◇SH1665◇コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(49)―やらされ感を克服する組織施策 岩倉秀雄(2018/02/23)

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コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(49)

―やらされ感を克服する組織施策①―

経営倫理実践研究センターフェロー

岩 倉 秀 雄

 

 前回は、経営トップの問題と「やらされ感」の関係や、組織成員の組織アイデンティティの問題について考察した。

 今回から、これまでの分析を踏まえ、成員がコンプライアンスに主体的に取り組むために、組織はどんな施策を取るべきかについて考察する。

 

【やらされ感を克服する組織施策①】

 本稿で「やらされ感」を克服する組織の施策を、1.経営者がコンプライアンスに理解があるが、何らかの理由により組織成員が主体的にコミットできない場合、2.経営者が、本音ではコンプライアンスに理解を持っていない掛け声だけのコンプライアンスの場合、の2つに分けて考察する。

 1.は、組織の施策が個人や個人の総体としての組織に影響を与え、成員と組織全体のマインドを形成することを踏まえ、組織の中の個人の主体性を引き出す視点から考察する。

 2.は、ステークホルダーの持つパワーに注目し、経営トップをコンプライアンス経営に向かわせるためには、ステークホルダーは何をどうするべきかという組織論から見たガバナンス強化を考察する。

 

1. 経営者がコンプライアンスに理解があるが、組織成員が主体的にコミットできない場合

  1. (1) 革新に伴う「抵抗・混乱・対立」を極力削減する。
  2.    組織成員のコミットメントを引き出すためには、これまで述べたとおり、コンプライアンス強化に向けた組織文化の革新に伴う「抵抗・混乱・対立」の発生を極力抑える必要がある。
     「抵抗」には、①組織の実態とあるべき姿のギャップを呈示し革新の必要性を認識させること、②できるだけ革新に参加させ革新の当事者としての認識を持たせ動機付けること、③報酬・制裁のパワーを活用し、抵抗に対する制裁や望ましい行動に対する報酬により、組織の姿勢を明示し成員に行動の方向性を与えること、④十分な教育・訓練により未知の状況への不安感を払拭し自信を持たせることである。
     「混乱」には、①経営トップが革新を断固進めるという姿勢を貫くこと、②正確な情報をできるだけ多く提供して成員の不安感を取り去り将来への明確なビジョンを呈示すること、③問題が起きたら直ちに解決し後に長引かせないこと、④コンプライアンス部門の、常日頃の現場とのコミュニケーションとそれに基づく現場把握・指示・支援による問題解決能力の涵養である。
     「対立」には、①組織決定の重要性を、対立する集団に妥協せず認知させる、場合によっては、異動も含めて対応し退出者が出てもやむを得ないという姿勢を貫くこと、②サブ集団が協調することで組織の現在の問題の解決可能性が高まるということを認識させるために、共通する外部の敵を想定し、サブ集団間の協力関係を創造すること等、である。
     
  3. (2) 組織コミットメント(当事者意識)の強化

    1. ① 経営者の持つ、他組織と際立った違いのある明確な理念、ビジョンや倫理観・行動規範を呈示するとともに、それを組織内に徹底するためにあらゆるルートで発信・伝達する。また、日常の経営に反映するために、経営トップの意思決定、部署責任者の現場での意思決定、会議、朝礼、勉強会等で、コンプライアンス強化を取り上げ実践する。
    2. ② コンプライアンス強化を組織戦略の中に位置づけ、人事評価と連動させる。中・長期経営計画でコンプライアンス強化方針を謳い、年度計画に落とし込み、アクションプランとして細かく管理する。その達成度を人事評価に結び付け昇進・昇格・昇給に反映する。
    3. ③ コンプライアンス監査を実施し、コンプライアンスリスクの削減と意識の喚起を促す。項目例としては、理念、行動規範の認知、個人情報や営業秘密の管理、上司と部下は自由にものが言えるか、情報等のリスクの把握状況、パワ・ハラやセク・ハラの発生状況、環境問題の発生状況、業界、企業、職場固有のコンプライアンス違反等をチェックする。
    4. ④ 常時、社会や組織に関する情報を提供し、組織成員の正しい認識形成を促す。無知による違反を防ぐとともに、組織のあるべき姿をセルフアセスメントする意識を持たせ、認識の共有化を促す。また、それを組織のどこでも議論できるようにする。
    5. ⑤ 組織が標榜することと実際の組織行動を一致させる。コンプライアンス上問題のある慣習やルールを疑いもなく実施している場合があれば、直ちに改める。行動を総点検し社会に約束したことを実践することにより、成員は確信を持ってコンプライアンス経営に取り組むことができる。
    6. ⑥ 全社的に職場単位でコンプライアンスに取り組む組織を設置する。取組組織ごとにコンプライアンス方針・重点計画を策定・実施し、コンプライアンス部門と各組織は、その進捗管理を行う。また、コンプライアンス活動に対する発表会を行い優良な取り組みは表彰する。
    7. ⑦ 経営トップ以下全従業員によるコンプライアンス遵守宣言への署名は、経営トップの取り組み姿勢を示し従業員との一体感を実感させる上で効果がある。

 次回は、経営トップをコンプライアンス経営に向かわせる方法について考察する。

 

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