人的資本経営の実践と情報開示の実務対応
第1回:人的資本政策の狙い
日比谷タックス&ロー弁護士法人
弁護士 堀 田 陽 平
第1部 総論
第1回:人的資本政策の狙い
【今回の狙い】 連載第1回では、我が国企業を取り巻く環境変化から、人材版伊藤レポート、ひいては昨今の人的資本政策の狙いについて解説します。
【今回の主なターゲット】
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1 本連載の開始にあたって
この度、人的資本経営の実践と情報開示の実務対応の解説を連載させていただく機会をいただきました。
昨今、「人的資本」、「人的資本経営」等の字句を新聞等で見かける機会が増えています。しかし、「人的資本」という言葉が抽象的であることもあり、人的資本政策立案の一端を担った者から見ると、様々な立場から自らのビジネスに都合よく人的資本に関する断片的な解説がなされているように見受けられます。その結果、人的資本に関する情報が錯綜し、企業担当者からは困惑の声も聞かれるところです。
そこで、本連載では、2020年9月まで経済産業省経済産業政策局産業人材政策室(当時。今は「産業人材政策課」)に任期付き職員として着任し、昨今の人的資本政策の火付け役となった「人材版伊藤レポート」の策定を担当した筆者が、人的資本政策の狙い、人的資本経営の実践、そして人的資本の情報開示の対応について解説していきます。
これから本連載で解説していくとおり、人的資本政策に対応するためには、人事担当部門だけでなく、取締役会、取締役会事務局、経営企画部門等の経営戦略部門、有報の開示等のIR部門、サステナビリティ部門等の複数の部門で部門横断的に協同する必要があります。そのため、各回の冒頭に、各回の狙いと各回で主なターゲットとなる部門を予め示しますので、参考にしてください(もちろん、全てお読みいただくことも歓迎です。)。
なお、本連載は、経済産業省での執務経験を踏まえた筆者の個人の見解に基づくものであることにご留意ください。
2 我が国企業を取り巻く環境変化
⑴ 「人的資本」は新商品にあらず
今でこそ「人的資本」という言葉は急激に知られるようになりましたが、「人的資本」という考え方は、ここ数年で初めて出てきた考え方ではなく、「人的資本」自体はかねてから議論されてきた概念です。
そうした中で、なぜ、政府が今「人的資本」という言葉に着目し、政策を展開しているのかを理解することが、企業が人的資本政策に適切に対応するために重要となります。
そこで、まず現在進められている人的資本政策の始まりとなった人材版伊藤レポートが前提とする課題意識を説明します。
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(ほった・ようへい)
2016年弁護士登録(第69期。第二東京弁護士会)。2017年鳥飼総合法律事務所入所。
2018年7月現在の事務所へ移籍。2018年10月から経済産業省経済産業政策局産業人材政策室(当時。現在は「課」)に任期付き職員として着任。
経済産業省では、兼業・副業の推進、テレワークの推進、フリーランス政策等の柔軟な働き方に関する政策立案や、人材版伊藤レポートの策定等の人的資本経営の推進に関する政策立案等に従事。経済産業省から帰任後も人的資本経営の実践・開示に関するセミナーや寄稿を行う。