◇SH1746◇実学・企業法務(第128回)法務目線の業界探訪〔Ⅱ〕医藥品、化粧品 齋藤憲道(2018/04/05)

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実学・企業法務(第128回)

法務目線の業界探訪〔Ⅱ〕医藥品、化粧品

同志社大学法学部

企業法務教育スーパーバイザー

齋 藤 憲 道

 

〔Ⅱ〕医薬品、化粧品

 奈良時代に光明皇太后・孝謙天皇が東大寺大仏に献納した薬物が、現在も正倉院薬物として保存されている。当時、これらの薬物は施薬院等を通じて衆生救済に使用されていたという[1]。古代から、人々は、病気を治す薬を重宝してきた。

 江戸時代には丸薬等が用いられ、富山や奈良等の「置き薬」が国内の広域に配置された[2]

 明治維新後は、医療の西洋化が進んだが、医学の一部に薬学が位置付けられる状況が続いた。しかし、物理・化学・生物等の広い分野で高度な知見を必要とする薬学の修得には4年以上が必要であるとして、2006年度の入学者から大学6年制の薬学教育が実施され[3]、薬剤師国家試験[4]はこの過程を終了することを受験要件としている[5]

 日本では現在、医薬分業が進んでいる。

 生命・健康に直接影響する医薬や医療機器は、病気・老化等を治療・予防等しようとする人々が切実に求めるものだが、医薬品等に表示された効能の妥当性や副作用の有無がしばしば問題になる。また、人の身体を清潔にし、美化し、皮膚・毛髪を健やかに保つ等するために身体に塗擦・散布等する化粧品も、人体に危害を及ぼすことがある。

 更に、人の弱みに付け込んでニセ薬や粗悪品を売りつける犯罪行為も、後を絶たない。

 そこで、「医薬品」「医薬部外品」「化粧品」「医療機器」「再生医療等製品」を対象として、その品質・有効性・安全性の確保、これらの使用による危害の発生・拡大防止に必要な規制、指定薬物の規制[6]等を行うとともに、医療上特に必要性が高い「医薬品」「医療機器」「再生医療等製品」の研究開発の促進に必要な措置を講じて、保健衛生の向上を図ることを目的とする「医薬品医療機器等法[7]」が制定されている。

 「医薬品」「医薬部外品」「化粧品」「医療機器」等の製造・販売を行うには、厚生労働大臣の許可を必要とし、事業者の所在地の都道府県知事等を経由して許可(及び更新)の申請を行う[8]

 以下、本項では主に、一般の人が接する機会が多い「医薬品」「医薬部外品」「化粧品」について記述する[9]。これらは「医薬品医療機器等法」で次のように定義されている。

  1. (注) 厚生労働大臣の指定する医薬品・再生医療等製品・医療機器[10]は、厚生労働大臣の指定する者[11]の検定を受けて合格しなければ、販売・授与等を行ってはならない。

 

1. 「医薬品」とは、次に掲げる物をいう[12]

(1) 日本薬局方に収められている物

  1. (注) 日本薬局方
     医薬品に関する公定の品質規格書であり、「にほんやっきょくほう」と読む[13]。日本薬局方は、厚生労働大臣が医薬品の性状・品質の適正を図るために、少なくとも十年ごとに(実際には、5年ごとに実施)、全面にわたって薬事・食品衛生審議会の意見を聴いて改訂し、公示する[14]。1874年(明治7年)発布の「医制」において日本薬局方を定める方向性が示され、1877年に草案完成、1886年に内務省令をもって発布された。第1版の日本薬局方には468品目が収載された。その後、追加・削除を重ねて、第17版(平成28年)には1,962品目が収載されている[15]

(2) 人又は動物の疾病の診断、治療又は予防に使用されることが目的とされている物で、機械器具等でないもの

(3) 人又は動物の身体の構造又は機能に影響を及ぼすことが目的とされている物で、機械器具等でないもの

 

2. 「医薬部外品」とは、次に掲げる物で、人体に対する作用が緩和なものをいう[16]

(1) 次に掲げる目的のために使用される物で、機械器具等でないもの

  吐きけ・不快感・口臭・体臭の防止、あせも等の防止、脱毛の防止、育毛・除毛

(2) 人又は動物の保健のためにするねずみ・蚊等の生物の防除目的で使用されるもの

(3) 厚生労働大臣が法律の範囲で指定するもの

  1. (注) 人体への作用が緩和な殺虫剤は医薬部外品だが、毒薬・劇薬に該当して作用が強い煙や霧タイプの殺虫剤は医薬品として扱われる。

3. 「化粧品」とは、人の身体を清潔にし、美化し、魅力を増し、容貌を変え、又は皮膚若しくは毛髪を健やかに保つために、身体に塗擦、散布その他これらに類似する方法で使用されることが目的とされている物で、人体に対する作用が緩和なものをいう[17]

  1. (注) 化粧石けん、シャンプー、頭髪・基礎・メークアップ・芳香・口唇・入浴用等の化粧品。
    医薬部外品にも同様の目的をもつものがあり、目的・使用方法・成分によって区別される。

 

 次回以降、「医薬品」と「化粧品」を中心に記述するが、「医薬部外品」「医療機器」等についても同様の規制等があるので、必要に応じて関係法令を参照されたい。

  1. (例) 医薬品医療機器等法 4章〔医薬部外品他〕、5章〔医療機器・体外診断用医薬品関係〕、6章〔再生医療等製品関係〕


[1] 柴田承二「正倉院薬物第二次調査報告」正倉院紀要(年報)第20号(1998) 

[2] 富山が藩の政策で事業拡大したのに対し、大和は民間の力で行商圏が拡大した。(富山県薬業連合会「富山のくすり」、奈良県薬務課「奈良のくすりのプロフィール2」に詳しい説明がある。)

[3] 学校教育法87条2項は、医学、歯学、薬学、獣医学を6年制とする。

[4] 物理・化学・生物、衛生、薬理、薬剤、病態・薬物治療、法規・制度・倫理、実務、が必須問題試験科目とされる。(薬剤師法12条)

[5] 薬剤師法15条1号。なお、6年制薬学課程を3月下旬までに卒業する見込みの者も2月に行われる試験を受験できる。

[6] いわゆる「脱法ドラッグ」を規制する。覚せい剤取締法、麻薬及び向精神薬取締法、大麻取締法、あへん法、等による規制では限界があり、医薬品医療機器等法で広く規制して抜け道を無くした。指定薬物は、厚生労働大臣が薬事・食品衛生審議会の意見を聴いて指定する。2条15項、76条の4~77条。

[7] 「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」の略称。旧薬事法が改正(2013年〔平成25年〕11月27日)され、改題された。

[8] 医薬品医療機器等法12条〔医薬品、医薬部外品、化粧品〕、23条の2〔医療機器、体外診断用医薬品〕、21条〔都道府県知事等の経由〕、23条の2の21〔都道府県知事の経由〕

[9] 「医療機器」「再生医療等製品」は医薬品医療機器等法2条4項~9項で定義されている。

[10] 医薬品医療機器等法43条。昭和38年厚生省告示第279号は、多数の生物学的製剤(医薬品)を指定している。

[11] 生物学的製剤・抗菌性物質製剤は国立感染症研究所、その他の医薬品等は国立医薬品食品衛生研究所が「検定機関」に指定されている。(医薬品医療機器等法施行令58条、同法施行規則197条4項他)

[12] 医薬品医療機器等法2条1項

[13] 名称は、日本(江戸時代)の「和蘭局法」、中国(宋代)の「和剤局法」に由来するとされる。

[14] 医薬品医療機器等法41条1項、2項。日本薬局方に掲載されない医薬品は、製造・販売できない。

[15] ブドウ酒(アルコール系滋養強壮剤)、酸素(酸素欠乏による諸症状の改善)も収載されている。

[16] 医薬品医療機器等法2条2項

[17] 医薬品医療機器等法2条3項

 

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