◇SH1662◇日本企業のための国際仲裁対策(第72回・完) 関戸 麦(2018/02/22)

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日本企業のための国際仲裁対策

森・濱田松本法律事務所

弁護士(日本及びニューヨーク州)

関 戸   麦

 

第72回(最終回) 仲裁条項の作成(9)

3. 基本型モデル仲裁条項の修正その5

(9) 費用の負担

 第55回の7(3)項で述べたとおり、仲裁判断においては、申立人及び被申立人間の費用の負担(いずれの当事者が、いかなる割合で、いかなる費用を負担するか)について、判断が示されることが通常である。この判断について、一義的な決まりはなく、基本的に仲裁廷の広範な裁量に委ねられている。

 そこで、仲裁条項において、費用負担の判断について具体的な定めを置き、仲裁廷の裁量を制限することが考えられる。その際の視点としては、①仲裁判断における勝敗を決定的な要素とするか否かという点と、②費用負担の判断の対象に各当事者の弁護士費用を含めるか否かという点がある。

 もっとも勝訴当事者に有利(敗訴当事者に不利)な定め方は、勝訴当事者の弁護士費用を含め、全ての(合理的な)費用を敗訴当事者に常に負担させるというものである。その際の文例としては、次のものが考えられる。

  1.   The prevailing party shall be entitled to recover its [reasonable] costs, including administrative fees and expenses, arbitrators’ fees and expenses and fees and expenses of legal representation in the arbitration proceedings.

 但し、仲裁判断における勝敗以外にも、費用負担の判断においては、例えば、仲裁手続を遅延させたり、不当にコストを増加させるような対応をとった当事者がいた場合には、仮に当該当事者が勝訴したとしても、費用の一定割合を負担させることが考えられる。そのような判断のために仲裁廷の裁量を残すのであれば、上記文例の「shall」を「may」に置き換えるなどの対応をすることが合理的である。

 一方、勝訴敗訴に拘わらずに、各当事者が自らの費用を各々負担し、仲裁人及び仲裁機関の費用を折半するという定め方も考えられる。その際の文例としては、次のものがある。

  1.   Each party shall bear its own costs and expenses and an equal share of the arbitrators’ fees and expenses and all administrative fees and expenses of the arbitration proceedings.

 もっとも、このような定め方は、根拠薄弱な仲裁申立を受けて、応訴せざるを得なくなる場合を考えると、納得し難い面がある。かかる場合は、根拠薄弱な仲裁申立をして敗訴した当事者が、基本的に費用を負担するべきと思われる。

 但し、国際仲裁においては弁護士費用が高額となり得るため(国際仲裁のコストとして最も重いのは、通常、代理人弁護士の費用である)、これを費用負担の判断の対象とすると、この判断が経済的に重い意味を持つことが考えられる。具体的に述べると、この判断が億円単位の意味を持つことは、珍しいことではない。

費用負担の判断が重い意味を持つと、これが各当事者の行動に影響を及ぼす可能性がある。申立人の側では、敗訴して費用負担が命じられるリスクを考え、確実に請求が認められると言えない限り、仲裁申立をためらうことが考えられる。一方、被申立人の側では、請求を争いたいと考えても、敗訴して費用負担が命じられるリスクを考え、確実に勝訴できると言えない限り、譲歩して和解をすることに傾くことが考えられる。費用負担の判断にここまで重い意味を持たせたくないということであれば、費用負担の判断の対象から、弁護士費用を除外することが考えられる。その場合の文例は、次のとおりである。

  1.   The tribunal shall have the power to make an award allocating the costs and expenses of the arbitration proceedings except for the costs and expenses of legal representation.  Each party shall bear its own costs and expenses of legal representation.

 なお、費用負担の判断につき望ましい規定を決め難いときは、特段の規定を置かず、費用負担の判断を仲裁廷の裁量に委ねることも、一つの合理的な選択肢である。

 

4. その他の仲裁条項作成上の留意点

(1) 同一当事者間で関連する契約が複数存在する場合

 同一当事者間で、関連する契約が複数存在することがある。例えば合弁契約で、新たな投資を行う毎に契約を締結し、投資の回数分契約が存在することがある。

 このような場合に重要なことは、全ての契約において紛争解決方法を統一しておくことである。というのも、紛争が生じる場合、関連する契約であるため、複数の契約が関係することが十分に想定されるからである。この複数の契約において、紛争解決方法が別に定められているならば、いかなる紛争解決によるかについて無用な混乱と、争いが生じる。

 対応方法として望ましいことは、全ての契約に共通する基本契約を締結し、その中で紛争解決方法について定め、他の契約では、この基本契約の定めを引用することである。紛争解決として仲裁を選択するのであれば、基本契約において仲裁条項を置き、他の契約ではこの仲裁条項を引用するということである。

 仮に、このような基本契約が設けられない場合には、全ての契約の紛争解決条項を、一言一句同じとするべきである。紛争解決条項間で矛盾がある場合には、上記の無用な混乱と、争いの原因となるためである。

(2) 多数当事者間で契約を締結する場合

 三者以上の多数当事者間で契約を締結する場合、二つの留意点がある。

 一つは、前記(1)の場合と同様に、全ての当事者につき紛争解決方法を統一することである。紛争を統一的に解決するために、重要なことである。

 同一の多数当事者間において、関連する契約が複数ある場合には、前記(1)の場合と同様に、全ての契約に共通する基本契約を締結し、その中で紛争解決方法について定め、他の契約では、この基本契約の定めを引用することが望ましい。

 但し、多数当事者間で複数の契約を締結する場合には、契約毎に当事者が異なることが考えられる。例えば、施主、元請、下請及び孫請という階層の契約の場合、①施主と元請間、②元請と下請間、③下請と孫請間という、3つの当事者の異なる契約が成立することになる。このような場合、3つの契約を束ねる基本契約を締結して、紛争解決方法を定めることは容易とは思われない。

 もっとも、3つの契約は同一のプロジェクトを対象とするものであるから、紛争が生じた場合に3つの契約のうち複数が関係することは十分に想定される。そこで、統一的な紛争解決の観点からは、各契約に基づく請求が併合できるように、紛争解決方法を3つの契約で同一のものとすることが望ましい。この点、仲裁を選択するのであれば、ICC、SIAC、HKIAC及びJCAAのいずれも多数当事者間の仲裁手続を併合する規定を整備しているため、これらの仲裁機関を定めた同内容の仲裁条項を3つの契約全てにおいて定めれば、統一的な解決が期待できる。

 そのためには、最初に締結することが想定される①施主と元請間の契約において、関連する契約においては全て同一の仲裁条項を定めることを義務づけることが考えられる。そのようにすれば、②元請と下請間の契約、さらには③下請と孫請間の契約において、同一の仲裁条項が定められることが期待できる。その文例としては、次のものがある。

  1.   No Party may enter into a contract relating to the Project with a person not a party to this Agreement unless clauses are included in such contract stating that any dispute arising or in connection with the contract shall be finally settled pursuant to Section [ ][1] of this Agreement and that all parties to any such contract expressly consent to be bound by the section of this Agreement as if signatories hereto, and setting the same obligation under this Section [ ][2] of this Agreement on all parties to such contract.

 多数当事者間の契約におけるもう一つの留意点は、仲裁人が3名の場合の選任方法である。仲裁人が3名の場合、二当事者であれば、各当事者が1名ずつ仲裁人を選任することになるが、三当事者以上の場合は、そのようにする訳にはいかない。

 もっとも、この点については、ICC、SIAC、HKIAC及びJCAAの場合には、規則で手当がなされており、仲裁条項で特段の対応をする必要はない。手当の内容は基本的に共通で、申立人が複数の場合にはその全員の合意により1名の仲裁人を選任し、被申立人が複数の場合にはその全員の合意により1名の仲裁人を選任するが、かかる全員の合意ができないときは、仲裁機関が3名の仲裁人全てを選任するというものである(ICC規則12.6項及び12.8項、SIAC規則12.2項、HKIAC規則8.2項、JCAA規則29条)。例えば、申立人及び被申立人いずれも2名ずつであった場合、申立人2名の方は仲裁人1名の選任につき合意できたとしても、被申立人2名の方が合意できなければ、3名の仲裁人全てを、仲裁機関が決めることになる。すなわち、一方当事者側のみが仲裁人1名を選任するという事態は、基本的に避けることとしている。

 

 以上で、本連載は終了する。2016年8月以来、1年半に渡り、週1回のペースで、一切の遅滞なく連載を続けることができた。これもひとえに、おつき合い頂いた読者の皆様と、商事法務の皆様のおかげである。篤く御礼申し上げる。

以 上



[1] ①施主と元請間の契約における、仲裁条項の項目番号を記載する。

[2] この条項(同一の仲裁条項を定めることを義務づける条項)の項目番号を記載する。

 

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