◇SH2357◇コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(142)日本ミルクコミュニティ㈱のコンプライアンス⑭ 岩倉秀雄(2019/02/22)

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コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(142)

―日本ミルクコミュニティ㈱のコンプライアンス⑭―

経営倫理実践研究センターフェロー

岩 倉 秀 雄

 

 前回は、準備委員会で検討された中期経営計画の目標の1つである経営基盤の確立と、役員体制(ガバナンス)について述べた。

 経営基盤の確立では、経営効率を高め3年以内に繰越損失を一掃することを基本目標とした。

 その為に、①生産から販売までのトータル利益管理システムの構築、②全国連と連携した需給調整と自社工場で乳製品製造をしないこと、③これまでにとらわれない質量面で安定した資材調達先の確保、④既存アイテムの整理・統合、⑤収益性・市場規模・成長性評価に基づく商品別・チャネル別戦略の明確化と資源投入の「選択」と「集中」、⑥出荷拠点の統廃合と配送コースの集約・見直しによる物流費のコストダウン、⑦ラインの統廃合、要員の見直し、他社からの積極的受注による直営工場の生産性向上、⑧チャネル別利益管理方法の確立と徹底等を定めた。

 新会社の役員体制は、①社外取締役・監査役の招聘による経営の透明性の確保、②少人数による意思決定の迅速化、③執行役員制度の導入(検討)による取締役会の役割の明確化、④社外有識者からの意見反映による社会との適合・ステークホルダーとの有機的関係の構築、⑤内部人材の登用による従業員のモチベーションへの配慮を基本的考え方とした。

 今回は、会社設立後のコンプライアンス体制の構築と運営について考察する。

 

【日本ミルクコミュニィティ(株)のコンプライアンス⑭:コンプラインス体制の構築と運営①】(『日本ミルクコミュニティ史』416頁~417頁)

 本稿では、これまで、日本ミルクコミュニティ(株)設立の経過と設立準備委員会の活動内容について記述してきた。

 筆者は、全酪連乳業統合準備室長兼市乳統合会社設立準備委員会事務局次長としてこの会社の設立にかかわり、2003年1月1日に日本ミルクコミュニティ㈱が設立した後は、コンプライアンス部長として同社に移籍した。

 今回から複数回にわたり、この合併会社のコンプライアンスについて考察する。

 会社設立初年度(2003年度)は、設立準備委員会で懸念した通り、特に物流、情報システム、営業部門が大混乱に陥り、債務超過の危機に陥った(後述する)ために、コンプライアンス研修や内部監査業務を十分に行うことはできなかったが、新役員体制になり業務も安定化してきた頃から、コンプライアンス部門として以下の取組みを行った。

 

1. コンプライアンス部門の役割と位置づけ

 コンプライアンス部は、企業倫理の維持向上・法令遵守および内部監査を担当する部門として設立され代表取締役専務が担当[1]した。

 部は、企業倫理体制の統括とコンプライアンスに関わる従業員相談窓口業務を行なうコンプライアンス課と内部監査・検査・環境監査および監査役監査の補助を行なう業務検査課の2課構成であった。

 日本ミルクコミュニティ(株)の設立(2003年)当時、わが国ではコンプライアンスに関する明確な概念が定まっておらず、そのための実行プログラムも一般に知られていなかった。

 また、内部統制については、今日のように会社法や金融商品取引法が独立の法として制定されておらず、不祥事を経験した一部の企業を除き、その重要性に対する認識は今日ほど高くはなかった。

 したがって、試行錯誤しつつ業務に取り組み、経営法友会、経営倫理実践研究センター、日本内部監査協会等に加入して業務に関する情報収集に努めた。

 

2. コンプライアンス施策

(1) MEGホットラインの設置

 従業員特別相談窓口は、組織が事前に従業員からの相談を通して組織のかかえるリスクを知り自らの力で解決するための仕組みであり、中期経営計画でも設置を謳った。

 従業員特別相談窓口の名称は、従業員に馴染み易いように会社の牛乳であるメグミルクの名前を活かして「MEGホットライン」と名づけた。

 役員・従業員が、法令、企業理念、行動指針ならびに内部規定に照らしておかしいと思うことを、通常は上司に相談することとし、通常のルートでは相談しがたい事項を相談する場合の特別相談窓口と位置づけ、2003年2月5日よりコンプライアンス部に設置した。

 相談対応者は、コンプライアンス部長、コンプライアンス課長とし、コンプライアンス部担当役員と相談しつつ対応するが、必要により関連他部門の特定の協力者の協力を得ることができることとした。

 また、セクシャルハラスメントについては、外部の専門相談窓口(当初は相談専門会社、後に顧問弁護士事務所)にも相談できる体制とした。

 相談者は、当人の希望により、当人と相談者の間に仲介者を置くことができることとし、連絡の手段は専用の電話・電子メール、手紙(コンプライアンス部長宛の親展)等によることとした。

 また、相談窓口の周知徹底は、文書による全場所への連絡、社内イントラネットへの掲載、携帯用カード・手帳貼付用シールの配布、研修時の案内、内部監査時の確認・検証により行ない、その仕組みはMEGホットライン規則に規定した。

 MEGホットラインへの相談状況については、相談者等関係者の秘密を厳守した上で、相談件数、相談の種類、対応内容等を後述するコンプライアンス委員会に整理して報告した。

 また、相談案件のうち全社的に重要なものについては、他部署での発生を予防するために、文書で全社的に注意を喚起し対応を促した。

 ちなみに、当社のこの仕組みは、公益通報者保護法が施行される前から設定していたもので、同法の制定・施行にあたり行政から資料提出の依頼を受けるとともに、各社が従業員相談窓口を設定する際の参考として出版物[2]にも掲載された。

(つづく)



[1] 代表権を持つ役員がコンプライアンス部門を担当することは、コンプライアンス重視の組織文化がまだ形成されておらず、出身会社主義によるコンフリクト(あつれき)が顕在化しやすい合併新会社にとって、コンプライアンス重視のメッセージを組織内外に発信する上で必要であった。

[2] 経営法友会 法務ガイドブック等作成委員会編『内部通報制度ガイドライン』(商事法務、2004年)

 

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