SH4533 Legal as a Service (リーガルリスクマネジメント実装の教科書) 第8回 全員内職中? 法務部門の定例会議を意味ある会議へ 渡部友一郎/東郷伸宏(2023/07/06)

そのほか法務組織運営、法務業界

Legal as a Service (リーガルリスクマネジメント実装の教科書)
第8回 全員内職中? 法務部門の定例会議を意味ある会議へ

Airbnb Japan株式会社
渡 部 友一郎

合同会社ひがしの里・セガサミーホールディングス株式会社
東 郷 伸 宏

 

リーガルリスクマネジメントの教科書 バックナンバー

 

©弁護士・グラフィックレコーダー 田中暖子 2023 [URL]

 

1 共通の悩みの特定

 突然ですが、皆様の現在・過去所属していた法務部門や法律事務所では、週1回または月1回、定例会議が行われていましたか? もし行われていた場合、法務部門等の定例会議は学びのある時間でしたか?それとも、他のメンバーが各自行っている報告を聞いた気もするけど記憶に残っていない学びの少ない時間でしたか?

 今回は、法務部門のリーダー・管理職・メンバーその地位を問わず(結局、各自内職をしているような意義の乏しい)時間泥棒になっている「法務部門の定例会議」について、どのように活性化できるかという共通の悩みを一緒に考えたいと思います。

 

2 共通の悩みの分析

 はじめに、この「法務部門の定例会議」ですが、30分の会社もあれば、60分、中には90分以上のお時間を取って、法務部長以下全員が基本的に集まり、各自の担当案件を報告したり、部長から有難いお話があったり、コンテンツも形式も千差万別であると思います。

 ところが、この「法務部門の定例会議」について「学びの場になっていますか?」という点から光を当てると、少なくない法務部門のリーダー・管理職・メンバーその地位を問わず、学びの場ではないような気がする、と感じている可能性があります。

 フェアに言えば、定例会議は、法務部門のメンバーがどのような案件をやっているかを知る「案件報告会」であり、別にもともと学ぶ場ではない、という考え方もできます。各自または各グループが案件を報告する定例会は多かれ少なかれ次のような会話が想像できます。

 

法務部門の定例会議テンプレ

法務部長「それでは、今週(今月)の定例会議を始めたいと思います。」

司会「はじめに、部長から、各メンバーに共有です。」

法務部長「人事からメールが来ているとおり、期末評定の時期ですので、各リーダーに自己記入シートを◯日までに提出してください。」

司会「次に、◯◯さん・◯◯グループ、お願いします。」

指名された人・グループ「今週は、引き続き、△△の案件を進めています。また、先週、◯◯という案件が新件として入りましたので、XXX部と連携して対応しています。」

司会「ありがとうございます。質問はございませんか。特にありませんね。」

司会「次に、◯◯さん・◯◯グループ、お願いします。」

指名された人・グループ「以下同じ」

 

 たしかに、この形式では、他のグループが何をやっているかという気付きは得られても、学びはあまり多くありません。

 また、質疑応答においても、積極的に質問する人はだいたい同じ人ばかりで、細かすぎる案件の質疑応答は、逆に、オフラインで(会議外で個別に)やってほしいという空気感が生じるようなケースもあります。翻せば、細かい話はいいから、早く全体状況をさらっと共有して、会議を終わらせようという無意識の現れかもしれません。

 

3 共通の悩みの評価

 この「法務部門の定例会議」をより意味のある会議へ変貌させたいという悩みは、2つの意味で時宜に叶っていると思います。

 第1に、タイパ(タイムパフォーマンス)を重んじる若い世代や効率的な仕事を求めるメンバーからは、単に各自が情報を羅列しているような情報共有の場であれば、メールでも足りると考えるかもしれません。この考え自体は一応合理的なものと思われます。

 第2に、新型コロナの状況においてオンラインの定例会議を経験したメンバーは、画面をオフにして、基本的には内職をしながら定例会議をラジオの如く「流し聞き」できることを体験してしまいました。関連する情報は耳を澄まして、関係なさそうな情報は適当に、そのように60分または90分を効率的に(慢性的に多忙な)業務処理へあてることができました。

 新型コロナが一段落して世間が落ち着きを取り戻す中、新型コロナ以前の、とりあえず毎週・毎月集まって30−90分お話するという会議に対し、同調圧力から皆言い出せないとしても、「なぜやるの?」という疑問を抱えてモヤモヤしているメンバーもいるかもしれません。

 もし、「法務部門の定例会議」をより意味のある会議へ変貌させるという悩みを、新しいカタチづくりに上手に役立てることができれば、法務部門の定例会議は活性化し、意味のある形で存続していくでしょう。

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(わたなべ・ゆういちろう)

鳥取県鳥取市出身。2008年東京大学法科大学院修了。2009年弁護士登録。現在、米国サンフランシスコに本社を有するAirbnb(エアビーアンドビー)のLead Counsel、日本法務本部長。米国トムソン・ロイター・グループが主催する「ALB Japan Law Award」にて、2018年から2022年まで、5年連続受賞。デジタル臨時行政調査会作業部会「法制事務のデジタル化検討チーム」構成員、経済産業省「国際競争力強化に向けた日本企業の法務機能の在り方研究会」法務機能強化実装WG委員など。著書に『攻めの法務 成長を叶える リーガルリスクマネジメントの教科書』(日本加除出版、2023)など。

 

(とうごう・のぶひろ)

金融ベンチャー役員を経て、2006年サミー株式会社に入社。以降、総合エンタテインメント企業であるセガサミーグループの法務部門を歴任。上場持株会社、ゲームソフトウェアメーカー、パチンコ・パチスロメーカーのほか、2012年にはフェニックス・シーガイア・リゾート(宮崎県)に赴任。部門の立ち上げから、数十名規模の組織まで、多種多様な法務部門をマネジメント後、2022年には組織と個人の競争力強化を目的とする合同会社ひがしの里を設立。2023年からはセガサミーグループにおける内部監査部門を担当。

 

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