SH4859 最一小決 令和5年10月19日 訴訟救助付与申立て却下決定に対する抗告審の取消決定等に対する許可抗告事件(堺徹裁判長)

そのほか

最一小決 令和5年10月19日 訴訟救助付与申立て却下決定に対する抗告審の取消決定等に対する許可抗告事件(堺徹裁判長)

 

【判示事項】

1 共同して訴えを提起した各原告の請求の価額を合算したものを訴訟の目的の価額とする場合において、訴え提起の手数料につき各原告に対する訴訟上の救助の付与対象となるべき額
2 共同して訴えを提起した各原告の請求の価額を合算したものを訴訟の目的の価額とする場合において、各原告につき民訴法82条1項本文にいう「訴訟の準備及び追行に必要な費用」として考慮すべき訴え提起の手数料の額

 

【決定要旨】

1 共同して訴えを提起した各原告の請求の価額を合算したものを訴訟の目的の価額とする場合において、訴え提起の手数料につき各原告に対する訴訟上の救助の付与対象となるべき額は、上記訴訟の目的の価額を基礎として算出される訴え提起の手数料の額を各原告の請求の価額に応じて案分して得た額に限られる。
2 共同して訴えを提起した各原告の請求の価額を合算したものを訴訟の目的の価額とする場合において、各原告につき民訴法82条1項本文にいう「訴訟の準備及び追行に必要な費用」として考慮すべき訴え提起の手数料の額は、上記訴訟の目的の価額を基礎として算出される訴え提起の手数料の額を各原告の請求の価額に応じて案分して得た額である。

 

【参照法条】

 (1、2につき)民訴法9条1項本文、82条1項本文、民事訴訟費用等に関する法律4条1項、9条3項柱書き
(1につき)民訴法83条1項1号

 

【事件番号等】

令和5年(許)第1号 最高裁判所令和5年10月19日第一小法廷決定 (民集77巻7号登載予定) 破棄差戻

原 審:令和3年(ラ)第35号 広島高裁岡山支部令和4年10月7日決定 
原々審:令和2年(モ)第89号 岡山地裁令和3年3月10日決定

 

【判決文】

https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=92442

 

【解説文】

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1 事案の概要

 本件は、豪雨災害により被った各自の損害につき、Yほか3名に対して損害賠償金の連帯支払を求める訴えを共同して提起したXらが、訴訟救助を申し立てた事案である。原々審は、資力要件(民訴法82条1項本文)を欠くことを理由に上記の申立てを却下したことから、Xらが即時抗告をした。

 訴え提起手数料につき各原告に対する訴訟上の救助の付与対象となるべき額等が問題となった。

 

2 原決定

 原審は、共同して訴えを提起した各原告の請求の価額を合算したものを訴訟の目的の価額とする場合には、各原告は上記訴訟の目的の価額を基礎として算出される訴え提起手数料の全額を各自納める義務を負うから、訴え提起手数料につき訴訟上の救助の付与対象となるべき額は、いずれの原告についても上記全額であり、そうすると、民訴法82条1項本文所定の費用として考慮すべき訴え提起手数料の額は、いずれの原告についても上記全額であり、これを前提に審理を尽くすべきであるとして、原々決定を取り消し、原々審に差し戻した。

 そこで、Yが、抗告許可の申立てをし、許可された。

 

3 本決定

 最高裁第一小法廷は、①共同して訴えを提起した各原告の請求の価額を合算したものを訴訟の目的の価額とする場合において、訴え提起手数料につき各原告に対する訴訟上の救助の付与対象となるべき額は、上記訴訟の目的の価額を基礎として算出される訴え提起手数料の額を各原告の請求の価額に応じて案分して得た額に限られる、②上記の場合において、各原告につき民訴法82条1項本文にいう「訴訟の準備及び追行に必要な費用」として考慮すべき訴え提起手数料の額は、上記のとおり案分して得た額であると判示し、原決定を破棄して、本件を原審に差し戻した。

 

4 説明

 ⑴ 訴えを提起するには、訴訟の目的の価額(訴額)に応じて所定の計算方法により算出して得た額の手数料を納めなければならない(民事訴訟費用等に関する法律(以下「費用法」という。)3条1項、別表第1の1項)。同項所定の訴え提起手数料の計算方法は、いわゆる手数料逓減制が採用されており、訴額が高くなるほど、手数料の加算率は低くなるように定められている。したがって、一つの訴えで数個の請求をする場合(客観的併合及び主観的併合のいずれも含む。)、原則として各請求の価額を合算したものが訴額となり(合算法則。民訴法9条1項本文)、個々の請求ごとに手数料を算出してこれを合算するより、手数料が低額になる。そして、訴額について合算法則が適用される場合、各請求についての手数料の額は、手数料総額を各請求の価額に応じて案分して得た額に逓減されている関係にある(内田恒久ほか『民事訴訟費用等に関する法律・刑事訴訟費用等に関する法律の解説』(法曹会、1974)133頁)。上記の考え方は、手数料の還付について規定した費用法9条3項柱書きにいう「納めるべき手数料の額」に現れている。

 もっとも、数人の共同申立てに係る手数料にあっては、共同申立人は、各自申立手数料の全額の納付義務を負うと解されており、現実に納められた手数料は、各請求に対しその価額に応じて配分されている関係にあり、全額が納付されない限り、全ての請求に未納があることになり、全ての請求は不適法であると解されている(前掲・内田138頁)。

 ⑵ 以上を前提として、合算法則が適用される訴えの主観的併合の場合、訴え提起手数料につき各原告に対する訴訟上の救助の付与対象となるべき額が、上記のとおり案分して得た額と解すべきであるか、あるいは上記全額と解すべきであるかが問題となった。

 本決定は、前者の見解をとったものであり、このように解することが、一つの訴えで数個の請求をする場合に手数料を請求ごとに観念する費用法の考え方(9条3項柱書き、4項)に沿うと考えられる。

 また、原決定のように解すると、訴え提起手数料につき一部の共同原告に対して訴訟上の救助を付与する決定がされた場合、同決定が、訴訟上の救助が付与されていない他の共同原告にいかなる影響を及ぼすか問題となる。仮に他の共同原告との関係でも、訴え提起手数料が全額納付されたのと同様の効果が生ずるとすると、救助の要件を満たしていない他の共同原告を不当に利することになり、正当な権利を有する可能性がありながら無資力のために十分な保護を受けられない者を社会政策的な観点から一身専属的に救済するという訴訟救助の制度趣旨に反すると思われる。

 ⑶ 一方、本決定のように解すると、訴え提起手数料につき一部の共同原告に対して訴訟上の救助を付与することは、救助の範囲を限定するいわゆる一部救助決定と同様のものとみることができる。

 訴え提起手数料につき一部の共同原告に対して訴訟上の救助を付与した場合、本決定の見解によれば、救助を付与されていない他の共同原告は、救助を付与された原告の案分割合を除く割合の額を納付する義務を負うことになる。そして、その額が納付されない場合は、たとえ他の共同原告が訴えを取り下げても、救助を付与された原告の請求に係る訴えも不適法となり、訴状(又は訴え)の全部は却下されることになると考えられる。なぜなら、訴額の合算法則により各請求について訴え提起手数料が逓減されるのは、併合して同時に審判することによって、各別に審判するより裁判所の提供する役務の量が少なく済むという理由に基づくものであると解されるから、併合審理を前提とせずに、上記逓減された額の訴え提起手数料の納付で足りると考えることはできないからである(なお、最二小判平成27・9・18民集69巻6号1729頁は、訴えに係る金銭債権の数量的な一部に対応する訴え提起手数料について一部救助決定がされた事案であるが、その一部救助決定においては、救助を付与する訴え提起手数料の具体的な額は、請求債権を上記の数量的な一部に限定した訴えが当初から提起されていた場合と同様の方法で算出されている点で本件と異なる(最高裁判所判例解説民事篇平成27年度(下)447頁〔大森直哉〕)。)。

 上記のような考え方に対しては、訴え提起手数料につき訴訟上の救助を付与された原告については、他の共同原告の納付の有無を問わず、訴えを適法なものとして手続を進めるべきではないかとの反論も考えられる。しかし、訴訟救助は、訴訟費用の支払を免除するものではなく、猶予するものにすぎないから、訴訟救助決定が効力を失った場合(例えば、受救助者である原告の全部敗訴の判決が確定し、かつ、当該原告に訴訟費用を全部負担させる旨の裁判が確定した場合)、受救助者は、猶予された費用の支払を命じられるところ(民訴法84条)、その場合、原決定の見解に立つと、訴訟上の救助を付与された原告のみが訴え提起手数料の全額の支払を命じられることになり、かえって不利益を被りかねない。本決定の見解によれば、訴訟上の救助を付与された原告は、他の共同原告が訴え提起手数料を納付しないことで、自己の訴状(又は訴え)も却下されるという不利益を受けるが、自らあえて訴えの主観的併合という方法をとった以上、そのようなリスクは甘受すべきであり、改めて単独で訴えを提起すれば、訴訟上の救助を付与されることは可能であるから、結論は不当ではないと思われる。

 ⑷ 訴訟上の救助の付与対象となるべき訴え提起手数料の額を上記のとおり解したとしても、資力要件を判断するに当たって考慮すべき訴え提起手数料の額をいかに解すべきかについては、別途検討する必要がある。現行民訴法は、裁判を受ける権利を行使するためには、弁護士等に委任して訴訟を追行しなければならない場合もあることを考慮し、資力要件の判断に当たっては、救助決定の効果の及ばない弁護士費用や調査費用等も考慮することが相当であるとして、訴訟救助の要件を拡大した。もっとも、各原告は、共同して訴えを提起することなく個別に訴えを提起したとしても訴訟上の救助の付与を受けることができる以上、他の共同原告の請求に係る訴え提起手数料の支払を要することを前提に各原告につき訴訟救助による救済を図る必要性はないと考えられる。したがって、本決定は、資力要件の判断に当たって考慮すべき訴え提起手数料の額も、上記のとおり案分して得た額であると解したものと考えられる。

 ⑸ 本決定は、合算法則が適用される訴えの主観的併合の場合における訴え提起手数料についての訴訟救助の考え方に関し、当審が初めて判断したものであり、理論的にも実務的にも重要な意義を有すると考えられる。

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