏まえて新組織が確立される。
次回は、移行過程で生ずる「対立」の発生原因と対応策を考察する。