公正取引委員会による独占禁止法上の「優越的地位の濫用」に係る
コスト上昇分の価格転嫁円滑化の取組に関する特別調査の結果について
アンダーソン・毛利・友常法律事務所*
弁護士 石 田 健
弁護士 二 村 尚 加
1 はじめに
公正取引委員会(以下、「公取委」という。)は、2022年12月27日に公表した「独占禁止法上の『優越的地位の濫用』に関する緊急調査の結果」等において価格転嫁円滑化に向けた調査等を継続するとしていたところ、2023年5月30日付けでコスト上昇分の価格転嫁が適切に行われているかなどの状況を把握するためのさらなる調査として、調査票などにより特別調査を実施することを公表した。[1]
公取委は、上記緊急調査等を踏まえ、また、同緊急調査において注意喚起を行った4030名および多数の取引先に対する協議を経ない取引価格の据置き等が認められたとして事業者名を公表した13名の価格転嫁円滑化に関する取組みに関するフォローアップを行うため、2023年度「独占禁止法上の『優越的地位の濫用』に係るコスト上昇分の価格転嫁円滑化の取組に関する特別調査」(以下「特別調査」という。)を実施し、2023年12月27日、その結果を取りまとめた[2](以下、「2023年12月27日取りまとめ」という。)。
2 特別調査の手法
まずはじめに公取委は、2023年5月頃、調査対象期間を2022年6月から2023年5月までとし、主に39業種の事業者11万名に対し、コスト上昇分の価格転嫁が適切に行われているかなどについて、受注者・発注者の双方の立場での回答を求めた。同時期において、すでに注意喚起対象となっていた4030名の事業者に対し、コスト上昇分の価格転嫁が適切に行われているかなどについて、発注者の立場での回答を求めた。
その後2023年8月頃、第1回書面調査において、価格転嫁の必要性を明示的に協議することなく取引価格を据え置いているとして受注者から名前の挙がった発注者等3064名に対し、コスト上昇分の価格転嫁が適切に行われているかなどについて、発注者の立場での回答を求める調査票を発送した。その後、これらの調査結果を踏まえ、価格転嫁に関する下記の①または②に該当する行為が疑われた発注者に対する立入調査(349件)および2022年12月27日に事業者名を公表した13名に対する聴取等のフォローアップ調査を実施した。
- ① 労務費、原材料価格、エネルギーコスト等のコストの上昇分の取引価格への反映の必要性について、価格の交渉の場において明示的に協議することなく、従来どおりに取引価格を据え置くこと
- ② 労務費、原材料価格、エネルギーコスト等のコストが上昇したため、取引の相手方が取引価格の引上げを求めたにもかかわらず、価格転嫁をしない理由を書面、電子メール等で取引の相手方に回答することなく、従来どおりに取引価格を据え置くこと
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(いしだ・たけし)
アンダーソン・毛利・友常法律事務所パートナー。2007年弁護士登録(第二東京弁護士会)。2015年から3年間にわたり任期付職員として公正取引委員会審査局第四審査において審査専門官(主査)を務める。公取委において違反事件の審査・審判・訴訟を担当した経験を活かし、現在は独禁法(下請法・景表法含む)に関する幅広い案件を扱っている。
(にむら・なおか)
アンダーソン・毛利・友常法律事務所アソシエイト。2020年中央大学法学部卒業。2022年弁護士登録(第二東京弁護士会)。
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