◇SH0005◇シンガポール:初の国際カルテル違反決定事案 長谷川良和(2014/06/23)

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シンガポール:初の国際カルテル違反決定事案~ベアリングカルテル事件

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 長谷川 良和

1.      ベアリングカルテル事件

 シンガポール競争委員会(CCS)は、本年5月27日に、日系ベアリングメーカー4社及びそのシンガポール子会社に対し、シンガポールのアフターマーケット顧客向けに販売されるボールベアリング及びローラーベアリングの価格及び販売に関し、反競争的合意及び不法な情報交換がなされたとして、シンガポール競争法違反を理由とする違反決定を下した。これは、シンガポール競争委員会による初のいわゆる国際カルテル違反決定事案であり、同委員会は当事者に対し合計約7億6,000万円(約931万シンガポールドル)の課徴金支払いを命じている。決定文によると、本件は、当事者の1社がシンガポールで課徴金減免(リニエンシー)申請を行ったことを契機として当局調査が開始されたものであり、約2年6月の調査期間を経て、2014年5月に違反決定が出されるに至っている。

2.      シンガポールのカルテル規制

 いわゆるカルテルと呼ばれる行為は、シンガポールにおける競争を阻害、制限、又は歪曲する目的又は効果を有する、事業者間の合意、事業者団体による決定、又は協調行為、という範疇で規制されており、これに該当する場合には、法定の除外事由又は一括適用免除の類型に該当しない限り禁止されている。

 かかる規制に違反した場合の事業者に対する競争法上の主な制裁としては、排除措置命令や課徴金納付命令が挙げられる。シンガポールにおけるいわゆるカルテル事案のこれまでの課徴金額の例は、以下のとおりである。

※   上記表のSGDはシンガポールドルの、またCABはCompetition Appeal Boardのそれぞれ略である。

 なお、シンガポールでは、カルテル規制に違反した行為について、個人に対する刑事罰の規定は定められていない。もっとも、カルテル調査に関し、情報提供の拒否、文書の破棄・隠匿・改変、虚偽又は誤解を与える情報の提供等の一定の行為を行うと刑事罰に処せられる可能性があるため、調査対応時にはかかる行為を行わないよう留意が必要となる。

3.      終わりに

 シンガポールで競争法が施行されたのは、2006年1月である。近時、自由貿易促進の流れを受けて、シンガポール競争委員会による国際カルテル事案の調査は増加傾向にあると言われる。当局の態度に変化が見られる以上、企業側もそれに応じて予防や危機対応の対策を講じる等の適切な対応が重要となろう。

 

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