GPIF、平成29年スチュワードシップ活動報告
岩田合同法律事務所
弁護士 森 駿 介
年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は、平成30年2月2日、「平成29年スチュワードシップ活動報告」(活動報告)を公表した。GPIFは、インベストメントチェーンの川上に位置するアセットオーナーとして、基本的には運用受託機関を通じて日々の売買や株式における議決権行使を実施しているため、活動報告でも、運用受託機関のスチュワードシップ活動の状況等に関する報告が中心となっている。昨年5月には「『責任ある機関投資家』の諸原則《日本版スチュワードシップ・コード》」の改訂版(改訂版SSコード)が公表されており、アセットオーナーを含む機関投資家のスチュワードシップ活動もますますの進展が予想されるところ、以下に概要を紹介するGPIFの活動報告の内容からもそうした趨勢を見て取ることができる。
1. 運用受託機関のスチュワードシップ活動の状況
(1) 運用受託機関のガバナンス・親会社等との利益相反
改訂版SSコードは、同一金融グループ内で法人営業を行う親会社等や同一法人内における法人事業部門の利益と運用受託機関(部門)の顧客・受益者利益との間に存する利益相反の管理措置が必ずしも十分でないとの指摘を踏まえ、運用受託機関における実効的な利益相反管理を求める指針2-2後段~2-4を追加した。このうち指針2-3では、運用受託機関における独立した取締役会や、議決権行使の意思決定や監督のための第三者委員会などの整備について言及されている。
GPIFの活動報告では、この点について、日系の株式運用受託機関においては、運用部門の別会社への分割・統合など運用部門と別部門間での利益相反を防ぐ組織上の分離や社外取締役の選任、第三者委員会の設置が進められている一方で、外資系運用受託機関ではこの点の体制・仕組みの整備が不十分であることが指摘されている。
(2) パッシブ運用におけるエンゲージメント・適切な議決権行使
年金の株式運用におけるパッシブ運用比率の高まりなどを背景として、改訂版SSコードは、投資先企業の株式を売却する選択肢が限られ、中長期的な企業価値の向上を促す必要性が高いパッシブ運用を行う機関投資家に対し、より積極的に中長期的視点に立った対話や議決権行使に取り組むべきことを求めている(指針4-2)。
この点に関連して、GPIFの活動報告では、国内株式パッシブ運用受託機関の全社で、投資先企業とエンゲージメント(目的を持った対話)を行う専任部署の設置などの体制整備・強化が行われたこととともに、内外の株式パッシブ運用受託機関を中心に、(年1回の議決権行使への対応だけでなく)通年でのスチュワードシップ活動への取組が見られたことなどが指摘されている。
(3) 重大なESG課題
改訂版SSコードの指針3-3は、機関投資家が、社会・環境問題に関連するリスクを同時に収益機会として捉えて把握すべきことを明記し、E(環境、Environment)・S(社会、Social)・G(ガバナンス、Governance)の要素を一層重視する姿勢を打ち出した。GPIFの取組としても、昨年7月、ESG投資の手法を取り入れ、ESGの要素を考慮した指数に連動したパッシブ運用を開始したことが注目されている。
また、GPIFは昨年6月に公表した「スチュワードシップ活動原則」において、運用受託機関に対して重大なESG課題についての積極的なエンゲージメントを求めることなどを明らかにしているところ、活動報告では、国内株式運用受託機関のうちパッシブ運用機関はE(環境)やS(社会)といった長期的な課題を、アクティブ運用機関はG(ガバナンス)をそれぞれ重大なESG課題と認識していることが確認されたとしている。
★運用受託機関のスチュワードシップ活動の状況まとめ
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2. 今後の展開
GPIFは、活動報告で、今後の対応として、双方向のコミュニケーションを重視した運用受託機関との「エンゲージメント」の強化などを挙げ、その一環として、運用受託機関に対するアセットオーナーによる共同エンゲージメントを検討することを明らかにしている。活動報告では、世界最大級の運用総資産額を誇るGPIFが運用受託機関のモニタリングを強め、既に様々な取組を進めていることが示されている。昨年5月の改訂版SSコード公表と相まって、今後、機関投資家の間でスチュワードシップ活動を進展させる動きが早いペースで広まる可能性もある。
以 上