オンライン発送制度の見直し
(令和5年6月14日公布の改正法、3年以内に施行)
アンダーソン・毛利・友常法律事務所*
弁理士 小笠原 洋 平
1 はじめに
工業所有権に関する手続等の特例に関する法律(以下「特例法」という。)により特許、商標、意匠等に関する申請人や代理人は特許庁に対し書面に代えてオンラインにより手続を行うことができる。オンラインにより手続をする場合、特許庁からの発送書類をオンラインで受け取れる。しかしながら、申請人が何らかの事情によりオンラインで受け取らない場合、現行のオンライン発送システム上では送達の効力が確定しない。このため今回オンライン発送制度が見直された[1]。改正法施行により、特許庁が受付サーバにアップロードした後、一定期間経過しても発送書類を受け取らない申請人に対して、当該期間経過後に書類が到達したものとみなす制度が導入される[2]。さらに当該申請人への郵便による紙発送が廃止される[3]。このため申請人として気づかぬまま応答期間や不服申立て期間を失う可能性もあることから、令和8年(2023年)3月に予定される新システムのリリースまでの間に、オンライン手続の利用者は確実なオンライン書類受け取りの業務体制を整えることが求められる。
2 現行のオンライン発送制度と課題について
特許庁から、申請人に送達しなければならない書類[4]は、郵便により紙発送を行うことが原則である[5]。特例法では、これら書類を含む特許等関係法令の規定による通知または命令であって経済産業省令で定めるもの(以下「特定通知等」という。)について、電子情報処理組織を使用してオンライン発送できる旨を規定している[6]。
現行のオンライン発送の手順は、以下のフロー図に示される通りである。まず特許庁の受付サーバには、特許庁により発送書類がアップロードされる。ここで①オンライン発送を選択している申請人[7]は、特許庁が提供するコンピューターソフト(以下「出願ソフト」という。)を通じ定期的に発送書類の存在を確認し、②オンライン発送システム上で発送を待機している書類の件数の通知を受け、③受取件数を指定し、④発送書類の送信を受ける。特例法では、申請人のコンピューター上のファイルに記録がされた時に相手方に到達したものとみなしている[8]。このため、⑤出願ソフトにより受領確認通知がオンライン発送システムに送信されることで、申請人に書類が到達したことを特許庁が確認できるようになる。この時点でみなし発送日が確定し、応答や申立ての期間が進み始める。
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(おがさわら・ようへい)
アンダーソン・毛利・友常法律事務所弁理士。2007年総合研究大学院大学大学院生命科学研究科遺伝学専攻(理学博士)修了。2007-2009年博士研究員。2009-2022年特許事務所勤務。2015年弁理士登録。特許関連案件を専門に取り扱う。専門技術分野は、遺伝子工学、医薬、食品、微生物、再生医療、蒸留・抽出、電池、光学デバイス等。
アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業 https://www.amt-law.com/
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