◇SH1654◇コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(48)―やらされ感の克服④ 岩倉秀雄(2018/02/20)

未分類

コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(48)

―やらされ感の克服④―

経営倫理実践研究センターフェロー

岩 倉 秀 雄

 

 前回は、経営トップの問題点と「やらされ感」の関係について考察した。

 今回は、前回に続いて経営トップの問題と「やらされ感」の関係や、組織成員の組織アイデンティティの問題について考察する。

                           

【やらされ感の克服④】

1.「マンネリ化」や「やらされ感」はなぜ、どのように発生するのか

(3) 組織(経営トップ)の問題(前回の続き)

  1. ⑤ 利益至上主義で、コンプライアンス違反が罰せられず見過ごされる
  2.    コンプライアンス違反をしても大目に見られ、何のお咎めもない場合には、「少々の違反をしても利益を上げるためにはやむを得ない」、「ある程度までは大丈夫」、自分の所属する組織は「コンプライアンスよりも人間関係や利益を上げた実績がものを言うのだ」という受け止め方をしやすい。
     こうなると、コンプライアンスの重要性を声高に叫んでも、組織全体としてコンプライアンス軽視のシグナルを発しているので、組織成員に「やらされ感」が生まれ、コンプライアンスは組織に浸透・定着しない。
     
  3. ⑥ 知識がなく変化に気づかない
  4.    多忙で経営を維持することに必死な中小企業や、急激な成長に人材育成が追い付かず内部統制体制の構築に手が回らないベンチャー企業の一部では、コンプライアンスに関連する情報が不足していることが多い。
     そのため、法社会環境がコンプライアンス重視に移行しているにもかかわらずその変化に気が付かず従業員教育も行われない。
     業界団体の取組みや顧問弁護士の助言等により経営者が俄かに目覚め、コンプライアンス重視を叫び取組みを指示しても、その重要性が従業員に理解できない。
     理解できないままに指示命令に従って取り組んでいる従業員に、「やらされ感」が発生する。そのような組織では、意図的ではないが、様々な法違反や法対応の遅れが見られる。
     
  5. ⑦ 組織アイデンティティが弱い
  6.    佐藤・山田[1]によれば、組織アイデンティティは、組織の成員が組織を自らのアイデンティティのよりどころとして受け止め、その組織の成員であることが自らの価値を高めることになると認識することである。
     組織アイデンティティには、組織の本質的特性に関して自組織と他組織との明らかな違いを認識しそれが継続されるという特性がある。
     組織アイデンティティの機能には、次のようなものがある。
  7.    ア. 共有価値の形成・維持・変革
  8.    イ. 組織の魅力の増大
  9.    ウ. 成員の自己評価の向上
  10.    エ. 動機づけ・参加意識・忠誠心の推進
  11.    オ. 安全性・連帯性・全体性にかかる感覚の形成
  12.    カ. 成員の互換性感覚の形成
  13.    キ. 合意・信頼・協力の強化
  14.    ク. 全体的利害にのっとった行動の賞揚
  15.    ケ. 他の組織との競争意識の増進

 組織アイデンティティは、成員一人一人の「個人レベルのアイデンティティ」だけが目立っている時には活性化することはなく、「集団としてのアイデンティティ」が浮き彫りになり、組織の一員として感じ、考え、行動できるようになることで感知されるのだという。また、成員は組織アイデンティティの強い組織に入り強くアイデンティファイ(同一視)したときに、同僚たちとの強い連帯の下に貢献意欲を示し活性化するとされている。[2]

 筆者は、コンプライアンス強化の取組みが組織アイデンティティの強化につながる場合には、成員の積極的な取組みが期待できるが、そうでない場合には「マンネリ化」や「やらされ感」の原因になると考える。

 組織アイデンティティは、組織の成員が自組織の理念、ビジョン、倫理観、組織文化に共感・賛同でき、それを裏付ける戦略、戦術、構造、意思決定プロセス、人事評価等に納得できる一貫性がある場合に生まれる。

 反対に、自組織が法令違反を行っている場合、事故を隠している場合、消費者重視・顧客重視と言いながらその意見をクレーム対応や製品・サービスの改善に反映していない場合、製品やサービスに関わる必要な情報を公平に消費者に開示していない場合など、組織の標榜していることと組織行動の実態が乖離している場合には、組織アイデンティティが崩れると考える。

 このような事例では、組織がいくらブランド価値の向上を目的とした広告・宣伝、一時的・表層的なマーケティング活動を行っても、今の時代は、消費者が組織そのものの行動や製品・サービス・倫理観等でその組織の社会的価値を判断するので、評価されない。[3]

 いずれにしても、「マンネリ化」や「やらされ感」は、成員が組織の理念、ビジョン、倫理観、組織文化等の組織の基本的・中核的価値や組織行動に対して理解・共感できず、したがって組織決定にコミットできないという組織アイデンティティの欠如に由来する面があると考える。

 


[1] 佐藤郁也=山田真茂留『制度と文化――組織を動かす見えない力』(日本経済新聞社、2004年)100頁

[2] 前掲注[1] 108頁~109頁

[3] 組織アイデンティティは、組織の成員が内側から組織を見た価値であり、ブランド価値は組織が外から認知された価値であるということができる。

 

タイトルとURLをコピーしました