◇SH1657◇社外取締役になる前に読む話(10)――判断に必要な情報量と検討時間の不足をどう乗り越えるか⑵ 渡邊 肇(2018/02/21)

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社外取締役になる前に読む話(10)

ーその職務と責任ー

潮見坂綜合法律事務所

弁護士 渡 邊   肇

 

X 判断に必要な情報量と検討時間の不足をどう乗り越えるか(2)

 前回は、取締役会決議事項を検討するにあたり、社外取締役に与えられている情報量と検討時間が圧倒的に不足していることに対する問題提起を行った。その解決方法について検討する。

 ワタナベさんの疑問は下記のようなものであった。

ワタナベさんの疑問その6

 取締役会において、M&A案件が審理されることになった。非上場会社であるターゲット会社の株式を49%購入するというのがその内容である。議案の内容は、取締役会当日に配付された資料に簡潔にまとめられているが、いかんせん、配付された資料だけでは、案件の全容が全く分からない。

 どうしたらよいのだろうか。

 

解説

 解決策は極めてシンプルであり、情報量の不足を補う最善の手段は、十分なヒアリングの機会を持つということに尽きる。

 取締役会の議案について、事前に社外取締役に対して説明の機会を設定するか否かは、会社によって異なると思われるが、社外取締役に対する事前説明の機会が設定されている会社であれば、そのような機会を活用して情報収集に努めるべきである。事前説明を受けてもなお、判断に必要な情報が不足していると感じた場合には、担当者からの追加説明を求めるべきことは当然であろう。前回ご紹介させて頂いたように、取締役の意思決定が経営判断の原則の下で保護されるためには、判断に必要十分な情報にアクセスしたことが前提となり、十分な情報に依拠しないまま、例えば業務執行取締役の違法行為や裁量権逸脱行為を看過した場合には、社外取締役もまた監視義務違反に問われる可能性があることにご留意頂きたい(なお、この点については今後より詳細に解説する予定である。)。

 また、社外取締役に対する事前説明の機会を設定していない会社であれば、総ての取締役会につき、また、上程される総ての議案につき、事前説明会の設定を求めるべきである。繰り返しになるが、判断のための十分な情報を検討しないまま、不合理な判断を行い、その結果として会社に損害が発生した場合には、経営判断の原則に基づく保護が与えられなくなること、そして社外取締役は、非常勤ではないことから必然的に、経営判断を行うに十分な情報にアクセスし辛い環境にあることを肝に銘じるべきである。また、これに関連して、会社が社外取締役に開示する情報と、その他の取締役に開示する情報に区別を設け、社外取締役に開示する情報を制限することはできないと解されることについては既にご紹介した。

 では、会社が、このような事前説明会の開催に応じない場合はどうしたらよいのだろうか。

 まずそもそも、通常そのような事態は考えにくい。会社として社外取締役のかかる要請を拒否する合理的な理由が何もないからである。仮にそのような事態が発生するとすれば、それは特定の議案について、資料の作成が取締役会の直前となり、事前の説明の機会を持つ余裕がない場合か、事前に説明する機会を設定することができない性質のものであるかのどちらかであると考えられる。

 前者は決算承認議案がその典型である。年度決算はもちろん、四半期決算についても会計監査人による会計監査を経なければ決算は確定しないが、会計監査人によるレビューが終了するのは、決算承認取締役会の直前となってしまうのがむしろ通常である。いきおい、取締役会当日にならないと決算そのものが確定しないという事態がしばしば発生する。むろん、かかる事態はできるだけ回避されることが望ましいが、回避できるか否かは、会社財務経理部による決算数字の確定、会計監査人によるレビューなど、一連の作業の進捗状況次第であり、取締役会直前になって初めて承認対象となる決算が確定するという状況が発生することはやむを得ない。この場合、事前に検討の時間が付与されないのは、社外取締役のみならず、取締役全員に共通であり、主要な監査法人が多くの上場会社の会計監査人を兼務している現状では、致し方ない面もある。但し、社外取締役のみならず、総ての取締役にとって、決算情報についても、その他の決議事項に関する情報と同様、事前に検討の時間が付与されることが望ましいことは言うまでもない。ワタナベさんも、会社に対し、決算承認決議案についても、取締役会の直前ではなく、可能な限り長期のリードタイムをもって検討ができるよう、会社の然るべき対応を求めていくべきであろう。

 後者、すなわち、取締役会前に議案を説明する機会を設定することができない性質の議案の一例が、設例のようなM&A案件であり、その最大の理由がインサイダー取引規制の存在である。この点については次回解説することとしたい。

 

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