SH4631 総務省、「消費者保護ルールの在り方に関する検討会報告書2023」を公表 加納さやか/杉秋甫(2023/09/21)

取引法務消費者法

総務省、「消費者保護ルールの在り方に関する検討会報告書2023」を公表

アンダーソン・毛利・友常法律事務所*

弁護士 加 納 さやか

弁護士 杉   秋 甫

 

1 はじめに

 令和5年8月31日、総務省は「消費者保護ルールの在り方に関する検討会報告書2023[1]」(以下「本報告書」という。)を公表した。近年、電気通信サービスはわれわれの日常生活および社会経済活動に不可欠なものとなっている。そのような状況を受け、総務省は、消費者保護ルールの在り方について不断の検証・見直しを行うことを目的として、大学教授等を中心とするメンバーで構成された、本報告書の報告主体である「消費者保護ルールの在り方に関する検討会」を結成し、定期的に消費者保護ルールの施行状況および効果の検証ならびに課題への対応等について報告を行い、消費者が安心・安全に電気通信サービスを利用できる環境の確保として、消費者がサービス内容を理解し、契約の必要性を判断できるよう、数回の電気通信事業法の改正を通じて、消費者保護ルールの強化や各種制度の整備を進めてきた。

 令和元年改正電気通信事業法(以下「令和元年改正法」という。)では、消費者保護ルール関係の規律として、①電気通信事業者・販売代理店の勧誘の適正化(下記)、②販売代理店への届出制度の導入(下記)および③利用者の利益の保護のため支障を生ずるおそれがある行為の禁止(下記)が導入され、その附則6条において、「政府は、この法律の施行後3年を経過した場合において、この法律による改正後の規定の施行の状況について検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとする」と定められた。同附則に従い、本報告書は、「消費者保護ルールの在り方に関する検討会」の活動の一環として、令和元年改正法による消費者保護ルールの強化策および販売代理店の届出制度の評価について報告するものである。

 そこで、本稿では、令和元年改正法において導入された主な規律について概説したうえで、報告書から読み取れる今後電気通信事業者・販売代理店が留意すべき事項を論ずる。

 

2 ①電気通信事業者・販売代理店の勧誘の適正化

電気通信事業者・販売代理店は、電気通信役務の提供に関する契約の締結の勧誘に先立って、その相手方に対し、自己の氏名若しくは名称又は勧誘である旨を告げずに勧誘する行為をしてはならない(電気通信事業法27条の2第2号、73条の3)。

違反は業務改善命令の対象となる(電気通信事業法29条2項1号)。

 令和元年改正法施行前の2017年における全国消費生活情報ネットワークシステム(PIO-NET)と総務省に寄せられる苦情においては、最も多い苦情の発生時期が「契約締結前の勧誘段階」であったこと、最も多い苦情の発生要因が「不実告知または事実不告知」であったこと等から、勧誘主体等について誤解を与える勧誘および勧誘目的であることを明示しない勧誘が存在していたことが原因の一つであると考えられ、令和元年改正法において勧誘時の禁止行為を定める運びとなった。

 本報告書によれば、令和元年改正法の施行により、2021年度における苦情においては、発生時期のうち「契約締結前の勧誘段階」は40.9%、発生要因のうち「不実告知または事実不告知」は25.5%と、いずれも順位を下げており上記のような勧誘時の課題は改善の兆しを見せている[2]。本報告書では、この結果を受けて、総務省は引き続き実態を注視し、不適切事例があれば執行強化を行うことや、電気通信事業者・販売代理店の更なる自主的取組を促すことを通じて法遵守の徹底を図るべきである旨を提言している。

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(かのう・さやか)

アンダーソン・毛利・友常法律事務所パートナー。2008年東京大学工学部建築学科卒業。2011年東京大学法科大学院卒業。2012年弁護士登録(第二東京弁護士会)。専門は企業法務、eスポーツ/ゲーム、エネルギー。主な業務として企業の買収・合併・分割等のサポートや、企業の取引・規制等に関する助言を行っている。

 

(すぎ・あきほ)

アンダーソン・毛利・友常法律事務所アソシエイト。2016年早稲田大学人間科学部卒業。2019年東京大学法科大学院卒業。2020年弁護士登録(第一東京)。国内外の競争法当局に対する企業結合届出のサポートの案件を取り扱っている。

 

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