債権法改正後の民法の未来 15
債権譲渡の第三者対抗要件(1)
德田法律事務所
弁護士 德 田 琢
Ⅰ 最終の提案内容
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「2 対抗要件制度(民法第467条関係)
民法第467条が定める対抗要件制度について、以下のような方向で改正をするという考え方があり得るが、どのように考えるか。- (1)債権の譲渡は、譲渡人が債務者に通知をしなければ、債務者に対抗することができないものとする。
- (2)債権の譲渡は、譲渡人又は譲渡人の指定する者が次に掲げる事項を記載した証書を作成して確定日時(郵便認証司又は公証人が証書を認証した日時を付した場合におけるその日時をいう。以下、同じ。)を付した上で、その債権の譲渡及び譲渡につき当該証書が作成されたことを債務者に通知しなければ、債務者以外の第三者に対抗することができないものとする。
- ア 債権を譲渡した事実及びその日付
- イ 譲渡に係る債権を特定するために必要な事項
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【A-1案】
- (3)上記(2)の通知は、日時を付した日から[一週間]以内に、上記(2)の証書を交付してしなければならないものとする。
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【A-2案】
- (3)上記(2)の証書の作成及び通知は、内容証明の取扱いに係る認証(郵便法第58条第1号参照)を受けて確定日時を付す方法によって、しなければならないものとする。ただし、上記(2)の譲渡人の指定する者が債務者である場合には、上記(2)の証書を作成して公証人役場において確定日時を付する方法によることができるものとする。
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【A-1案及びA-2案に共通】
- (4)上記(2)の証書に確定日時が付された譲渡が競合した場合には、債務者は、上記(2)の通知をした譲受人のうち、証書に付された確定日時が先の譲受人に対して、債務を履行しなければならないものとする。」[1]
- cf.中間試案(第18 債権譲渡)
- 「2 対抗要件制度(民法第467条関係)
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(1)第三者対抗要件及び権利行使要件
民法第467条の規律について、次のいずれかの案により改めるものとする。 -
【甲案】(第三者対抗要件を登記・確定日付ある譲渡書面とする案)
- ア 金銭債権の譲渡は、その譲渡について登記をしなければ、債務者以外の第三者に対抗することができないものとする。
- イ 金銭債権以外の債権の譲渡は、譲渡契約書その他の譲渡の事実を証する書面に確定日付を付さなければ、債務者以外の第三者に対抗することができないものとする。
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ウ (ア)債権の譲渡人又は譲受人が上記アの登記の内容を証する書面又は上記イの書面を当該債権の債務者に交付して債務者に通知をしなければ、譲受人は、債権者の地位にあることを債務者に対して主張することができないものとする。
(イ)上記(ア)の通知がない場合であっても、債権の譲渡人が債務者に通知をしたときは、譲受人は、債権者の地位にあることを債務者に対して主張することができるものとする。
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【乙案】(債務者の承諾を第三者対抗要件等とはしない案)
特例法(動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律)と民法との関係について、現状を維持した上で、民法第467条の規律を次のように改めるものとする。 -
- ア 債権の譲渡は、譲渡人が確定日付のある証書によって債務者に対して通知をしなければ、債務者以外の第三者に対抗することができないものとする。
- イ 債権の譲受人は、譲渡人が当該債権の債務者に対して通知をしなければ、債権者の地位にあることを債務者に対して主張することができないものとする。
- (注)第三者対抗要件及び権利行使要件について現状を維持するという考え方がある。」
Ⅱ 提案の背景
旧法の債権譲渡の第三者対抗要件制度は、債務者にインフォメーション・センターとしての役割を果たさせることにより、債権譲渡の事実が公示されることを想定したものであるが、この第三者対抗要件制度には、債務者が債権譲渡の有無について回答しなければ制度が機能しないこと、債務者に対して到達の先後の判断という負担を押し付けるものであり、債務者がそのような負担を強いられる理由が明確でないこと、確定日付が、日付を遡らせることを可及的に防止するという限定的な機能しか果たしていないこと等の問題点があると指摘されていた。
また、動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律(以下「特例法」という。)により、法人による金銭債権の譲渡については登記により第三者対抗要件を具備することが可能となったが、民法と特例法による第三者対抗要件制度が並存しているため、債権が二重に譲渡されていないかを確認するために債務者への照会と登記の有無の確認が必要であることから、煩雑である等の問題点も指摘されていた。[2]
更には、債務者の承諾をめぐって、①確定日付のある書面で承諾をするのではなく、債務者が承諾をした後にその書面に確定日付を付した場合であっても、第三者対抗要件として有効であると解されているため、債務者にとって第三者対抗要件の具備された時点を認識することが困難な事態が生ずることがある、②債権譲渡前の債務者による包括的な承諾のように、第三者対抗要件としての有効性に疑義が生じ得る利用実態がある、③債権譲渡の当事者ではない債務者が、譲受人の第三者対抗要件具備のために承諾という積極的な関与を求められるのは、債務者に過大な負担となることがあり得る、④債務者は観念の通知としての承諾をすれば足りるとされるが、その程度の関与によって、債務者が実際にインフォメーション・センターとしての機能を果たし得るのか疑問であるなどの問題点も指摘された。[3]
このような問題点の指摘を踏まえて、債権譲渡の第三者対抗要件制度について基本的に見直すことが検討された。