◇SH0621◇シンガポール:2016年SIAC仲裁規則の改正 (2) 青木 大(2016/04/07)

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シンガポール:2016年SIAC仲裁規則の改正(2)

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 青 木   大

 

 前回に引き続き、2016年5月27日施行予定の新SIAC仲裁規則案の主要点について解説する。

 

4.仲裁人忌避についてのSIACの決定及びその理由が当事者に示されることが明確化(新第16.5条)

 SIACによる仲裁人忌避に関する決定について当事者にその理由を示すことが明確化された。これは運用上は既に行われていたところではあるが、その明文化である。

 忌避決定理由の透明性確保の要請は、近時実務家からも指摘されているところであるが、各仲裁機関の対応は現状様々である。2014年LCIA仲裁規則10.6条は、理由付きの決定を行うことを明示している。2012年ICC仲裁規則第11条第4項は、仲裁人忌避についての理由は当事者に伝達されないと規定しているが、2016年2月22日に交付されたPractice Note第11項によれば、当事者が申立を行った場合には理由が開示され得る旨規定されている。2013年HKIAC仲裁規則第11.9条はこの点明示しておらず、更に仲裁人忌避に関する2014年10月31日付けPractice Note第14項によれば、HKIACは理由を付す必要はない旨を規定している。2014年JCAA 仲裁規則第31条第5項は、決定は理由を付さずにできると規定している。

 

5.当事者代理人に係る規制(新第22条)

 当事者代理人について、本人からの授権を示す証拠の提出をSIAC又は仲裁廷が求めることができることが明確化された(新第22.1条)。また、仲裁廷構成後において代理人の追加・変更があった場合は、当事者は速やかにこれを相手方・仲裁廷・SIACに通知しなければならず、仲裁廷の公正や仲裁判断の終局性に影響を及ぼすような代理人の選定を行ってはならないことが明記された(新第22.2条)。

 いずれかの代理人と利害関係のある仲裁人は忌避の対象となるが、問題なく仲裁人が選任された後に利害関係ある代理人が選任された場合の対応の難しさが近時指摘されている。仲裁人の辞任が余儀なくされる場合があるが、そうすると仲裁手続は大幅に遅延することになる。改正案はそのような事態を未然に防ぐための新たな試みといえる。

 

6.仲裁費用の予納金の支払に関する仲裁判断(新第26条(g))

 仲裁費用については当事者が案分して予納しなければならない(新第32.2条)。被申立人が支払を行わない場合には、申立人が支払を立て替えることができるが、立替え払いをしない場合は、申立て自体が取り消される可能性がある(新第32.5条)。そうすると、申立人は被申立人が支払うべき仲裁費用についても事実上立替え払いを強いられることになるが、当該立替え払い分の請求については、新第26条(g)に基づいて仲裁判断を得ることができることが明確にされた。したがって予納金については本案の判断に先駆けて(一部)仲裁判断を求め、これについてまず速やかに執行に着手することも可能である。

 

7.仲裁廷がヒアリング又は最終主張書面の提出後30日以内に仲裁手続の終結宣言を行うことを義務化(新第30.1条)

 新第30.2条(旧第28.2条)においては、仲裁廷は手続終結後原則として45日以内に仲裁判断のドラフトをSIACに提出しなければならないこととされている。しかし、仲裁廷は手続終結宣言を先延ばしすることで、仲裁判断のドラフト提出を遅らせることが可能であり、実務上の問題点として指摘されていた。ヒアリング又は最終主張書面提出後30日以内に手続終結宣言を行うことを義務化する改正規則は、より迅速な仲裁判断ドラフト提出を仲裁廷に促すものである。

 この点、このような規定の存在にもかかわらず仲裁廷が期限内に手続終結宣言を行わなかった場合の扱いが理論的には問題となり得る。合意された仲裁規則の不遵守は仲裁判断執行拒絶事由となり得るからである(ニューヨーク条約第5条第1項(d))。SIAC仲裁規則第2.5条は、SIACがいかなる期間もいつでも延長できる権限を有すると定めており、SIACが期限の延長を認めることで執行拒絶事由該当性を回避することが考えられるが、常にそのような形で救済されるということになれば、逆に新第30.1条の実効性に疑問が生じることにもなる。難しい問題である。

 なお、仲裁判断ドラフト提出の遅延については他の仲裁機関も頭を悩ましている問題であり、ICCは仲裁判断ドラフトの提出が遅れた場合に仲裁廷の報酬を一定割合で減額する方針を2016年初頭に表明している。

 

8.緊急仲裁判断の期限を原則緊急仲裁人の選任後14日以内とすることを明確化(緊急仲裁人に関するSchedule 1第8項)

 従前からも、緊急仲裁人選任後、通常ほぼ2週間以内に緊急仲裁判断が下されるのが実務的な傾向であったが、これが明文化される。ICC、HKIAC、JCAAの各仲裁規則は類似の期限を既に定めている。

 

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