インドネシア:融資及び担保に関する法制の概要(1)
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 酒 井 嘉 彦
1. はじめに
本稿では、インドネシアにおける企業の一般的な資金調達の場面のうち、海外企業(日本企業を含む。以下同じ)がインドネシア現地企業に対して融資を行う場面、すなわち、現地企業が海外企業から融資を受ける場面(これには、日本の親会社が現地子会社に対していわゆる親子ローンにより資金注入する場面や、海外企業が現地パートナー企業に対して融資を行う場面が含まれる。)を念頭に置きつつ、そのような場面に貸付人及び借入人にそれぞれ適用され得るインドネシアの法制を概観するとともに、かかる場面で典型的に利用されるインドネシアの担保法制もあわせて概説する。
2.
海外企業がインドネシア国内の借入人に対して融資を行う場合に、当該海外企業に適用されるインドネシア法上の規制の有無
まず、原則として、インドネシア投資法上、外国投資家(外国企業)がインドネシア国内で事業を行う場合には、インドネシア国内で設立されたインドネシア法人を通して行うことが義務づけられている。何をもってインドネシア国内で事業活動を行っているとみなされるかについて明確な法令上の基準が存在するわけではないが、実務の運用上は、当該事業に関する全ての業務がインドネシア国外で完結するものである限りは、取引の相手方がインドネシア国内の居住者であってもインドネシア国内で事業を行っているとはみなされない。かかる投資法の枠組みに基づき、インドネシア国外の貸付人がインドネシア国内の借入人に対して融資を行うことも原則許容されており、海外企業は、インドネシア国内の借入人に対して、当事者間の契約関係のみに基づいて融資を行うことができる[1]。
また、貸付契約の準拠法を外国法にすることも可能であり、公序良俗違反等インドネシア法上の強行法規に抵触する場合を除き、契約当事者は、契約条件を自由に決定することができる。なお、インドネシアには、特定の分野における融資の場面を除き、利息の制限(上限利率)を定めた法令は原則として存在しない。
3.
インドネシア国内の借入人が海外企業から融資を受ける場合に、当該借入人に適用されるインドネシア法上の規制枠組み
- ⑴ インドネシア国内の借入人は、インドネシア国外の貸付人から融資を受けることが認められている。インドネシア居住者が外貨建て及び/又はインドネシアルピア建てで非居住者に対して負担したローン(シャーリアに基づくローンを含む。)が「オフショアローン」と定義されており、オフショアローンを受けた借入人は、インドネシア中央銀行に対して、オフショアローンに関する報告書の提出義務が課されていることに留意する必要がある。
- ⑵ 上記の報告義務に加えて、オフショアローンが外貨建てである場合、借入人である会社(銀行を除く)は、健全性維持原則(Prudential Principle)の遵守が求められ、具体的には、原則として、一定のヘッジ比率、流動性比率及び格付けを満たさなければならない。また、かかる健全性維持原則の遵守状況に関して、インドネシア中央銀行への定期的な報告が義務付けられている。
- ⑶ なお、借入人が、上記のインドネシア中央銀行への報告義務及び健全性維持原則の遵守要件に抵触した場合でも、貸付契約の有効性自体が否定されることはなく、また、これまでの実務において、インドネシア中央銀行がこれらの違反に対して厳しい罰則や制裁を課してきたということはないようである。しかしながら、法令遵守の観点からは、現地子会社に対して日本の親会社がオフショアローンを出す場合はもちろん、現地パートナー企業に対して貸付を行う場合には、借入人がこれらの義務及び要件を遵守していることを確認するとともに、貸付人として、借入人によるこれらの義務及び要件の遵守に関して貸付契約上の貸付実行前提条件、表明保証事項及び/又は誓約事項として規定することが考えられる。
(2)につづく
[1] なお、貸付人の役職員が融資に係る業務をインドネシア国内で行うことは、インドネシアの投資法の枠組みに抵触する可能性があり、また、当該役職員が必要な就労ビザを持たずにインドネシア国内で融資事業に関連する業務を行う場合には、違法な就労行為に従事しているとみなされるリスクがあることに留意されたい。
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(さかい・よしひこ)
2011年から長島・大野・常松法律事務所にて勤務し、各種ファイナンス案件、不動産取引を中心に、企業法務全般に従事。2018年から2019年にかけて、Blake, Cassels & Graydon LLP(Toronto)に勤務。その後、2019 年より長島・大野・常松法律事務所シンガポール・オフィスにて、主に東南アジア地域における日本企業の進出・投資案件を中心に、日系企業に関連する法律業務に広く関与している。京都大学法学部、京都大学法科大学院、University of California, Los Angeles, School of Law(LL.M.)卒業。
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