SH4592 AI等による契約支援サービスの提供は非弁行為かの議論について、法務省がガイドラインを公表 中崎尚(2023/08/18)

そのほか契約書作成・管理法務組織運営、法務業界

AI等による契約支援サービスの提供は非弁行為かの議論について、
法務省がガイドラインを公表

アンダーソン・毛利・友常法律事務所*

弁護士 中 崎   尚

 

1 はじめに

 リーガルテックでも特に弁護士法第72条(非弁行為)との関係で着目されてきたのが、AI等を用いて契約書等(契約書、覚書、約款その他名称を問わず、契約等の法律行為等の内容が記載された文書又はそれらの内容が記録された電磁的記録をいう。以下同じ。)の作成・審査・管理業務を一部自動化することにより支援するサービス(以下これらを総称して「AI契約審査サービス」という。)の提供である。

 弁護士法第72条は「弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない」と定めている。たとえば、弁護士でない者が報酬を得る目的で、訴訟など法律上の権利義務に争いのある法律事件について、法律上の専門知識に基づき法律的見解を述べる「鑑定」を「業とする」場合は、弁護士にしか許容されず、弁護士以外が行えば、2年以下の懲役または300万円以下の罰金に処せられる。AI契約審査サービスを巡っては、「報酬を得る目的」で「法律事件」に関してこの「鑑定(略)その他の法律事務」を行うものであり、弁護士法に抵触する可能性があるのではないかとの批判が出ていた。

 

2 これまでの法務省の見解

 AI契約審査サービスと弁護士法の関係をめぐる議論は、2022年10月14日に公表された、グレーゾーン解消制度の照会結果で大きく動いた。ある事業者(企業名は非公表)が、契約書の記載内容が利用者にとって法的に有利か不利かをAIを用いて審査し、結果を表示するサービスが弁護士法第72条に違反しないかどうかの確認を求めたところ、法務省から「弁護士法第72条本文に違反すると評価される可能性があると考えられる」と回答が示された。[1]この回答をもって、AI契約審査サービスが「グレー」であるとした報道が相次いだ。既存のAI契約審査サービスについても「グレーなのではないか」とした風評が広がった。

 こうした事態を受け、2022年11月11日の内閣府・規制改革推進会議スタートアップ・イノベーションワーキング・グループ第2回会議において、事業者と専門家に対するヒアリングがなされ、法務省の見解が示された。[2]ここで、法務省は国内ですでに提供されているAI契約審査サービスは弁護士法第72条に違反しないとの見方を示した。具体的には、既存のAI契約審査サービスはあらかじめ登録されているひな型の条項などと審査対象の契約書に異なる部分があれば、その部分を審査対象の契約書の意味や内容と無関係に強調表示するため、「鑑定」に当たらないとする見解であった。また、法務省は、事業者側のリクエストを受けて、ガイドライン作成を「検討」する姿勢を示していた。

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(なかざき・たかし)

アンダーソン・毛利・友常法律事務所スペシャルカウンセル。東京大学法学部卒、2001年弁護士登録(54期)、2008年米国Columbia University School of Law (LL.M.)修了、2009年夏まで米国ワシントンD.C.のArnold & Porter法律事務所に勤務。復帰後は、インターネット・IT・システム関連を中心に、知的財産権法、クロスボーダー取引を幅広く取扱う。日本国際知的財産保護協会編集委員、経産省おもてなしプラットフォーム研究会委員、経産省AI社会実装アーキテクチャー検討会作業部会構成員、経産省IoTデータ流通促進研究会委員、経産省AI・データの利用に関する契約ガイドライン検討会委員、International Association of Privacy Professionals (IAPP) Co-Chairを歴任。2022年より内閣府メタバース官民連携会議委員。

 

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