GPIF、「GPIFの国内株式運用機関が選ぶ『優れた統合報告書』と『改善度の高い統合報告書』の公表について」を掲載
岩田合同法律事務所
弁護士 泉 篤 志
年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は、平成30年1月19日、国内株式の運用委託先である16機関(以下「運用機関」)に対して選定を依頼していた「優れた統合報告書」及び「改善度の高い統合報告書[1]」に関して、それぞれ選定された企業名(「優れた統合報告書」につき70社、「改善度の高い統合報告書」につき68社)のリストを公表するとともに、特に多くの運用機関から高い評価を得た企業に対する主なコメントを公表した。
統合報告(Integrated Reporting)とは、企業における価値を創造する活動について、当該企業及びそのステークホルダーとの間でコミュニケーションを行うプロセスであり、そのプロセスの結果として作成されるものの一つがいわゆる「統合報告書」である。統合報告書の作成は法律上義務付けられているものではないが、経営者のメッセージをステークホルダーに伝えるIRの一環として利用されており、平成28年には279社(うち262社は東証一部上場企業)において発行されている[2]。これらの会社においては、平成25年12月に国際統合報告評議会(IIRC)が公表した「国際統合報告フレームワーク」を参考にして統合報告書を作成しているものと思われる。
統合報告書の特徴の一つとして挙げられるのが、財務情報と非財務情報(経営方針・経営戦略や財務・経営成績の分析のほか、ガバナンスや社会・環境(ESG)に関する情報等を含む)の有機的つながり(統合)である。すなわち、統合報告書の目的は、企業の持続的な成長と中長期的な価値創造を示すことにあるが、その際に、財務情報と非財務情報を関連なく示しただけでは効果的とは言えず、非財務情報を資本コストや投資収益率等の財務経営指標と関連付けて示すことで、中長期的な投資判断に資するものになると考えられる。今回「優れた統合報告書」として名前の挙がった会社においても、主な経営指標を財務(経済価値)と非財務(社会価値)に関連付けて説明している点や、経営上のKPI(Key Performance Indicator)を明確に示しており、課題から最終的な財務目標まで紐づけた開示を行っている点などが評価されている。
また、統合報告書のもう一つの特徴として挙げられるのが、マテリアリティ(重要性)である。統合報告書における上記「有機的つながり(統合)」は、財務報告書、CSR報告書、アニュアルレポートなどのすべての開示情報を一冊に統合すればよいのではなく、企業における価値創造に影響する重要度に応じて優先順位を付け、重要度の高い項目に関して簡潔に説明していることが重要となる。上記国際統合報告フレームワークにおいては、このようなマテリアリティを決定する評価プロセスの開示を求めている。今回「改善度の高い統合報告書」として名前の挙がった会社においても、マテリアリティ及びその選定プロセスが記載された点や当該プロセスの納得性が高い点などが評価されている。
このように、統合報告書は、企業における財務情報及び非財務情報を、重要度に照らした優先順位に基づき有機的かつ簡潔に纏めたものであり、ステークホルダーとの間で有効なコミュニケーションツールとなるものである。また、財務情報及び非財務情報の開示については、上場会社を対象としたコーポレートガバナンス・コードの基本原則3においても、法令に基づく開示以外の情報提供にも主体的に取り組むべきとされており、その点で統合報告書は同コードに資するものと言える。したがって、企業においては、統合報告書を作成し、かつ、よりステークホルダーに理解・共感してもらえる内容にすべく検討していくことが重要であると思われる。
特に多くの運用機関から高い評価を得た 「優れた統合報告書」 |
特に多くの運用機関から高い評価を得た 「改善度の高い統合報告書」 |
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[1] 平成28年度の統合報告書と比べて改善度の高い統合報告書。下記表記載のとおり、オムロン株式会社は、特に多くの運用機関から高い評価を得た「優れた統合報告書」及び「改善度の高い統合報告書」の双方に選出されている。
[2] KPMGジャパン「日本企業の統合報告書に関する調査2016」31頁・32頁